採集スキルしかない冒険者

kitatu

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「済まねえな。兄ちゃん。武闘会が終わるまで、王都に帰るつもりはないからなあ」

 ターバンを巻いた男は済まなそうにこめかみを掻いた。

 朝から王都へ行く行商を探していたのだが、これで断られ続けて4件目だ。どこも武闘会が終わるまで、王都へ行く予定はないらしい。

「そうですか。他を当たってみます」

「多分、他も同じだと思うぜ。折角、各地から強者たちが武闘会に集まってるんだ。そいつらを護衛にして帰ると思うぜ」

 朝から行商を訪ねていると、やけに行商の数が多いと感じ話を聞くと、武闘会は領主の娘との婚姻は貴族になる好機であるので、冒険者から庶民、さらには騎士まで集まる大規模なものになっているらしい。

 そのため、行商たちは集まり、武闘会の終了と同時に集まった人間を護衛に帰りたいのだろう。

「それによ~。武闘会という絶好の商売の機会を待てないようじゃ商人として失格だわな!」

 そう言って、ターバンを巻いた行商の男は笑った。

  仕方ない。武闘会が終わるまではここに滞在するしかないか。

「そうですね。武闘会が終わるまでここに滞在することにします」

 俺は別れを告げて、滞在費を稼ぐために、この街の冒険者ギルドへと仕事を探しに行くことにした。

「ねえ、レクトは出ないの?」

 赤茶色のレンガの建物に挟まれた白い石で出来た道を歩く中、ツクモが尋ねてきた。

「流石に出ねえよ。婚約を破棄された元婚約者がそれでも婚姻するために武闘会に挑むってのはまあ詩人に歌われそうな話ではあるけどね」

「なにそれ。いい。凄くいい。レクトは出るべき!」

 ツクモは目をキラキラと輝かせ、背伸びし、俺をじっくりと見つめてきた。

「いや出ねえよ。昨日の街の人達の目を見ただろ。シャルロッテは本当に慕われてるんだ。それも当然で本当に良い子なんだ。折角、俺と離れられるのだから強くて良い人と婚姻してもらいたいよ」

「レクトが私を褒める次くらいに褒めるなんて良い人なんだろうね」

 俺がいつツクモを褒めたのか教えて欲しいが、シャルロッテが良い人なのは間違いない。

 例えばこんな出来事があった。ある日、領民達から堤防が古いため治水工事をして欲しいと彼女の家ローリミ伯爵家は領民に頼まれたらしい。しかし、ここ何十年と川の氾濫は無く、費用もバカにならないため放置するとローリミ家は決めたのだった。ただ一人シャルロッテを除いては。
 シャルロッテは放置を決定した時、その日のうちに頼んで来た領民の元へ向かい、堤防を案内するように要求した。そして、自分の目で確かめた。それから、身分の差など関係なく、領民から貴族の学者、大人から川沿いに住む子供にまで分け隔てなく耳を傾け、結論に至った。
 そして彼女は『自分たちの決定が間違っていた』と彼女は伯爵家の娘であるというのに領民に向けて頭を下げたという。
 その後、家に帰り、まともに取り合ってくれない父を三日間飯も食わずに事情を説明し、ようやく新たな堤防が作られたらしい。
 その堤防は出来てから一年後、豪雨により川が氾濫したが、堤防の御蔭で被害が最小限に済んだというエピソードがある。

 つまり、シャルロッテは身分の差など関係なく、正しいことは正しいと、間違っていることは間違っていると謝れる器の大きな人間なのである。

 エピソードを思い出すと昨日領民がシャルロッテと結婚したいと思い訓練に急ぐのも当然かと再確認し、俺なんかがシャルロッテの夫にならなくてよかったと安堵した。

 そんなことを考えていると冒険者ギルドにたどり着いた。

 ギルドの門を開いて入ると、きらびやかな鎧をつける騎士や大きな黒い帽子を被った魔法使いなど、どこか品の良い冒険者達で溢れかえっていた。ホールは広く、丸太を並べたような天井には窓がついており、陽の光が差し込んで室内を暖かく包む。
 差し込む煙っぽい光は人の熱気を表すようだった。

「レクト、すごい人だね。依頼、余っているかな?」

「う~ん、どうだろう」

 俺たちは不安に駆られながら、人の合間をすり抜けて、依頼の紙を張り出す掲示板の所に向かった。しかし、掲示板に群がる人が途中でため息をついて入り口に向かって戻って来るのが見えた。

 どうやら、依頼が尽きたらしい。俺も人混みに飲まれる前に戻るとする。

 人混みに飲まれないように、ホールに併設してある食堂の椅子に隣並んで座った。そして、人の流れをぼんやりと見つつ、呟く。

「これから、どうしようか」

 特に依頼を受けなくても、武闘会が終わる一週間後お金はまだ足りるが、ただ無為に日々を過ごしたくない。そんな悩む俺とは反対にツクモは無邪気な声を上げる。

「はい! 一週間ご飯を食べ続ける!」

「却下」

「良いじゃん! 楽しいじゃん! 美味しいじゃん!」

「確かにそれは素敵だな」

 突然、俺とツクモの間に会話に誰かが加わって来た。俺たちは驚いて振り向く。

 そこにはフルプレートのアーマーを着こなした騎士がいた。全身が美術品のように美しい装備と背は低くはないが華奢な体から女性であると理解する。

 それに、その声は兜でくぐもってはいたがどこかで聞いたことのあるような声だった。

「えっ、正直、他人が突然人の会話に入ってくるとか怖いんだけど」

「こらツクモ!」

 あまりに正直すぎる言葉を告げたツクモの頭をはたき、急いで謝る。

「すいません。この子が」

「……そんなことを謝る前に謝るべき事があるだろうに」

 騎士が一瞬、何か小声で呟いたが明るい声で話始める。

「あははは。それは済まなかった。私を許してくれ!」

「良いよ」

「良いよじゃないだろ……」

「えっ、レクト、これでも許さないの!? 鬼だな!」

 大きくため息を吐く。そして騎士が怒ってないか恐る恐る見ると、お腹に手をあて前かがみになり、小刻みに震えているところを見ると笑っているのだろう。

 度量が大きな方でよかった。

「で、女騎士はなんで声かけてきたの?」

「女騎士とは私のことか?」

「うん」

「あははは! 初めて呼ばれたな! そうだな……。なんで話しかけたかだよな……」

 そう言って、騎士の面は俺の方を向いた。そして、再び口を開く。

「色々詰まる想いはあるけど、気持ちに整理をつけてさ、許してあげるための方法を思いついたからかな」

 騎士は晴れやかな声でそう言った。すると、ツクモは俺の方にゆっくりと寄ってきて、俺の耳に手を当てた。そして、手に白桃色の薄い唇を添え、怯えた声を出した。

「どうしようレクト。何言ってるか、ぜんっぜんわかんない。ヤベーの引いちゃったよぉ」

 俺は無言でツクモの頭をポカリと叩いて口を開く。しかし、叩いておきながら俺も騎士が何を言いたいのかはわかっていない。考えたが結局わからず尋ねてみる。

「と言いますと?」

「まあ、それはおいおい話すよ。君たちに依頼を頼んでも良いかな?」

 騎士のその声は強い意志が篭っているような気がした。
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