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森の奥地。木々が観客のコロシアムのようになって開けた場所。俺とシャルロッテは乳牛二頭分くらいの大きな赤い牛と対峙していた。
牛の角は大きく、目は血が可愛く見えるほどの獰猛な赤。牛は前の片足で地面を何回も引っ掻いており、今にも突進してきそうである。
「レクトくるぞ」
「ああ! わかってるよ!」
シャルロッテの返答に声を張った瞬間牛の瞳が俺を捉え、腿の筋肉が強張ったのが見えた。
俺は躱す体勢に入り、遅れて牛が足を大きく動かして突っ込んでくる。
「ブモォォ!」
牛は風を切って目の前に迫るも俺は当たる寸手のところで横っ飛びに躱しきった。牛は勢いをそのままに、後ろに生えていた大木を大きく鋭い角で貫き、ばきりと音を立てて木を幹からちぎった。
木は他の木々の枝を折りながら倒れ、ゆっくりと牛を持ち上げた。そして大きな音を立てて地面に横たわり砂埃が上がる。
その方向を油断せず見続けると、砂埃が薄くなり、木に刺さった角を抜こうと踏ん張る牛の姿を捉えた。
「シャルロッテ! そこから五度ほど北東の方角だ!」
俺がいうや否やシャルロッテは手を前に翳し氷で出来た槍を作り出し、まっすぐに放った。
「アイスランス!」
飛んで行く槍は、風を切り土煙を吹き飛ばして、牛の背中から頭を貫いた。
「ブモォ……!?」
牛は最後に短い断末魔をあげ、どさりと倒れこみ、再び土煙を上げた。
それからも油断せずに、目を凝らし続けたが動く様子がなく、仕留めたのだと確信する。シャルロッテとお互いに見合い、言葉も交わさずにただ頷いて恐る恐る牛の傍へと近寄る。ピクリともしない牛を見下ろすと、既に牛の瞳孔はすでに開き切っており、赤い瞳はただ黒くなっていた。
「なんとか倒したみたいだな」
「ああ」
二人して安堵のため息を漏らした。このレッドギュウという魔物はBランク指定の魔物である。魔法に対する耐性は低いが、その攻撃力は並外れており、死亡する冒険者は少なくない。
唯一、救いなのは森の奥地にしか生息しないくらいだ。
「作戦通りではないが上手く行ったな」
そう言ってシャルロッテが視線を俺の着ている赤いマントに向ける。
この牛の魔物は赤いものに興奮するらしい。レッドギュウはハーレム体勢を取るため他の雄に対して攻撃を仕掛けるからそうなったのらしい。ちなみにメスは青く、ブルーギュウと呼ばれる。
ともかく、この習性を利用して俺が躱し続け、疲れ切ったところをシャルロッテがとどめをさす作戦だった。だが、一回避けたところで牛が木に捕まったので案外すんなりと倒せてしまった。
「そうだな」
「それにしてもレクトよく見えたな。それに躱し切った動きも見事だった。ヒヤヒヤしていた私がバカらしいくらいだ」
「ちょっと目が良くなってね」
「目とはよくなるものなのか?」
シャルロッテが不思議そうな顔をしているのを横目に手に本を取り出すイメージをする。
手に本が出てきた瞬間、山吹色の光が放たれ辺りを包み込んだ。そして、目の前にツクモが現れる。
「あ~やっと出てこれた!」
突然出てきて大きく伸びをしているツクモにシャルロッテは目を見開いて声を出した。
「二度目だというのに慣れないな……」
シャルロッテはツクモが本から変化するのを見るのはこれで二度目である。
時を遡れば一日前、シャルロッテに対してツクモが魔力を補充できると言い切った。そんなシャルロッテのツクモを見る目は怪訝なものであった。
魔力を補充するなんて概念が存在せず、魔力は時間と共に回復するものである。怪しむシャルロッテの反応は当然であった。
そんなシャルロッテの信用を得るためにツクモを本にして、常識の範囲にないと認めさせ、ツクモのいうことが真実だと一応は信用してもらった。
そして今はツクモのいうとおりに魔力を補充する鍵となる魔物、レッドギュウを討伐しにきていたのであった。
「さあ、レクト早く取り出して! 早く食べたい!」
ウキウキと目を輝かせているツクモは討伐の際、流石に危ないからと言って、アイテムボックス内に入っていたのだ。
ツクモにアイテムボックスに入れる際、嫌じゃないのかと尋ねたところ、『倒してもどの部位を採取すればいいのかわからないから私を出さなきゃでしょ』としたたかに言った。まあそれもそうかと納得してツクモを収納したのであった。
「それで。どこの部位を取り出したらいいんだ?」
「えっと全部!」
「本当か?」
「嘘だけど全部食べたいの!」
少しイラつくが、ぐっと飲み込んで剥ぎ取り用のナイフを取り出し、牛に向かう。
「なあ、本当に大丈夫なのか?」
シャルロッテが眉をひそめて尋ねてきた。未だ半信半疑なのだろう。
「大丈夫だよ。ツクモの言うことは信じられないかもしれないけど本当だから」
シャルロッテにそう告げて、牛を解体し始める。スキルのおかげか解体の手順を知っており、ナイフは滑るように牛の肉を裂いて、骨を断った。
そして、数十分かけて全ての素材をとり終えると、全てアイテムボックス内に収納した。あたりは牛の血だまりができており、自分にも返り血で真っ赤になっているが、錆びないようにナイフの血だけを払ってツクモに声をかける。
「終わったぞ。ツクモどうしたらいい?」
「えっとねえ。すっごく小さい肝臓がなかった?」
俺は普通の肝臓の他に本当に小さな肝臓があったのを覚えていて取り出した。その肝臓はレッドギュウの赤と脂の混じった薄いピンク色をしていた。
「あったぞ」
「あ~それそれ! 少し炙って食べると本当に美味しいんだよ!」
俺が掲げた肝臓を見上げてツクモがヨダレを垂らしてぴょんぴょん跳ねた。
「待て。ツクモ。何故この肝臓を食べると魔力が補充されるのか教えてくれ」
「わかった! じゃあ帰りながら話すよ!」
牛の角は大きく、目は血が可愛く見えるほどの獰猛な赤。牛は前の片足で地面を何回も引っ掻いており、今にも突進してきそうである。
「レクトくるぞ」
「ああ! わかってるよ!」
シャルロッテの返答に声を張った瞬間牛の瞳が俺を捉え、腿の筋肉が強張ったのが見えた。
俺は躱す体勢に入り、遅れて牛が足を大きく動かして突っ込んでくる。
「ブモォォ!」
牛は風を切って目の前に迫るも俺は当たる寸手のところで横っ飛びに躱しきった。牛は勢いをそのままに、後ろに生えていた大木を大きく鋭い角で貫き、ばきりと音を立てて木を幹からちぎった。
木は他の木々の枝を折りながら倒れ、ゆっくりと牛を持ち上げた。そして大きな音を立てて地面に横たわり砂埃が上がる。
その方向を油断せず見続けると、砂埃が薄くなり、木に刺さった角を抜こうと踏ん張る牛の姿を捉えた。
「シャルロッテ! そこから五度ほど北東の方角だ!」
俺がいうや否やシャルロッテは手を前に翳し氷で出来た槍を作り出し、まっすぐに放った。
「アイスランス!」
飛んで行く槍は、風を切り土煙を吹き飛ばして、牛の背中から頭を貫いた。
「ブモォ……!?」
牛は最後に短い断末魔をあげ、どさりと倒れこみ、再び土煙を上げた。
それからも油断せずに、目を凝らし続けたが動く様子がなく、仕留めたのだと確信する。シャルロッテとお互いに見合い、言葉も交わさずにただ頷いて恐る恐る牛の傍へと近寄る。ピクリともしない牛を見下ろすと、既に牛の瞳孔はすでに開き切っており、赤い瞳はただ黒くなっていた。
「なんとか倒したみたいだな」
「ああ」
二人して安堵のため息を漏らした。このレッドギュウという魔物はBランク指定の魔物である。魔法に対する耐性は低いが、その攻撃力は並外れており、死亡する冒険者は少なくない。
唯一、救いなのは森の奥地にしか生息しないくらいだ。
「作戦通りではないが上手く行ったな」
そう言ってシャルロッテが視線を俺の着ている赤いマントに向ける。
この牛の魔物は赤いものに興奮するらしい。レッドギュウはハーレム体勢を取るため他の雄に対して攻撃を仕掛けるからそうなったのらしい。ちなみにメスは青く、ブルーギュウと呼ばれる。
ともかく、この習性を利用して俺が躱し続け、疲れ切ったところをシャルロッテがとどめをさす作戦だった。だが、一回避けたところで牛が木に捕まったので案外すんなりと倒せてしまった。
「そうだな」
「それにしてもレクトよく見えたな。それに躱し切った動きも見事だった。ヒヤヒヤしていた私がバカらしいくらいだ」
「ちょっと目が良くなってね」
「目とはよくなるものなのか?」
シャルロッテが不思議そうな顔をしているのを横目に手に本を取り出すイメージをする。
手に本が出てきた瞬間、山吹色の光が放たれ辺りを包み込んだ。そして、目の前にツクモが現れる。
「あ~やっと出てこれた!」
突然出てきて大きく伸びをしているツクモにシャルロッテは目を見開いて声を出した。
「二度目だというのに慣れないな……」
シャルロッテはツクモが本から変化するのを見るのはこれで二度目である。
時を遡れば一日前、シャルロッテに対してツクモが魔力を補充できると言い切った。そんなシャルロッテのツクモを見る目は怪訝なものであった。
魔力を補充するなんて概念が存在せず、魔力は時間と共に回復するものである。怪しむシャルロッテの反応は当然であった。
そんなシャルロッテの信用を得るためにツクモを本にして、常識の範囲にないと認めさせ、ツクモのいうことが真実だと一応は信用してもらった。
そして今はツクモのいうとおりに魔力を補充する鍵となる魔物、レッドギュウを討伐しにきていたのであった。
「さあ、レクト早く取り出して! 早く食べたい!」
ウキウキと目を輝かせているツクモは討伐の際、流石に危ないからと言って、アイテムボックス内に入っていたのだ。
ツクモにアイテムボックスに入れる際、嫌じゃないのかと尋ねたところ、『倒してもどの部位を採取すればいいのかわからないから私を出さなきゃでしょ』としたたかに言った。まあそれもそうかと納得してツクモを収納したのであった。
「それで。どこの部位を取り出したらいいんだ?」
「えっと全部!」
「本当か?」
「嘘だけど全部食べたいの!」
少しイラつくが、ぐっと飲み込んで剥ぎ取り用のナイフを取り出し、牛に向かう。
「なあ、本当に大丈夫なのか?」
シャルロッテが眉をひそめて尋ねてきた。未だ半信半疑なのだろう。
「大丈夫だよ。ツクモの言うことは信じられないかもしれないけど本当だから」
シャルロッテにそう告げて、牛を解体し始める。スキルのおかげか解体の手順を知っており、ナイフは滑るように牛の肉を裂いて、骨を断った。
そして、数十分かけて全ての素材をとり終えると、全てアイテムボックス内に収納した。あたりは牛の血だまりができており、自分にも返り血で真っ赤になっているが、錆びないようにナイフの血だけを払ってツクモに声をかける。
「終わったぞ。ツクモどうしたらいい?」
「えっとねえ。すっごく小さい肝臓がなかった?」
俺は普通の肝臓の他に本当に小さな肝臓があったのを覚えていて取り出した。その肝臓はレッドギュウの赤と脂の混じった薄いピンク色をしていた。
「あったぞ」
「あ~それそれ! 少し炙って食べると本当に美味しいんだよ!」
俺が掲げた肝臓を見上げてツクモがヨダレを垂らしてぴょんぴょん跳ねた。
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