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しおりを挟む「依頼はね。私を強くして欲しいんだ」
騎士は兜を突き抜けるほどはっきりとした声でそう告げた。
「強くですか……? それは一体何故?」
俺はあまりに突飛な依頼に面食らって疑問をそのまま口にした。
「ああ。武闘会に出ようと思ってな」
「武闘会にですか? 失礼ですが貴女は女性では?」
「女性が出てはいけないという規約はない」
「それはそうですが……」
騎士の意志はどうやら固そうではあるが、わざわざ今から俺みたいなのに頼んでまで強くなって武闘会に参加しようとするのは何故だろう。
「なんだ。煮え切らない態度だな」
「そうだね。レクト嫌なの?」
ツクモが騎士に同意して尋ねてきた。嫌と云うわけではない。報酬はわからないが、ちょうど武闘会までの間に仕事ができるのならば、むしろ悪くない話だ。
けれど、内容が引き受けられない。
「すみません。自分実は採集スキルしか持ってなくて、あまりお役に立てるかどうか」
俺がうつむいてそう言うと、ツクモが明るい声で話し始める。
「そんな事気にしてるの~? レクトったら可愛い!」
「おい、ツクモ俺は真面目に言ってるんだ」
「でもさ、何も聞かないうちから身を引くなんて卑屈すぎるよ」
確かにそうかもしれない。強くするといっても何かの練習相手に俺を選んだだけかもしれないし、誰にでもできるようなことを頼むつもりだったのかもしれない。
そんなことも考えず、否定から入るなんて、思ったよりもスキルに対するコンプレックスは強いみたいだ。
「すいません。強くするとは具体的に聞かせていただいてもよろしいですか」
「ああ。私はスキルで魔法剣士スキルと上級氷魔法、中級水魔法、身体能力強化のそれぞれレベル2を得たんだよ」
それは凄い。4つもスキルを得た上に、魔法剣士スキルはかなり希少なスキルだ。魔法剣士は初級の魔法を全て使える上に、上級剣術スキルと同様の技が身につく。
それほどのスキルを持っている人が何故俺に強くしてくれと頼むのか。そして、なぜ大会に出場しようとするのか。
俺は頭の中がこんがらがるが、そんな俺を気にせず女騎士は話し続ける。
「だけどね。私には肝心な魔力量が少ないんだ。だから、いいスキルを得たんだけど魔法は数回しか使えない。だから魔法剣士の剣術を身に付けようと思ってね」
「それで、俺を訓練相手に?」
「ああ!」
女騎士が大きく頷いた。しかし、それならば本当に役立てない。
「すみませんが……やはり」
俺が断ろうとすると、仕方ないなと騎士は肩をすくめた。
「それは元婚約者の頼みであってもか?」
そう言って、騎士はおもむろに兜に手をかけ取り外した。
兜の中からは、水色の絹のように美しい光沢を放つ滑らかな髪が溢れ出す。まるで岩が流水を裂くように、騎士は乱れた髪を硬い手甲のついた手で解きほぐした。
髪に隠れていた顔は、長く凛々しい睫毛に髪の色と同じ空色の綺麗な瞳、すっとした鼻と端麗で、良く知った顔であった。
俺は驚き過ぎて、口が勝手にポカンと開く。
「久しぶりだな。レクト」
「シ、シャルロッテ?」
「ああ。私が大会で優勝したいと言うんだ。まさか、断るなんて言わないよな?」
シャルロッテは薄く笑って俺にそう告げた。
混乱している頭を必死に働かせる。
シャルロッテが大会で優勝したい。つまりは結婚したくないということだ。だが何故?
「な、何故?」
俺がそう聞くとシャルロッテは厳しい視線を俺に突きつけた。
「誰かさんが婚約者でなくなったせいで、誰路も知らぬ相手と婚姻せねばならぬようになったからだ。誰が何も知らない相手と婚姻したいと思う。それに強いだけの男と結婚して何になるっていうんだ」
「確かに、そうかもしれないが。貴族なんて、そんなものだろ。現にお前は……」
俺と婚姻する予定だったはず……と言いかけてやめた。
それは、あることを思い出したからだ。
彼女と婚姻が決まってから俺たちは度々会う機会はあった。しかし、ある時を境にシャルロッテと会う機会は少なくなった。その理由は、はっきりとわかっていなかった。
だが、今日のことで理解した。
彼女は結婚に対して前向きではないのだろう。だから、俺との接触も避けたし、今回も大会で優勝して結婚しないようにしているのだろう。だが……。
「それならなおさら俺に訓練を頼んでどうなるんだ。俺も手を貸してあげたいけれど、実力不足だ。剣術の訓練は受けてきたが、流石に剣術スキルを持つ人間に教わった方がいい。シャルロッテなら教師を見つけられないわけじゃないだろ」
「そんなことわかってるよ。それでもレクトに頼みたい。ダメか?」
「俺も助けてやりたいけど……」
仮にも元婚約者。困っているのならば助けてやりたい。だが、シャルロッテの言動はちぐはぐに思え、そのことが頭を混乱させ、答えを出せずにいた。
「あ~もう! まどろっこしい! レクトは助けたくて、女騎士はレクトに頼みたい! だったら受ければいいじゃん!」
ツクモが頭を両手で掻き乱し、大きな声で口を挟んだ。
「そんな簡単に受けられるか。勝たせられる見込みもないのに引き受けるなんてできっこないだろ」
「あるよ。勝つ見込み。女騎士は魔力量が少ないんでしょ。だったら増やせばいいじゃん」
あっけらかんと言ったツクモにシャルロッテは呆れた顔をする。
「ツクモだったか? 魔力量は生まれながらにして決まってるんだ。後から増やすことなんてできない」
「器はそうかもね。だけど、補充することならできる。採集スキル最大のレクトの力を借りればね」
そう言い切ったツクモの瞳は、真っ直ぐにきらめいていた。
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