7人の僕が世界を作り直すまで 〜連続殺人犯の僕は神に選ばれたので、せっかくだし世界をブッ壊したいと思います〜

セリシール

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第1章『集え彦星、女神の下に』

1章2話『全ては僕の手のひらの上で』

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「貴方が…………あの天空神アテナなのか?」

 雨の音しか聞こえない静寂を破ったこの一言。
 少し険しい顔のタクトの問に彼女は静かに頷いた。

「いかにも、私が世界を統べし7柱の1人"天空神アテナ"です」

 アテナは冗談じみた口調でタクトの問に返した。

 7柱。
 神話の中では、ある一人の神が自分の死に際に体を7つに分けた時にその欠片から生まれた神々の総称。
 7柱は、7人で協力してこの世界を作り上げたと言われる。

「僕も…………子供の頃から神話とか読んできたからどんな神様かは知っている」

 タクトはナイフを持った手を下げ、少しアテナに近付いた上で言った。

「だからこそ、どうしても聞かなければいけないことがある」

 タクトは強く言った。目を開き、相手を威圧するかの様な力を感じるほどの気迫を放っていた。

 対してアテナは目を閉じていた。
 タクトが次に自分に言うことが分かっていて、それにいつでも対応できるように。

「何故、僕を生き返らせた?7柱ともあろう貴女が僕をもう一度この世に呼び戻した目的は何だ?」

 アテナは自分の推測が図星だったため、思わず笑みを溢してしまった。
 アテナはゆっくりと、自分の目的を語りだした。

「私達7人は、世界を作る時に人間が世界を埋め尽くす程に進化を遂げる事はわかっていました。そして、それが避けられない運命だと言うこともわかっていました」

 人類は他の生物とは比べ物にならない程の進化を遂げてきた。
 初めは猿人と言った思考力の無い動物に過ぎなかった人間は、
 いつしか大陸を渡り、海を渡り、最後には空を飛んだ。

 進化には大きく分けて2つの種類がある。
 他の生物と共存する為の進化か、
 他の生物と競争する為の進化か。

 人間が今まで行ってきた進化は前者とも後者とも取れるが、
 大半の哲学者は後者と認めるだろう。

 タクトがそんな事を考えている間にもアテナは口を動かしていく。

「しかし、人間は我々の予想以上に進化を遂げてしまい我々の組み上げた管理命令の枠を飛び越えてしまったのです。そして遂に、エラーが発生してしまいました」

 タクトは眉間にシワを寄せて聞き返した。

「エラー………だと?」

「我々は人間という概念を生み出す時に、生み出した人間に番号を付けたんです。識別番号として管理するために。エラーが発生したのはそこです」

 人間の識別番号。聞いただけでも恐ろしい。

「識別番号29695834番、コードネーム"ベガ"が突如人間の形を失い始めたんです」

「人間の形を失い始めた、ねぇ……………」

 これも一種の進化の形の内と考えても良いのだろうか。
 29695834番だけが他の番号を置いてきぼりにしつつ独自の進化を遂げて来たと考えれば何も不思議には感じない。

「我々はベガを人間に戻す術が無かった。だから29695834番に最後の切り札を使ったんです。その切り札を使われた番号は19歳になる前に絶対に死んでしまい、転生することも不可能という曰く付きです」

 神ですらなすすべ無く強硬手段に出てしまう程の進化を遂げたベガとは、一体どんな人物なのだろう?
 タクトはそこに興味が湧いた。

「我々は29695834番を神々の円卓会議の下、"永久欠番"と認定することにしました」

 神はこの進化を無かったことにするのだという。

 進化を遂げた人間に罪など無いはずだ。
 その個体は周りの環境にあわせて、もしくは影響されて自らの形を無意識のうちに望んでいないのに変えられてしまっただけなのだから。




 アテナはこれで全てですと言わんばかりに1歩引き、タクトの顔を覗いた。
 タクトはまだ終わっていないと言わんばかりに、説明する義務から逃げようとするアテナを鋭い目つきで追いかけた。

「そんなことはどうでもいいんだ。僕が聞いているのは、『何故僕を生き返らせたか』だ」

 アテナは小さくため息をついて、言った。

「貴方には、そのエラーを葬りさる手伝いをしていただきたいんです。貴方のその頭脳なら、きっとベガを救い出す術を見つけ出せると見込んだから、貴方を生き返らせました。神の特権を使って」

「それだけじゃないだろ…………」

 まだだと言わんばかりに食らいついてくるタクトを見てアテナは少々面倒くさそうな表情を浮かべた。

「確かにそれもないとは言い切れないけど、そんな理由なら、その辺の考古学者とか物理学者とかに手伝って貰えばいい。ただの高校生の僕である必要とは何だ」

 アテナは言いたく無かったかのように渋々語り始めた。

「コードネームベガの救出は私達神でも不可能です。ベガを救出できるのは、ベガとはまた別のエラーが発生している、識別番号29695835番、コードネームアルタイルだけなのです」

「僕がそのアルタイルだと言うことか………」

「その通り。アルタイルはあの機械、物体解析及び物質再構築機、俗称"転生機"を用いれば死を経験しない。つまり、アルタイルには死のプログラムが欠陥しているんです。絶対的な死を受け取ったベガを助けられるのは、絶対的な生を手に入れたアルタイルだけなんです」

 あぁそういえば、とアテナは続ける。

「貴方が死ぬ直前に頭に流し込んだ私の言葉に『闇の歯車』とありましたよね?あれはある巨大装置を起動させるキーの一部になっている他、転生機を動かす単体のキーにもなっているのです」

 タクトは先程見た機械を思い出し、自分の中で納得していた。

「つまり、闇以外の歯車が手に入ればこれとは別の大規模な機械を作って動かす事もできる訳か………」

 そして、最後の納得いっていない疑問をアテナにぶつけることにした。

「だとしても、僕以外にも別の時間軸とか、未来とか過去とか、アルタイルはいくらでもいるはずだ。何故僕でなければ駄目なんだ」

 結局最後まで引き伸ばしてしまった、自分であることの意味。
 それは予想していたより遥かに単純だった。

「貴方でなければ駄目ということはありませんが、貴方だと効率がいいんですよ」

 アテナはそう言うと、おもむろにテレビを付けた。

「太平洋で起きた高校生男女連続殺人事件ですが、生存者の数名が記者会見を開いたとの事です」

 ニュースキャスターは慣れた口調でそう告げた。

「貴方は、最近マスコミを騒がせている高校生男女連続殺人事件の犯人、もとい、この船で起きた高校生同士のコロシアイゲームの黒幕。そうですね?」

 タクトはニヤリと不気味に笑った。

 タクトがこの船を購入した理由。
 それはおとぎ話にあった吸血鬼と探偵の戦いを現代の技術を用いて再現したかったからだ。

 タクトはこの豪華客船の中に13人の男女を閉じ込め、コロシアイをさせる事に成功したが、最後の5人の所で生存者の中の一人に黒幕だとバレて、ナイフで刺し殺された。

 そこをアテナが復活させたと言うわけだ。

「さて、貴方の質問には全てお答えしました。次は私の番です」

 アテナはタクトを真っ直ぐに見つめて言った。

「私達の手伝いをしていただけますか?」

「断る」

 タクトはアテナを真っ直ぐに見つめ返しながら即答した。
 それと同時にタクトは3つのコンピューターの前に座り、物凄いスピードでキーを打っていった。

 やっぱりと言った顔で英文を打っているタクトの口は先程のように不気味に笑っていた。

「理由、聞かせていただけますか?」

 タクトはEnterキーを力強く叩くと、今度はタクトがアテナの質問に答えた。

「僕は神々のお手伝いさんになんてなるつもりは無い、むしろ貴女が僕を手伝って欲しいくらいだ」

 タクトは左手を広げた。血の付いたナイフはタクトの手のひらの上で不安定にビリビリと形を崩していた。

「世界に生まれたエラーを直すだけなんて中途半端な事はさせない。どうせ直したってすぐにまたエラーは発生するだろう。なら、僕はその先を行く」

 そしてタクトは誰も思い付かないとんでもない計画を語り始めた。

「この世界を全てプログラム化し、それを全て一度に消去する。そして僕が新しい世界を作り出す。

 アテナはにやりと微笑んだ。

「面白いですね、我々と同じ神になろうとは」

 タクトはそれにすら反論した。

「貴女達と同じになるつもりは無い。僕が目指すのは全ての始まりの神、君たちの始まりの一個体だ。僕にはそうなれる力があるんだろう?まぁ無くてもなってやるけどね」

 アテナは小さく頷いた。

「この世界は僕がプログラミングし直してやる。都合の悪いエラーだけ消すなんてさせない。…………アテナ様はもちろん、僕の計画に協力してくれるよね?」

 ナイフはタクトが握りつぶした頃にはバラバラと細かい鉄粉になっていた。その鉄粉すら、床には残らず消えていった。

 それを見たアテナは、また小さく頷いた。

「えぇ。では時空を作り直す手伝いをする私は、天空神アテナではなく"時空神アテナ"ということになりますね」

 今この瞬間、時空神は世界に生み出された。
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