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「アイシクルレイン!」
氷の雨が草原に降り、目の前のゴブリン達は氷の礫にあっちらこっちらと逃げ惑うもやがて、穴だらけになり絶命をした。
「これで依頼達成だなレクト!」
「あ、ああ」
強力な魔法を使っても元気なことが嬉しいのか頰が上気するシャルロッテ。反対に俺は目の前の惨状に少し怖気づき、返答がうわずった。
大会まであと三日、シャルロッテの魔法が使えるようになったかの訓練に付き合い、度々人を襲うゴブリンの討伐に来ていた。
シャルロッテはレッドギュウを食べたあの日から魔力が増大し、魔法を使い続け、氷魔法のスキルのレベルを3まで上げた。
俺は今、レベル3で使えるアイシクルレインを目の当たりにしたのだが、これ程の威力があるとは。
魔法の威力は魔力に依存しているため、魔力をたくさん込めれば小さな火の玉も大きな燃え盛る業火球に変わる。
つまり、魔力をたくさん込められるシャルロッテの魔法はとんでもないのだ。
「これなら、俺まで大会に出る必要はないだろ」
この前、シャルロッテはもし負けた時のために俺にも出場してくれと頼んで来た。俺は気休めにでもなればと参加することを承諾したのであったが、今の魔法を見る限り俺の出る幕はないだろう。
「そうか……。レクトが出たくないというのなら別にいいんだ」
そう言ってシャルロッテが目を伏せ、悲しそうな顔をする。なぜか、罪悪感が湧き、慌てて取り繕う。
「い、いや出たくないというわけじゃないんだ。だけど、シャルロッテが勝てない相手に俺が勝てるわけないっていうか」
「ま~た、レクトは卑屈になってるね!」
後ろからツクモの声が聞こえた。振り返るとツクモは草はらから顔を出した大きな石の上に腰をおろして、レッドギュウのサンドイッチを食べていた。
「そうは言ってもよ。シャルロッテは魔力が増大して強くなったけど。俺は魔法が使えないんだ」
「確かにレクトは魔法使えないもんね!」
ツクモは手についたソースをどこか艶かしく舐めてから、ケラケラと無垢に笑った。
「なあ、ツクモ。レクトに魔法を使わせてやることはできないのか?」
「ないよ。スキルがない人はどれだけ魔力を持っていたとしても使えない」
「そうか……」
シャルロッテが顔に影を落とした。自分のために悲しんでくれているのだろう。
俺は自分のものかシャルロッテのものか、はたまた両方かわからない暗い気持ちを吹き飛ばすように笑い飛ばした。
「何言ってるんだよ。そんなのわかりきってるから使おうとも使いたいとも思わねえよ」
シャルロッテは何かに堪えるようにグッと拳を握ってから、どこかぎこちなく笑った。
「それなら良かったよ」
二人の間で触れれば壊れそうなガラス細工のような空気が流れる。
俺は魔法が使えないことなんて……少し思うところはあるが、気にはしていない。けれどシャルロッテに気遣せたとしたら自分が情けなくなる。
「本当、めんど臭い二人だね」
ツクモがため息を吐いてやれやれと首を振った。
空気が弛緩する。
「じゃあレクト、魔法は使えないけど魔力は使ってみる? ちょうど女騎士の装備と制御の訓練になるし」
「はあ?」
「ほら、私がさっき座っていた岩。あれ、ところどころミスリルが混じってるよ」
「はああああ!?」
突然のツクモの発言にただただ驚くことしかできない。
「そ、それは本当か? ミスリルとは神話の時代の鉱物だぞ!?」
少し遅れて、シャルロッテがあたふたしながら尋ねた。
驚くのも当然で、ミスリルは物語にしか出てこない白銀色の鉱物だ。ミスリルで作られた剣は鉄を容易く裂き、ミスリルの鎧はどんな魔法にも傷一つつかない。まさに伝説の素材だ。
「うん。そもそもミスリルっていうのは、ミスリル原子が電子の代わりに魔力で結合した結晶のことを言うんだよ。ミスリルは過不足なく魔力でミスリル原子同士結合していてね、電子で結合したものよりかなり強く結合するんだよ。だから魔力への耐性と強度も優れるってわけ」
「「……」」
俺とシャルロッテは互いに顔を見合わせ首をひねった。
良かった。ツクモが何を言っているのかわからないのは俺がバカな訳ではないようだ。しかし、理屈はわからなくともミスリルは欲しい。
「どうやったら手に入れられるんだ?」
「簡単だよ! 岩を融かして、熔かせずに残ったものがミスリルだよ!」
ツクモはニコニコとして軽く言ってのけたが、岩を溶かすなんて相当だ。書物で読んだことのある火山の熱は岩をも溶かすほどだというが、そんな魔法を使える人間なんて聞いたことがない。
「ミスリルは諦めようかシャルロッテ……」
「そうだなレクト……」
シャルロッテと俺は示し合わすように頷いた。早々に諦めた俺たちにツクモは不満を叫ぶ。
「ええ!? なんで!? せっかく私が説明したのに!」
「だって岩を溶かす方法なんてないだろ」
「あるよ! レクトのバカみたいな魔力をシャルロッテが使えばいいじゃん!」
俺にそんな魔力があるのか? それに人の魔力を使えるなんて聞いたことがない。
「そんなことできるのか?」
俺の気持ちを代弁するかのようにシャルロッテが尋ねた。
「うん。レクトは私を手にしても気が触れないくらいに膨大な魔力があるからじゃんじゃん使っちゃってもいいよ!」
「よくわからないが、そうなのか? だがどうすればいい?」
「えっと何から説明すれば……。前提として、魔法って人間が作った魔力を人の手から放って実態化させて作るんだよ。魔法には使えないけど魔力は空気中に満ち溢れていて、その圧力で体から出る魔力を抑えているの。だから、魔力が少ないと勢いが生まれないから外へ出る魔力も少なくなって、結果、魔法も弱くなるって訳だよ」
「はあ……」
「で、魔力は手から出てくるんだからそこを魔力ゼロの状態に制御して引っこ抜いて、魔力を強くかけて押し出す。それを魔法に変える。レクトの手に手を添えてこの一連の動作をやればいいんだよ」
「はあ……」
俺には突拍子もない話すぎて、ため息しか漏れない。お前もだろうとシャルロッテの顔を見ると、予想外に朱色に染まっていた。どこか目を泳がせ、困ってるような、嬉しさを孕むようなもどかしい表情だ。
「まっ、簡単ではないかもね。女騎士にできるかもわからないし」
「や、やりたい! やらせてくれ!」
シャルロッテはツクモの前に出て、食いかかるように頼んだ。
氷の雨が草原に降り、目の前のゴブリン達は氷の礫にあっちらこっちらと逃げ惑うもやがて、穴だらけになり絶命をした。
「これで依頼達成だなレクト!」
「あ、ああ」
強力な魔法を使っても元気なことが嬉しいのか頰が上気するシャルロッテ。反対に俺は目の前の惨状に少し怖気づき、返答がうわずった。
大会まであと三日、シャルロッテの魔法が使えるようになったかの訓練に付き合い、度々人を襲うゴブリンの討伐に来ていた。
シャルロッテはレッドギュウを食べたあの日から魔力が増大し、魔法を使い続け、氷魔法のスキルのレベルを3まで上げた。
俺は今、レベル3で使えるアイシクルレインを目の当たりにしたのだが、これ程の威力があるとは。
魔法の威力は魔力に依存しているため、魔力をたくさん込めれば小さな火の玉も大きな燃え盛る業火球に変わる。
つまり、魔力をたくさん込められるシャルロッテの魔法はとんでもないのだ。
「これなら、俺まで大会に出る必要はないだろ」
この前、シャルロッテはもし負けた時のために俺にも出場してくれと頼んで来た。俺は気休めにでもなればと参加することを承諾したのであったが、今の魔法を見る限り俺の出る幕はないだろう。
「そうか……。レクトが出たくないというのなら別にいいんだ」
そう言ってシャルロッテが目を伏せ、悲しそうな顔をする。なぜか、罪悪感が湧き、慌てて取り繕う。
「い、いや出たくないというわけじゃないんだ。だけど、シャルロッテが勝てない相手に俺が勝てるわけないっていうか」
「ま~た、レクトは卑屈になってるね!」
後ろからツクモの声が聞こえた。振り返るとツクモは草はらから顔を出した大きな石の上に腰をおろして、レッドギュウのサンドイッチを食べていた。
「そうは言ってもよ。シャルロッテは魔力が増大して強くなったけど。俺は魔法が使えないんだ」
「確かにレクトは魔法使えないもんね!」
ツクモは手についたソースをどこか艶かしく舐めてから、ケラケラと無垢に笑った。
「なあ、ツクモ。レクトに魔法を使わせてやることはできないのか?」
「ないよ。スキルがない人はどれだけ魔力を持っていたとしても使えない」
「そうか……」
シャルロッテが顔に影を落とした。自分のために悲しんでくれているのだろう。
俺は自分のものかシャルロッテのものか、はたまた両方かわからない暗い気持ちを吹き飛ばすように笑い飛ばした。
「何言ってるんだよ。そんなのわかりきってるから使おうとも使いたいとも思わねえよ」
シャルロッテは何かに堪えるようにグッと拳を握ってから、どこかぎこちなく笑った。
「それなら良かったよ」
二人の間で触れれば壊れそうなガラス細工のような空気が流れる。
俺は魔法が使えないことなんて……少し思うところはあるが、気にはしていない。けれどシャルロッテに気遣せたとしたら自分が情けなくなる。
「本当、めんど臭い二人だね」
ツクモがため息を吐いてやれやれと首を振った。
空気が弛緩する。
「じゃあレクト、魔法は使えないけど魔力は使ってみる? ちょうど女騎士の装備と制御の訓練になるし」
「はあ?」
「ほら、私がさっき座っていた岩。あれ、ところどころミスリルが混じってるよ」
「はああああ!?」
突然のツクモの発言にただただ驚くことしかできない。
「そ、それは本当か? ミスリルとは神話の時代の鉱物だぞ!?」
少し遅れて、シャルロッテがあたふたしながら尋ねた。
驚くのも当然で、ミスリルは物語にしか出てこない白銀色の鉱物だ。ミスリルで作られた剣は鉄を容易く裂き、ミスリルの鎧はどんな魔法にも傷一つつかない。まさに伝説の素材だ。
「うん。そもそもミスリルっていうのは、ミスリル原子が電子の代わりに魔力で結合した結晶のことを言うんだよ。ミスリルは過不足なく魔力でミスリル原子同士結合していてね、電子で結合したものよりかなり強く結合するんだよ。だから魔力への耐性と強度も優れるってわけ」
「「……」」
俺とシャルロッテは互いに顔を見合わせ首をひねった。
良かった。ツクモが何を言っているのかわからないのは俺がバカな訳ではないようだ。しかし、理屈はわからなくともミスリルは欲しい。
「どうやったら手に入れられるんだ?」
「簡単だよ! 岩を融かして、熔かせずに残ったものがミスリルだよ!」
ツクモはニコニコとして軽く言ってのけたが、岩を溶かすなんて相当だ。書物で読んだことのある火山の熱は岩をも溶かすほどだというが、そんな魔法を使える人間なんて聞いたことがない。
「ミスリルは諦めようかシャルロッテ……」
「そうだなレクト……」
シャルロッテと俺は示し合わすように頷いた。早々に諦めた俺たちにツクモは不満を叫ぶ。
「ええ!? なんで!? せっかく私が説明したのに!」
「だって岩を溶かす方法なんてないだろ」
「あるよ! レクトのバカみたいな魔力をシャルロッテが使えばいいじゃん!」
俺にそんな魔力があるのか? それに人の魔力を使えるなんて聞いたことがない。
「そんなことできるのか?」
俺の気持ちを代弁するかのようにシャルロッテが尋ねた。
「うん。レクトは私を手にしても気が触れないくらいに膨大な魔力があるからじゃんじゃん使っちゃってもいいよ!」
「よくわからないが、そうなのか? だがどうすればいい?」
「えっと何から説明すれば……。前提として、魔法って人間が作った魔力を人の手から放って実態化させて作るんだよ。魔法には使えないけど魔力は空気中に満ち溢れていて、その圧力で体から出る魔力を抑えているの。だから、魔力が少ないと勢いが生まれないから外へ出る魔力も少なくなって、結果、魔法も弱くなるって訳だよ」
「はあ……」
「で、魔力は手から出てくるんだからそこを魔力ゼロの状態に制御して引っこ抜いて、魔力を強くかけて押し出す。それを魔法に変える。レクトの手に手を添えてこの一連の動作をやればいいんだよ」
「はあ……」
俺には突拍子もない話すぎて、ため息しか漏れない。お前もだろうとシャルロッテの顔を見ると、予想外に朱色に染まっていた。どこか目を泳がせ、困ってるような、嬉しさを孕むようなもどかしい表情だ。
「まっ、簡単ではないかもね。女騎士にできるかもわからないし」
「や、やりたい! やらせてくれ!」
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