採集スキルしかない冒険者

kitatu

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 森から抜けた川の側で火を焚いていた。パチパチと音をたて枝は燃え、丸い石で囲まれた円の中から俺たちを温めてくれる。日が沈む寸前の暗い空には一番星が輝き、河原の冷たい風に凍えるこの時間にはとてもありがたい。

 不安そうに瞳に火を映し、傍でしゃがみこむシャルロッテと、待ちきれないのか川に水平に小さな石を投げ込んでいるツクモの対照的な姿を捉える。

 まあ、シャルロッテが不安なのも当然だよな。俺もよくツクモの言っていることがわからなかったから。


 あれから帰る道中にツクモから話を聞いた。内容はこうである。

 魔力の作られる原理は、魔力回路が回ることによって魔力が生成される。魔力回路とは、人が持つ魔力版呼吸回路のようなものだという。

 クエン酸回路が何かはわからないが、クエン酸回路とは、アセチルCoAがオキザロ酢酸と結合しクエン酸となり様々な物質の変化を経てクエン酸に戻り一周する。それまでにATPと呼ばれるエネルギーの通貨のようなものを作り出すそうだ。

 魔力回路に対してもこの原理は類似しており、ATPの代わりに魔力が生成されるというわけだ。

 アセチルCoAから始まるこの反応には、当然ながらアセチルCoAが不可欠であり、それは、
ブドウ糖から様々な過程を経てピルビン酸となってアセチルCoAになる。

 何が言いたいかというと、魔力回路の開始物質を作り出すための栄養、魔力版ブドウ糖のようなものを魔力の素になるから魔力素と呼び、魔力素を多く取れれば、人が食べ過ぎてエネルギーを脂肪として貯蔵できるように、魔力素も過剰に摂取すれば貯蔵できるということだ。

 ならば簡単。魔力素を過剰に摂取しようと思い立つも、摂取方法が問題となる。糖は穀物から容易に取り入れられるが、魔力素を含む食品は少なく、あってもごく少量しか含んでいないのだ。

 そこで、ツクモが目をつけたのはレッドギュウの小さな肝臓だ。

 魔法の使えないレッドギュウが、嫌でも貯まる魔力素を保存する器官である。この小さな器官では大量の魔力素を体外に排出するための魔力への変換も行われている。小さな器官ではあるが魔力回路を回す全ての触媒も大量に含まれている為小さくても機能を果たすというわけだ。

 つまり、レッドギュウのこの小さな肝臓を食べると魔力素を大量に得られ、魔力回路を促進する物質も大量に得られて一石二鳥というわけだ。

 ツクモの説明は、よくはわからないが、食べると魔力が増えるということだけはわかった。取り敢えず、食べてみないことには始まらない。

 目の前の赤い炎に蓋をするように金網を置く。少し待って、脂を取り出して塗った。網は白い煙をあげテラテラと輝く。

「お~い。ツクモ、そろそろ食べるぞ!」

 ツクモはすぐに駆け寄ってきてヨダレを溢れさせる。

「早く! レクト早く! 少しだけ焼くんだよ! 少しだよ!」

「わかった。わかったから」

 俺はツクモにせかされながら、肝臓をナイフで切り分けて串に刺した。金網の上に二本置こうとした時、シャルロッテが恐る恐る尋ねてきた。

「魔物の肉なんて本当に食べるのか?」

 火に照らされオレンジ色に染まったシャルロッテの顔は、口はへの字に歪み眉もひそめていた。魔物のを食す文化はないので、それも当然である。むしろ、食べて力を得られるということよりも、魔物を食べることに拒否する気持ちの方が強いのかもしれない。

 そんなシャルロッテの不安を打ち消すように俺は何も言わずに笑って、串を金網の上に置いた。

 じゅうと音を立て脂が滴り、炎から煙が上がる。肉の焼ける香ばしい匂いによだれが出そうになる。串を裏返すと、肉の白い焼け後は脂の大汗をかいていた。

 少しして串を金網から離してツクモとシャルロッテに向ける。ツクモは奪い取るように串を受け取り、シャルロッテは少し逡巡した後おずおずと手に取った。

「な、なあレクト?」

 不安に瞳が揺らめくシャルロッテに、ただツクモを指差した。

「はあ~ん。おいしいい」

 ツクモは串を離さずに頰を抑えて口をもぐもぐと動かしていた。目を細め、なんとも幸せそうである。
 そんなツクモの様子を見て、シャルロッテは意を決したようにゴクリと唾を飲み込んでからパクリとかぶりついた。

「何だこれ!? めちゃくちゃ美味しいじゃないか!?」

 シャルロッテの目は見開かれており、品の良いシャルロッテらしからぬ様相で、バクバクと食べ始めた。

 俺も串が焼けたので湯気を放つ焼けた肉を口に入れる。
 口に入れた瞬間肉の旨味が口の中に爆発的に広がる。なのに、全くと言って良いほど臭みがない。その上、肉がほろりと溶け、クリーミーで濃厚な味わいが舌の上に広がり、なんとも美味である。

「美味い!」

「ああ! 牛のレバーは食べたことはあるが、どちらかというと最高級食材のフォアグラの方が近い。だが、フォアグラのように臭みはなく、脂もくどくない。なのによりまろやかで濃厚で甘みもある。かといって肉の旨味も忘れていない」

 俺の呟きに同意したシャルッロッテが饒舌に感想を語った。シャルロッテも俺も数多の肉料理を口にしてきたが、ただ焼いただけの肉がこれほどまでに美味いとはと驚愕した。

 それからはレッドギュウの肝臓を三人で取り合うように、あっという間に食べ終えた。食べ終えると、ふとシャルロッテが不思議そうに溢す。

「こんなに美味いものをなぜ私たちは食べようとしていないんだろう?」

 確かに。なぜ食べようとしないのだろうか。それどころか、人は食べることに拒否感を示す。魔物の皮や骨といった素材は重宝されるのにおかしな話だ。

 俺とシャルロッテが二人揃って首をひねっていると、何がおかしいのかわからないといった表情でツクモが口を開いた。

「私が生まれるよりうんと昔は、魔力を持つ生き物、魔物だけだったんだ。でも、魔力を持たない種族は時が流れるにつれて増えてってる。で、私が生まれた時にはもう人は、制御し易い魔力のない生物を家畜化し、魔物を食べないようになってたからな」

「そんな事が。でも、食べるのを拒否する理由にはならないんじゃないか?」

「まあね。でもそれからかなり時間が経ってるし、食べようとしないから食べてはいけないに変化してもおかしくないんじゃない?」

 なるほど。それなら納得できる。ツクモが今いるより一万年も経っているのだ。おかしくはないだろう。

「そんなことよりレクト! あんなに大きなレッドギュウでしょ! まだまだ一杯残っているよね?」

 ツクモは目を燦々と輝かせ、俺に迫ってきた。

 辺りにはすっかり暗くなって、空には満天の星空。聞こえるのは鋭い風に森のさざめく音と川のせせらぎ。俺はシャルロッテの顔を見る。

 すると、シャルロッテは俺の意を汲んだのか柔らかい笑みを浮かべて口を開いた

「レクトと……美味しい食事を楽しめるのだ。まだまだ帰るには早すぎるよ」

 俺はシャルロッテの答えを聞くと、大きな美味そうな肉を取り出した。

「じゃあ、食べようぜ!」

 灯りは石に囲まれた火しかないというのに、燦然と輝いているように見えた。
 さあ、宴はここからだ。
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