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第三章 現代編(春美の才覚)
28 春美の才覚①
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客間から書斎に戻った隆之は、たぶん寝たばかりの春美に連絡してヤングクラブ"里"の面倒を見てくれるように依頼した。さすがの春美も自分を敵視している里美の店の面倒を見ろと言う申し出には当惑していたが事情を説明すると何とか納得して引き受けてくれた。裏口のキーを隠した場所なども説明しておいたので春美なら万事怠り無く上手く纏めてくれるだろう。
隆之は自分のネット口座から春美の口座に、ヤングクラブ"里"の立て直しに必要と思われるが経営資金を振り込んでおいた。
書斎のベッドで仮眠を取り、目を覚ますと朝の7時半前だった。隆之は森下製作所の経理部課長の日潟小百合に取り敢えず1ヶ月ほど経理担当として知り合いの店に出向して貰えないか打診した。
日潟小百合は本来なら4月の人事異動で執行役員経理部長に昇格するよう隆之が社長引退前にお膳立てしていたのだが、当時執行役員の息子が新規取引先の口車に騙され大きな損失を出しそうになった時、息子をこっ酷く叱責し、その取引先と手を切らせた事があった。実は致命的とまではいかないが、息子の行為が経理上に穴を作っていたのを表沙汰にならないよう上手く処理してくれたのが日潟小百合であった。
本来なら日潟課長に感謝はしても恨みを持つのは筋違いなのだが、自分より若い女課長に叱責された事を根に持った息子が社長就任すると人事部に干渉し、日潟小百合の昇格をキャンセルさせてしまったのだ。
経営者としてそれなりにセンスがある長男に父親として期待を込め社長職を譲ったが個人的感情で人事に干渉した息子を1年以内に更迭する事に決めていた。
経営から一歩引いたとは言え、未だに森下製作所全発行株の20%を握る個人筆頭株主である隆之が強権発動すれば長男を更迭するのは簡単ではあったが、それでは後々に痼りを残す事になる。
そんな時、日本電池の広末専務と我が社の山野専務が森下製作所に対して敵対工作を目論んでいる事を知った隆之は、2人の計画を阻止すると同時に山野を専務に取り立てた長男を更迭する良い理由が出来たと内心喜んでいた。
現社長に嫌われている事に気付いている日潟課長は転職を考えていた事もあり、喜んで引き受けてくれた。本人の了解が得られた事で、長男の社長に日潟課長の短期出向依頼を出すと、
「彼女など居なくても困りませんから、1ヶ月の出向などと言わず、転籍させても僕は構わないので、親父の好きなようにしてくれ」
息子は予想通りの返事をくれた。
折り返し、日潟課長に連絡を入れ、
「小百合君、内の馬鹿息子が迷惑ばかり掛けて申し訳無い。後ほど、櫻井春美が電話を掛けて来るので宜しく頼む。森下製作所に残ってくれるなら1年遅れとなってしまったが、経理部長ポストは約束する。ただ、櫻井春美に興味が湧けば彼女を手伝って欲しい」
一通り連絡を終え、書斎でコーヒーを飲みながら研究書類に目を通していると、書斎の扉がノックされた。
「どうぞ」
隆之が応えると、すみれと茜の2人が入って来た。シャンプーの香がするので隆之がメモに残した通り浴室でシャワーを浴びて来たのだろう。
「待っていなさいと言われたのに、茜ちゃんとベッドでお話ししてる内に眠ってしまって、本当に御免なさい。そう言えば里美ママは?」
「里美ママの事は暫く忘れなさい。取り敢えず、誰かに聞かれたら昨晩倒れて緊急入院中、絶対安静の面会謝絶なので最低でも2ヶ月は入院するだろうと答えなさい。それと"里"の事だけど、クラブ"グランデ"の春美ママが臨時でママになってくれるので、それらを含めて従業員達に説明したいので、ホステス達が出勤する前に行こうと思うが何時にしようか?」
腕時計を見ると既に正午を過ぎていた。
「17時にはボーイさんが出勤して掃除など始めていますけど」
「ここから、渋滞していなければ3時間足らず、今直ぐ出たほうが良さそうだな」
館を出て樹海を抜けると、隆之のベンツが銀座の駐車場から樹海の入口に廻されていた。代わりに、里美のBMWは無くなっているので、古舘綾子が黒沢さんに頼んで配下を動かしてくれたのだろう。2人を後部座席に乗せ出発したが、2人が里美のマンションに着替えを取りに行かせてくれと、お願いして来たが万が一にでも広末専務と今は鉢合わせする訳にはいかないので、大切なモノが有るからと訴える2人を説得し、隆之が許可するまで里美のマンションには決して近づか無いと約束させた。
途中、懇意にしているホテルのフロント嬢に連絡を入れ付随のショッピングホールで2人の下着と服を数組購入して貰っておいたので、ホテルに到着すると従業員更衣室で着替えさせた。
食事はジャンクフード店で飲み物とハンバーガーを車内で与え、何とか17時前に里美の店に着いた。裏口から入ると、春美が連れて来たであろう年配のボーイが数名の作業員と早めに出勤して来た若いボーイを使って店内の模様替えをほぼ終えていた。
18時を少し過ぎて、当日出勤予定のホステス達が揃うと春美が緊急ミーティングを始める。
里美が深夜に倒れ現在面会謝絶中の為、里美の意識が回復し店に復帰出来るまで春美が代理ママとして此の店を面倒見ると話し、すみれと茜が信憑性を高める意味で補足説明を行う。
他店から引抜いたホステス、ほとんどが元"花"と"グランデ"に居たホステスだか、その中の2人をチーママとして残し、他は春美が高額の支度金に目が眩み、安易に転籍するからと軽く叱責した後、"花"、"グランデ"や他店への紹介状、給与、少額ながら支度金を渡し、今日中に紹介した店に顔を出すよう指示して退店させた。
昼過ぎに日潟小百合と待ち合わせした春美は、2人でヤングクラブ"里"の帳簿類を調べ、従業員給与を最大幾らまで出せるか試算し、今回は完全持ち出しとなる事を承知で全員の賃上げを断行した。
本来、本日の営業終了後に一人一人個別に渡される給与が開店前に配られ、中身も大幅増となって、従業員やホステス達のヤル気も盛り上がる。
それに、早めに出勤したボーイから聴き集めたホステスや従業員の不満を選別し即興で対策案を矢継ぎ早に提示した。
この臨時ママの一件から、櫻井春美と日潟小百合が意気投合し、それに隆之によって改心させられた寺崎里美が加わり春美の全国展開が始まり、マスコミに注目されるのはもう少し先の話である。
隆之は自分のネット口座から春美の口座に、ヤングクラブ"里"の立て直しに必要と思われるが経営資金を振り込んでおいた。
書斎のベッドで仮眠を取り、目を覚ますと朝の7時半前だった。隆之は森下製作所の経理部課長の日潟小百合に取り敢えず1ヶ月ほど経理担当として知り合いの店に出向して貰えないか打診した。
日潟小百合は本来なら4月の人事異動で執行役員経理部長に昇格するよう隆之が社長引退前にお膳立てしていたのだが、当時執行役員の息子が新規取引先の口車に騙され大きな損失を出しそうになった時、息子をこっ酷く叱責し、その取引先と手を切らせた事があった。実は致命的とまではいかないが、息子の行為が経理上に穴を作っていたのを表沙汰にならないよう上手く処理してくれたのが日潟小百合であった。
本来なら日潟課長に感謝はしても恨みを持つのは筋違いなのだが、自分より若い女課長に叱責された事を根に持った息子が社長就任すると人事部に干渉し、日潟小百合の昇格をキャンセルさせてしまったのだ。
経営者としてそれなりにセンスがある長男に父親として期待を込め社長職を譲ったが個人的感情で人事に干渉した息子を1年以内に更迭する事に決めていた。
経営から一歩引いたとは言え、未だに森下製作所全発行株の20%を握る個人筆頭株主である隆之が強権発動すれば長男を更迭するのは簡単ではあったが、それでは後々に痼りを残す事になる。
そんな時、日本電池の広末専務と我が社の山野専務が森下製作所に対して敵対工作を目論んでいる事を知った隆之は、2人の計画を阻止すると同時に山野を専務に取り立てた長男を更迭する良い理由が出来たと内心喜んでいた。
現社長に嫌われている事に気付いている日潟課長は転職を考えていた事もあり、喜んで引き受けてくれた。本人の了解が得られた事で、長男の社長に日潟課長の短期出向依頼を出すと、
「彼女など居なくても困りませんから、1ヶ月の出向などと言わず、転籍させても僕は構わないので、親父の好きなようにしてくれ」
息子は予想通りの返事をくれた。
折り返し、日潟課長に連絡を入れ、
「小百合君、内の馬鹿息子が迷惑ばかり掛けて申し訳無い。後ほど、櫻井春美が電話を掛けて来るので宜しく頼む。森下製作所に残ってくれるなら1年遅れとなってしまったが、経理部長ポストは約束する。ただ、櫻井春美に興味が湧けば彼女を手伝って欲しい」
一通り連絡を終え、書斎でコーヒーを飲みながら研究書類に目を通していると、書斎の扉がノックされた。
「どうぞ」
隆之が応えると、すみれと茜の2人が入って来た。シャンプーの香がするので隆之がメモに残した通り浴室でシャワーを浴びて来たのだろう。
「待っていなさいと言われたのに、茜ちゃんとベッドでお話ししてる内に眠ってしまって、本当に御免なさい。そう言えば里美ママは?」
「里美ママの事は暫く忘れなさい。取り敢えず、誰かに聞かれたら昨晩倒れて緊急入院中、絶対安静の面会謝絶なので最低でも2ヶ月は入院するだろうと答えなさい。それと"里"の事だけど、クラブ"グランデ"の春美ママが臨時でママになってくれるので、それらを含めて従業員達に説明したいので、ホステス達が出勤する前に行こうと思うが何時にしようか?」
腕時計を見ると既に正午を過ぎていた。
「17時にはボーイさんが出勤して掃除など始めていますけど」
「ここから、渋滞していなければ3時間足らず、今直ぐ出たほうが良さそうだな」
館を出て樹海を抜けると、隆之のベンツが銀座の駐車場から樹海の入口に廻されていた。代わりに、里美のBMWは無くなっているので、古舘綾子が黒沢さんに頼んで配下を動かしてくれたのだろう。2人を後部座席に乗せ出発したが、2人が里美のマンションに着替えを取りに行かせてくれと、お願いして来たが万が一にでも広末専務と今は鉢合わせする訳にはいかないので、大切なモノが有るからと訴える2人を説得し、隆之が許可するまで里美のマンションには決して近づか無いと約束させた。
途中、懇意にしているホテルのフロント嬢に連絡を入れ付随のショッピングホールで2人の下着と服を数組購入して貰っておいたので、ホテルに到着すると従業員更衣室で着替えさせた。
食事はジャンクフード店で飲み物とハンバーガーを車内で与え、何とか17時前に里美の店に着いた。裏口から入ると、春美が連れて来たであろう年配のボーイが数名の作業員と早めに出勤して来た若いボーイを使って店内の模様替えをほぼ終えていた。
18時を少し過ぎて、当日出勤予定のホステス達が揃うと春美が緊急ミーティングを始める。
里美が深夜に倒れ現在面会謝絶中の為、里美の意識が回復し店に復帰出来るまで春美が代理ママとして此の店を面倒見ると話し、すみれと茜が信憑性を高める意味で補足説明を行う。
他店から引抜いたホステス、ほとんどが元"花"と"グランデ"に居たホステスだか、その中の2人をチーママとして残し、他は春美が高額の支度金に目が眩み、安易に転籍するからと軽く叱責した後、"花"、"グランデ"や他店への紹介状、給与、少額ながら支度金を渡し、今日中に紹介した店に顔を出すよう指示して退店させた。
昼過ぎに日潟小百合と待ち合わせした春美は、2人でヤングクラブ"里"の帳簿類を調べ、従業員給与を最大幾らまで出せるか試算し、今回は完全持ち出しとなる事を承知で全員の賃上げを断行した。
本来、本日の営業終了後に一人一人個別に渡される給与が開店前に配られ、中身も大幅増となって、従業員やホステス達のヤル気も盛り上がる。
それに、早めに出勤したボーイから聴き集めたホステスや従業員の不満を選別し即興で対策案を矢継ぎ早に提示した。
この臨時ママの一件から、櫻井春美と日潟小百合が意気投合し、それに隆之によって改心させられた寺崎里美が加わり春美の全国展開が始まり、マスコミに注目されるのはもう少し先の話である。
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