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5話
しおりを挟む廊下にはフレシア・スチュアート公爵令嬢が待っていた。
「おかえりなさい。サイラス公爵令嬢。皆さん第1王子が迎えに来た騒ぎに第2王子の急ぎながらこなす挨拶に…正直サイラス令嬢には迷惑をかけられてますの。これ以上何か問題を起こさないで頂けると有難いのですが」
正直、何も言わずに前日の晩に私を王妃候補と決めた陛下とお父様が悪い。けど側近と前もって約束してたなら怪しまれないように王妃候補として入ったとしてもおかしくはなかった。
そう考えれば自分にも過失がある。
「…申し訳ございませんスチュアート公爵令嬢。これからは気をつけます」
「わかってくださればいいのよ。皆第2王子と会える時間は限られてますの。あなたが幼なじみだからといってわがままが許されるのはおかしいですわ!今後は皆と同じように王妃候補として秩序を乱さないようお願いしますね」
「わかりました。今後はこのようなこと起こしません。ご忠告ありがとうございます。」
どこかの部屋から数人のスチュアート公爵令嬢の言葉に拍手が響いた。
わたしは部屋に戻り大きくため息をついた。
「トレシア嬢、お疲れのようですね。今回は第1王子が騒ぎを起こしたわけであって令嬢が悪い訳では無いと私は理解しております」
「エナ……。ありがとうございます。でもセオドアについて行き、エレンの言葉(挨拶が終わり次第行くよ)にも頷いたのは私ですから…私にも非がありました。今後はこんなこと無いようにしないとね…」
「頑固な令嬢なら絶対自分の非は認めませんから。王子たちが仲良くしてる理由がよく分かりますわ」
「そんな…褒められるような事はしておりませんわ…でもそう言っていただきありがとうございます。」
私は侍女であるエレナ・ボルパン令嬢に褒められ少し恥ずかしくなった。普通に絡んでくれる令嬢ももちろんいるけれどやっぱり王子ファン達からは嫌われてる分、侍女がボルパン令嬢で無ければ悪意のある侍女がつく可能性もないわけではない。
その辺は皇后が配慮してくれたのかな…。
「ふふふ。敬語じゃなくて構いませんよ。私は今は令嬢ではなく王妃候補…トレシア嬢の侍女ですから」
「そんな、ボルパン令嬢に愛称でお呼びするだけでも…。では、エナも敬語をお辞めください。そして私のことも普段はシアと…。そうしてくれたら私も敬語を辞めますわ」
「まあ、王妃候補様がそんなこと言ってはなりませんよ。立場が上なんですから」
「令嬢であろうと王妃候補であろうと人間には変わりませんわ。仲良くなりたいお方と敬語を辞めるのは悪いことではありません」
「ふふふ。その考え方は嫌いではありません。私もトレシア令嬢を心から応援したくなりました。では敬語を辞めさせてもらうわね」
「そんな……応援なんて。私はあくまで側近という形だから…」
「側近という形で候補になったとはいえ皇帝陛下や皇后陛下がトレシア様に王妃になる事を望んでるとなれば私からすれば王妃候補に変わりありませんのよ」
「私はエレンに恋愛感情を持ってないから結婚なんて考えられないわ…」
「ふふふ。恋愛感情が後からついてくる結婚もありますのよ。何にしても私は令嬢を応援してますわね。それよりお疲れを癒すためにお風呂の用意をしておいたのでゆっくり湯に浸かって体を癒しましょう」
「エナ…ありがとう」
次の日
「おはようございます。トレシア嬢」
「ん…おはようございます。エナ」
「だから侍女に敬語はおやめ下さいと言ったはずですわよ」
「だって、えなが先に…」
「わたしは仕事の時は敬語を使わないと流石に他の侍女達に示しがつかないでしょう?」
「確かにそうね…。分かったわ。普段は普通に話してね」
「もちろんですわ。今日から1週間程は部屋で王妃のための教育になります。なので先生方が部屋へ来られるので部屋に食事も運びますね」
「1週間はほかの令嬢たちと会わないのね」
「ええ。ほかの令嬢達も嗜みはある程度出来ておられるかと思いますが帳簿の書き方を知らない令嬢も居られるとのことで念の為に1週間は王妃候補として個々で磨いて頂く期間として与えられたの。」
「そう…」
「今日はまずお茶会でのマナー講師が来られる予定なのでテーブルはもてなすための準備をした方がいいですわ。ちなみにシアが1番最後よ。」
「私が最後なのね。お茶会の準備…。じゃあ…お庭の水色のバラを用意してほしいの。あとはお茶にはちみつ入りのモモの果汁とレモンの果汁、お茶菓子はプレーンのクッキーを用意してもらってもいい?」
「ふふ、さすがね。もうコンセプトが決まってるなんて。すぐ用意致しますわ。」
「ありがとう。」
既に敵意は向いてるけどこのお茶会が完璧であればあるほど私を邪魔に思って仕掛けてくる令嬢を炙り出せる。
思い通りにならないことに何かを仕掛けるような令嬢を王妃にさせる訳にはいかないもの。
全て完璧にこなしてみせるわ!
「お茶会の準備が整ったわ。今日のドレスはどんな感じにしましょう」
エナは何着かドレスを見せてくれる。
「薄い緑のドレスをお願い」
薄い緑に肩はレースになっていてシンプルだけど可愛いドレス。
「かしこまりました。じゃあ髪型はアップにさせてもらうわね」
「ええ。ありがとう」
「ふふ。シアならこんな感じのドレスにするのかなって考えながらも私の好みも混ぜて出てきたのよ。そしたらシアが同じドレスを選んだからびっくり」
「そうだったの?私も嬉しいですわ。」
無意識に令嬢達の目が嫌であまり肩や胸元を出したドレスや女性らしさが目立つ綺麗なドレスは避けてばかり着ていたけど王妃候補となった今、気にすることが無くなって好みなドレスを着ることができるのかもしれない。
「思ったより時間がだいぶ余りましたわ。本でもご用意しましょう。」
「ええ。ありがとう」
私はエナにどんな本が好みかを伝え、持ってきてくれた本を読みながら待つことにした。
コンコンッ
「あ、お茶の講師様が来てくれたみたいですね」
わたしは息を飲み頷いた。
今まで通り普通にしていればいいと分かっていても見極められると思うと少し緊張する。
「ようこそいらっしゃいました。第9王妃候補のトレシア・サイラスと申します。先生、今日はよろしくお願いします」
エナは何も言わずともお湯の準備をしてくれている。
「まあ、もうお茶会が始まってるようですね。」
「ええ。私が最後との事なのでお疲れでしょうから先に席に着いて頂きたくて」
「お気遣い感謝致しますわ。私はマナー講師のテレサです。サイラス公爵令嬢にはあまりお茶会の作法など必要無いとは思っておりますが、今日はお茶会での作法を学んで頂ければと。ですから何かあればすぐに注意させて頂きますのでよろしくお願いしますね。では席につかせて頂きましょう」
ニコッと微笑み頷き先生が席に着いたのを確認しシアも同じように席についた。
「今日のお茶は良ければ桃の果汁とレモンの果汁どちらかお好みで入れてお飲みください。桃にもレモンにもはちみつが入ってるので少し甘みはありますからお砂糖はお好みで入れてお召し上がりください」
「あまり聞いた事のないお茶の飲み方ですのね。じゃあ桃をいただいてみましょう」
「ええ。お母様がよく飲んでいたので先生にも是非勧めたくて。」
「まあ。とても美味しいですわ。ほっとする味ね」
先生の好みに合いほっと安心する。
桃やレモンには疲労回復効果があるためにお母様がよく一息つく時に飲んでいた思い入れのあるお茶だった。
「あら。お茶菓子はあまり豪華ではありませんがこれは何か考えがあっての事かしら。」
「ええ。8人の王妃候補様とお茶をしてらっしゃるので豪華なお茶菓子は必要ないと考えてこのお茶に合うシンプルなクッキーがいいと思いましたの」
「そう。気遣いにお茶の飲み方に全て完璧ですわ。それにこの水色の薔薇。他の子達はみんな皇后陛下を慕う気持ちで青い薔薇を飾ってましたが何故水色の薔薇に?」
「皇后陛下が青とすれば私はまだまだ未熟者ですから……。皇后陛下を目指すものとして水色の薔薇を選んだのです。」
「トレシア令嬢はよく考え用意してくれましたね。他の令嬢と比べて準備時間が大いにあったとはいえここまで考えてお茶の準備をしたのは素晴らしいですわ」
「テレサ様?侍女の立場から失礼しますがシア様は令嬢達の同じ朝一番にお茶があるとお伝えしてすぐにお決めになったのです「ちょっエナ……」
「まあ。令嬢本当ですか?」
「え、ええ。最後に来るとお聞きしたので」
「さすがサイラス公爵令嬢ですわね。王子たちが懐く訳ですわ。」
「そうですね。私もトレシア嬢のことを応援したくなったので思わず口を出してしまいましたの」
「まあ。このお茶会の準備嗜み方も謙遜的でマナーとしてもバッチリですから素晴らしい令嬢だということはよくわかりました。ですが今は学ぶ期間ですがテストでは平等ですからね。」
「もちろんですわ。お褒めのお言葉感謝致します。エナもありがとう。」
「それではそろそろ失礼させて頂きますね」
「はい。ありがとうございました」
ガチャ
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