採集スキルしかない冒険者

kitatu

文字の大きさ
11 / 18

10

しおりを挟む

「依頼はね。私を強くして欲しいんだ」

 騎士は兜を突き抜けるほどはっきりとした声でそう告げた。

「強くですか……? それは一体何故?」

 俺はあまりに突飛な依頼に面食らって疑問をそのまま口にした。

「ああ。武闘会に出ようと思ってな」

「武闘会にですか? 失礼ですが貴女は女性では?」

「女性が出てはいけないという規約はない」

「それはそうですが……」

 騎士の意志はどうやら固そうではあるが、わざわざ今から俺みたいなのに頼んでまで強くなって武闘会に参加しようとするのは何故だろう。

「なんだ。煮え切らない態度だな」

「そうだね。レクト嫌なの?」

 ツクモが騎士に同意して尋ねてきた。嫌と云うわけではない。報酬はわからないが、ちょうど武闘会までの間に仕事ができるのならば、むしろ悪くない話だ。

 けれど、内容が引き受けられない。

「すみません。自分実は採集スキルしか持ってなくて、あまりお役に立てるかどうか」

 俺がうつむいてそう言うと、ツクモが明るい声で話し始める。

「そんな事気にしてるの~? レクトったら可愛い!」

「おい、ツクモ俺は真面目に言ってるんだ」

「でもさ、何も聞かないうちから身を引くなんて卑屈すぎるよ」

 確かにそうかもしれない。強くするといっても何かの練習相手に俺を選んだだけかもしれないし、誰にでもできるようなことを頼むつもりだったのかもしれない。
 そんなことも考えず、否定から入るなんて、思ったよりもスキルに対するコンプレックスは強いみたいだ。

「すいません。強くするとは具体的に聞かせていただいてもよろしいですか」

「ああ。私はスキルで魔法剣士スキルと上級氷魔法、中級水魔法、身体能力強化のそれぞれレベル2を得たんだよ」

 それは凄い。4つもスキルを得た上に、魔法剣士スキルはかなり希少なスキルだ。魔法剣士は初級の魔法を全て使える上に、上級剣術スキルと同様の技が身につく。

 それほどのスキルを持っている人が何故俺に強くしてくれと頼むのか。そして、なぜ大会に出場しようとするのか。
 俺は頭の中がこんがらがるが、そんな俺を気にせず女騎士は話し続ける。

「だけどね。私には肝心な魔力量が少ないんだ。だから、いいスキルを得たんだけど魔法は数回しか使えない。だから魔法剣士の剣術を身に付けようと思ってね」

「それで、俺を訓練相手に?」

「ああ!」

 女騎士が大きく頷いた。しかし、それならば本当に役立てない。

「すみませんが……やはり」

 俺が断ろうとすると、仕方ないなと騎士は肩をすくめた。

「それは元婚約者の頼みであってもか?」

 そう言って、騎士はおもむろに兜に手をかけ取り外した。

 兜の中からは、水色の絹のように美しい光沢を放つ滑らかな髪が溢れ出す。まるで岩が流水を裂くように、騎士は乱れた髪を硬い手甲のついた手で解きほぐした。
 髪に隠れていた顔は、長く凛々しい睫毛に髪の色と同じ空色の綺麗な瞳、すっとした鼻と端麗で、良く知った顔であった。

 俺は驚き過ぎて、口が勝手にポカンと開く。

「久しぶりだな。レクト」

「シ、シャルロッテ?」

「ああ。私が大会で優勝したいと言うんだ。まさか、断るなんて言わないよな?」

 シャルロッテは薄く笑って俺にそう告げた。

 混乱している頭を必死に働かせる。
 シャルロッテが大会で優勝したい。つまりは結婚したくないということだ。だが何故?

「な、何故?」

 俺がそう聞くとシャルロッテは厳しい視線を俺に突きつけた。

「誰かさんが婚約者でなくなったせいで、誰路も知らぬ相手と婚姻せねばならぬようになったからだ。誰が何も知らない相手と婚姻したいと思う。それに強いだけの男と結婚して何になるっていうんだ」

「確かに、そうかもしれないが。貴族なんて、そんなものだろ。現にお前は……」

 俺と婚姻する予定だったはず……と言いかけてやめた。
 それは、あることを思い出したからだ。
 彼女と婚姻が決まってから俺たちは度々会う機会はあった。しかし、ある時を境にシャルロッテと会う機会は少なくなった。その理由は、はっきりとわかっていなかった。
 だが、今日のことで理解した。
 彼女は結婚に対して前向きではないのだろう。だから、俺との接触も避けたし、今回も大会で優勝して結婚しないようにしているのだろう。だが……。

「それならなおさら俺に訓練を頼んでどうなるんだ。俺も手を貸してあげたいけれど、実力不足だ。剣術の訓練は受けてきたが、流石に剣術スキルを持つ人間に教わった方がいい。シャルロッテなら教師を見つけられないわけじゃないだろ」

「そんなことわかってるよ。それでもレクトに頼みたい。ダメか?」

「俺も助けてやりたいけど……」

 仮にも元婚約者。困っているのならば助けてやりたい。だが、シャルロッテの言動はちぐはぐに思え、そのことが頭を混乱させ、答えを出せずにいた。

「あ~もう! まどろっこしい! レクトは助けたくて、女騎士はレクトに頼みたい! だったら受ければいいじゃん!」

 ツクモが頭を両手で掻き乱し、大きな声で口を挟んだ。

「そんな簡単に受けられるか。勝たせられる見込みもないのに引き受けるなんてできっこないだろ」

「あるよ。勝つ見込み。女騎士は魔力量が少ないんでしょ。だったら増やせばいいじゃん」

 あっけらかんと言ったツクモにシャルロッテは呆れた顔をする。

「ツクモだったか? 魔力量は生まれながらにして決まってるんだ。後から増やすことなんてできない」

「器はそうかもね。だけど、補充することならできる。採集スキル最大のレクトの力を借りればね」

 そう言い切ったツクモの瞳は、真っ直ぐにきらめいていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

処理中です...