採集スキルしかない冒険者

kitatu

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 ガイストを倒してから俺は、ギルドで依頼を受け支度金を作り、今日の早朝に街を出た。

 ガイストとその取り巻きはあの後、怪我をして弱っている隙にと衛兵に捕らえられたらしい。元々、衛兵たちはガイストの強さに恐れているだけで捕まえる案件はあったそうだ。

 冒険者ギルドも新たなBランク冒険者がギルドに加入する予定が最近できたらしく、これ幸いにとガイストに届いていた被害届からガイストに慰謝料を請求し、払えなくなったガイストは奴隷落ちした。

 そのため、冒険者ギルドもガイストの一派がいなくなり、秩序が保たれるようになったと喜ぶ人は多く、後日、ギルドに残ってくれと色んな人から頼まれたが、俺の気持ちは変わらず街を出たのであった。

 街を出てから休憩もなしに歩き、目的の街までほんの少しの所まで来た。その為、つかれからか何も無い丘の上に立つ一本の木の下で二人並んで座り込んでいた。

 容赦なく照りつける日差しをどうにか地面に漏らさないようにする木の葉に感謝して、水筒の水を飲む。隣では、足を真っ直ぐに伸ばしてパタパタと足を鳴らすツクモはパンにかぶりついていた。

 ライ麦の香りをさせた顔くらいのパンに逆に食べられているようにも見える。そんな馬鹿なことを考えていると、ツクモはふと顔をあげて尋ねてくる。

「ねぇ、レクト。次はどこへ行くの?」

「とりあえずさ。アイリの行方が分からないから、情報の集まる王都へ行ってみようと思うよ」

「ふーん。美味しい物があるといいな」

 未だにパンを食べているというのに、次の食べ物のことを考えるとは食に卑しい本である。

 ツクモは美味しいものさえ食べられればそれでいいので扱い易いといえば扱い易い。 
 王都にも文句の一つも言わずについて来てくれそうだ。

 王都は自分の居る街から遠く、王都に行くには馬車が必要である。しかし、今の自分は一介の冒険者にすぎず、王都まで行くお金もない。だから、次の街で行商の護衛として王都へ行きたいと考えているのだが……。

「なんか、レクト表情が暗いな」

 ツクモが少し小さくなったパンから、目を覗かせて見つめて来た。自分が浮かない気持ちであることを悟ったのだろう。

「ああ。俺が貴族の時に婚約者だった女の子のいる街に寄らなきゃいけないからね」

「ふ~ん。まあ、レクトが嫌ならわざわざ行かなくていいんじゃない?」

「そういう訳にも行かないよ」

 俺の元婚約者、シャルロッテの領地は栄えており、王都へ行く行商もたくさん行き来している。護衛をしたいと言っても簡単に雇ってもらえる行商など殆ど無いので、数を打たなければいけない。だから、王都へ行くにはシャルロッテのいる街へと行かなければならないのだ。

 それに何より、結局、自分の弱さからアイリに対して言葉を伝えられなかったのだ。元婚約者程度に腰が引けているようじゃ、アイリに面と向かって気持ちを告げる勇気なんてありっこ無いのだ。

「まあ、私はご飯さえ食べられればそれでいいけどね~」

 能天気な声で、軽く言ったツクモを見て、なんだか気持ちが軽くなった気がした。

「さあ、動くぞツクモ」

「ええ~嫌だけど」

「早く街に着けば、美味しい料理店にでも行こうよ」

「遅い。何してるの遅い。正直遅すぎる」

 そう言ってツクモは遠くに見える赤い屋根とレンガの街並みに向けて、丘を駆け下りて行った。

 本当に扱い易い少女だ。


 街に降りて、ツクモと食事を終えると、日は既に傾いていた。夕焼けに照らされて建物の赤いレンガは青紫の影を落とす。

 そんな影からは子供達が家の脇から出たり入ったりと鬼ごっこを楽しみ、道を歩く仕事帰りの人々の顔には充実感からか晴れやかである。

 いつ来ても気持ちのいい街だ。人々に活気がある。これも領主の手腕によるものが大きいだろう。

「皆楽しそうだね。でも、なんだか目がギラギラしすぎてる人も結構見るんだけど」

 ツクモにそう言われて辺りをもう一度見直すと、確かに目の中に炎を飼っているようかの目をした男たちが早足で家路についていた。

「確かに結構いるな。前はこんなことなかったのに何でだろう?」

「まあ、良いんじゃない。商隊さえ見つかれば明日にでも去るんだから。それより私は早く寝たい」

 そう言ってツクモは、まだ日は落ちきっていないというのに大きなあくびをした。

 俺はツクモの言葉にまあそれもそうかと同意し、宿を探した。

 少し歩くと小さな宿屋を見つけ、店内に入り、カウンターにいる恰幅の良い女性店員に話しかける。

「すいません。泊まりたいのですけど」

「あら、貴方もシャルロッテ様のためにわざわざ来たのかい?」

 店員の言葉に引っかかるところがあり、尋ねてみる。

「貴方も……とは?」

「ああ。実はシャルロッテ様の婚約が破談になったらしくてね。強い男を婿にと領主様が武闘会を開いたんだよ」

 なるほど、それならば先ほどの男たちの熱意もわかる。武闘会の訓練の為に急いで帰っていたのだろう。

 新たな婚約者が確かな実力を持っているなら、俺と婚約するよりよほど良いことなのかもしれない。

 シャルロッテは政略的な婚姻関係だったため、あまり接点はなかったが、それでも俺はシャルロッテの幸せを喜ばしく思った。

「それは初耳でした。喜ばしいですね」

「あら、知らなかったのかい。もし知ってても、後ろの嬢ちゃんが貴方の連れなら興味もわかないわよね」

 ツクモに目を向けて店員は笑った。俺もツクモを見ると、ツクモは照れ照れと後頭部を掻いていた。

 少しして、ツクモは俺の視線に気づいたのかハッとして、俺に向かって唇に手をやり胸や尻を強調するポーズを取り始めた。

 俺は呆れて、視線を店員に戻し口を開く。

「一人部屋で宿泊お願いします」

「照れちゃって可愛いな~レクトは! 私の魅力にやられちゃったか! 同じ部屋では恥ずかしいのか!」

 俺は上機嫌なツクモを無視して値段を尋ねる。

「いくらですか?」

「一人部屋なら二人で銅貨十枚です」

「いえ、一人分の値段は?」

「えっちょ!? ちょっと待って! ちょっと待って!」

 慌てた声を出したツクモに服をぐいと引っ張られて振り向かされる。

「いくら恥ずかしいからって、それは無いって……え? なにその冷たい目。本気なの? じゃあすみません! 本当にすみません! ふざけすぎました!」

 ツクモは腰を九十度に曲げて謝罪した。どうやら俺は相当厳しい目をしていたらしい。

 俺も巫山戯すぎたようだ。店員から奇異の視線を突きつけられている。

「すいません。やっぱり二人部屋で」

「ありがとう! やっぱレクト大好き!」

 それから支払いを済ませ、店員に鍵をもらった。
 そして、いくら引っぺがしても磁石のようにくっついて腰に頬ずりしてくるツクモを引きずって部屋へと向かった。
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