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目の前に広がるのは暗い天井。体の上には柔らかい毛布がかけられており、暖かい。目天井には見覚えがあり、泊まっている宿屋で、今まで寝ていたのだと理解する。
部屋は、窓から差し込む青白い月光が差し込み、何気ない風景だというのにどこか情緒を感じた。
喉の渇きを自覚し、水を飲もうと体を横に向けると、黒い影がベッドに腰掛けているのが見えた。
「起きたのか!?」
影は俺に気づいたのか飛び上がり、しゃがみこんで横たわる俺と目線を合わす。瞳はこんな暗い部屋なのにオパールのような美しい輝きを放っていた、月光が涙を輝かせているからかもしれない。
なるほど。俺は倒れてシャルロッテに宿屋まで運ばれたということか。どうやらまた心配をかけてしまったようだ。情けない。
「すまない。シャルロッテ迷惑かけた」
「……っ!? こんな時まで……悪いのは私だ! 何も理解せずに魔力を使いすぎた私だ!」
シャルロッテは悲痛の声を漏らした。
知らなかったのは俺も同じだ。倒れる前に限界を見極められなかった俺に非がある。
「いや、俺が悪い。本当にシャルロッテには迷惑をかけてばかりだな。本当に申し訳ない」
毛布を引き剥がし、上半身を起こして頭をさげる。
「やめてくれ! 私はお前に謝られることなんてなにもない!」
シャルロッテは強い口調でそう言った。
「いや、俺には謝ることしかないよ。急に婚約破棄になったり、それに今思い出したけど、ほら覚えてるか? 俺が君に一度怒ったことがあったよな。その時も悲しませたし、俺は君に嫌な思いをさせてきてばかりだ」
月明かりの下で、シャルロッテは唇を噛んで何かに耐えるような必死な表情をしている。
罪悪感をいたずらに刺激してしまったか。本当に自分の無神経さに嫌気がさす。
俺はシャルロッテの気を紛らわせる為に話を変えようと口を開いた。
「そういえば、今は何時だ?」
「……今は大会の前日の夜だ」
「ミスリルの盾は?」
「……ツクモに預かってもらってる」
「それなら良かった! これで大会に盾を使えるな!」
陽気にそう告げると、突然シャルロッテは立ち上がり激昂した。
「馬鹿!! 安静にしてろ! 大会になんて出るな!」
「いや、俺に出場させてくれ。俺がシャルロッテの為に出来ることなんてこれぐらいしかないからさ。それによく寝たせいか、体はいつもより調子がいいんだよ」
シャルロッテは本気に受け取っていないのか疑いの目を向けてきたが、俺はまっすぐにシャルロッテの目に合わせた。
シャルロッテに気遣わせないようにする意図なんてなく、実際に体の調子がすこぶる良いのだ。俺の言葉には何の偽りもない。
少しして、シャルロッテは大きな息を吐き、落ち着いて口を開く。
「どうやら本当のようだけど、出なくて良い。それに私はなにもレクトに嫌な思いをしてきていない」
本当に器の大きな人間だ。婚約も自分が嫌なのにもかかわらず黙って受け入れ、今も明日の大会で勝てるか不安で仕方ないはずなのに気遣って大会に出ないように強く言い聞かせようとしてくる。
そんなシャルロッテに意思がより固まる。
「シャルロッテが望んでなくてもさ、俺は出るよ。俺はただ単純に、散々嫌なことをしてきたのに、何も恩を返さない自分が許せないんだよ」
シャルロッテは何かに耐えるような苦しい表情になり、ぎゅっと自分の胸ぐらを掴んで小さく呟く。
「本当にレクト……お前ってやつは。本当に……」
シャルロッテはそのまま俯いて黙り込んだ。
二人を薄い煙りがかった月光と静寂が包みこむ。
そしてシャルロッテが面を上げ、静寂を破った。
「なあレクト? ミスリルを私にもくれるっていう約束覚えてるか?」
「覚えてるよ。ミスリルで出来る欲しいものでも空想しておくと言ってたけれど、思いついたのか?」
「ああ。もし私が明日の大会で全部勝てばさ……」
「うん」
「ミスリルの指輪が欲しい」
部屋は、窓から差し込む青白い月光が差し込み、何気ない風景だというのにどこか情緒を感じた。
喉の渇きを自覚し、水を飲もうと体を横に向けると、黒い影がベッドに腰掛けているのが見えた。
「起きたのか!?」
影は俺に気づいたのか飛び上がり、しゃがみこんで横たわる俺と目線を合わす。瞳はこんな暗い部屋なのにオパールのような美しい輝きを放っていた、月光が涙を輝かせているからかもしれない。
なるほど。俺は倒れてシャルロッテに宿屋まで運ばれたということか。どうやらまた心配をかけてしまったようだ。情けない。
「すまない。シャルロッテ迷惑かけた」
「……っ!? こんな時まで……悪いのは私だ! 何も理解せずに魔力を使いすぎた私だ!」
シャルロッテは悲痛の声を漏らした。
知らなかったのは俺も同じだ。倒れる前に限界を見極められなかった俺に非がある。
「いや、俺が悪い。本当にシャルロッテには迷惑をかけてばかりだな。本当に申し訳ない」
毛布を引き剥がし、上半身を起こして頭をさげる。
「やめてくれ! 私はお前に謝られることなんてなにもない!」
シャルロッテは強い口調でそう言った。
「いや、俺には謝ることしかないよ。急に婚約破棄になったり、それに今思い出したけど、ほら覚えてるか? 俺が君に一度怒ったことがあったよな。その時も悲しませたし、俺は君に嫌な思いをさせてきてばかりだ」
月明かりの下で、シャルロッテは唇を噛んで何かに耐えるような必死な表情をしている。
罪悪感をいたずらに刺激してしまったか。本当に自分の無神経さに嫌気がさす。
俺はシャルロッテの気を紛らわせる為に話を変えようと口を開いた。
「そういえば、今は何時だ?」
「……今は大会の前日の夜だ」
「ミスリルの盾は?」
「……ツクモに預かってもらってる」
「それなら良かった! これで大会に盾を使えるな!」
陽気にそう告げると、突然シャルロッテは立ち上がり激昂した。
「馬鹿!! 安静にしてろ! 大会になんて出るな!」
「いや、俺に出場させてくれ。俺がシャルロッテの為に出来ることなんてこれぐらいしかないからさ。それによく寝たせいか、体はいつもより調子がいいんだよ」
シャルロッテは本気に受け取っていないのか疑いの目を向けてきたが、俺はまっすぐにシャルロッテの目に合わせた。
シャルロッテに気遣わせないようにする意図なんてなく、実際に体の調子がすこぶる良いのだ。俺の言葉には何の偽りもない。
少しして、シャルロッテは大きな息を吐き、落ち着いて口を開く。
「どうやら本当のようだけど、出なくて良い。それに私はなにもレクトに嫌な思いをしてきていない」
本当に器の大きな人間だ。婚約も自分が嫌なのにもかかわらず黙って受け入れ、今も明日の大会で勝てるか不安で仕方ないはずなのに気遣って大会に出ないように強く言い聞かせようとしてくる。
そんなシャルロッテに意思がより固まる。
「シャルロッテが望んでなくてもさ、俺は出るよ。俺はただ単純に、散々嫌なことをしてきたのに、何も恩を返さない自分が許せないんだよ」
シャルロッテは何かに耐えるような苦しい表情になり、ぎゅっと自分の胸ぐらを掴んで小さく呟く。
「本当にレクト……お前ってやつは。本当に……」
シャルロッテはそのまま俯いて黙り込んだ。
二人を薄い煙りがかった月光と静寂が包みこむ。
そしてシャルロッテが面を上げ、静寂を破った。
「なあレクト? ミスリルを私にもくれるっていう約束覚えてるか?」
「覚えてるよ。ミスリルで出来る欲しいものでも空想しておくと言ってたけれど、思いついたのか?」
「ああ。もし私が明日の大会で全部勝てばさ……」
「うん」
「ミスリルの指輪が欲しい」
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