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16話 さらば金星
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夕食を終えて、宿屋の部屋に戻った。
今日、灯子に会いに行かないと、明日には火星に行くことになるから、会えなくなる。
「ねえ、杏奈」
ベッドで寝ていた水竜が起き上がり、話しかけてきた。
「昼間の光は何だったのかしら」
モンスターが現れた時の話だろう。
「私、その前後に気を失ったから、覚えていないのよ」
「そうなの?」
「うん。気がついたら、モンスターはいなくなっていて、建物も怪我した人も治っていて、でも亡くなった人もいたの。外傷もないのに」
「そう……。何か不思議な力が働いたのだろうけど、誰の力だったのかしら」
誰かが助けてくれたのは、確かだ。お礼ができたら、良いのだけど。
「いつか、私も……」
水竜はそっと呟いた。
「水竜?」
「いえ、何でもない」
私は疑問に思ったが、水竜もこれ以上言及されたくないと思い、聞かないことにした。
「私、灯子のところに行ってくる」
私は立ち上がり、部屋の扉へと向かった。
「大丈夫? もう暗いよ」
セイライが心配そうに話かけてきた。
「大丈夫。アキラと皐月も一緒に行くから」
「そうなの。それなら、大丈夫なのかな」
私は、大丈夫と再び言って、外に出た。
宿屋の入口に行くと、アキラと皐月はもう来ていた。
「姉さん。遅い」
「ごめん。水竜と話してた」
皐月は、それならいいけどと答えた。
私たちは、灯子に会いに行くために、事務所へと向かった。
事務所へ着くと、明かりが灯っていた。中に人はいるようだ。
「杏奈! 皐月、アキラ」
話しかけられ、後ろを振り向くと、灯子が立っていた。
「なんで後ろから?」
事務所からではなく、後ろからやってきた。
「スラム街にいたの。さっきは来てくれて、ありがとう。気づいていたのに、話せなくてごめんね」
「いいのよ。みんなと話できた?」
「ええ。みんな応援してくれるって、言ってくれたわ」
「良かったわね!」
私と灯子は手を取り合った。私は嬉しくて、飛び跳ねた。
「杏奈たちのおかげよ。皐月もアキラもありがとう」
「俺は何もしてない」
「俺も、少し話をしただけさ」
二人とも少し照れたように、頭をかいたり、頬をかいたりした。
「杏奈たちは明日、別の惑星に行くのよね」
「うん。しばらくの間、お別れになるけど、また会いに行く」
「私も歌手として立派になって、地球にライブに行くわ」
「うん! 絶対に聞きにく!」
私たちはその後、少し立ち話をした。
「そろそろ事務所に入らないと。社長たちが待っているから」
「わかったわ。また、ね」
「ええ! また会いましょう」
私たちは別れの言葉を言って、宿屋へと戻ることにした。
次の日、天気は晴れていた。私たちは身支度をして、朝食を取るために下へ降りた。
金星最後の朝食は、目玉焼きと硬いパンと冷めたスープだった。ラミハルたちは良いものを食べているようだが。
火星はどんな惑星なのだろう。この星、この国みたいに差別があるのだろうか。
「火星はどんな感じなのかなあ」
「火星には変わったヒュー族がいるらしいぜ」
アキラが私の疑問に答えた。
「変わったヒュー族?」
「詳しくは知らないけれど、火星人特有の能力があるって聞いたことがある」
「へえ。どんな能力なんだろう」
ちょっと火星に行くのが楽しみになった。
朝食を終え、宿屋の前に行くとクヌードさんたちが待っていた。
「では、これから馬車に乗り、赤の洞窟へ向かいます」
ノルマフィ・シュタット……金星とは今日でお別れだ。
結局、ビーナスからは何の情報も得られなかったな。イヴが乙女の象徴……どういうことなのだろうか。
馬車を走らせて、洞窟へと辿り着いた。洞窟の中は赤く、奥には白い魔法陣があった。
魔法陣の上に立ち、私たちはいつも通り瞬間移動をした。
洞窟の中は同じく赤かった。洞窟の入口へと向かい、馬車に再び乗った。
外は、森の中で、地球とあまり変わらない感じだった。
「火星の炎の国に滞在するのよね」
森を抜けると、近くに低い城壁に囲まれた城が見えた。城の隣に大きな建物が建っている。塔のようなものだ。
「あれは……」
「パンフレットによると、巨大な防衛装置らしいな。詳細は書かれていないから、どんなものかわからないが」
皐月がそう言った。
城門の前につき、中に入ると、レンガの建物がたくさん並んでいた。街の中は賑わっていて、たくさんの人がいた。
中には鎧を着た兵がちらほら見える。
「まずは、宿屋へ行きましょう」
クヌードさんは、そう言って、先導した。
露店は出ていないが、たくさんの店らしきものが並んでいる。パンや野菜のマークが書いてある看板が立っている。
「賑わっていて、すごいわね」
人々は、ヒュー族または魔族もいるし、動物族もいる。ここは差別がそんなになさそうだった。
宿屋へ着くと、部屋に荷物を下ろしに行った。今回も水竜と一緒だ。セイライとセイアとは別の部屋になってしまった。
少し休憩時間があるので、私は宿屋にある食堂に来ていた。
食堂の中心に弦楽器を持った長髪の人が座って、曲を奏でていた。
不思議な音色で、ずっと聴いていられるようだ。
曲が終わると、拍手が巻き起こった。
「ありがとうございました」
その人に、みんなは投げ銭をした。私も金貨を一枚取り出して、渡すことにした。
「おや、君は……」
長髪の人が私を見て、きょとんとした。驚いているようだった。
「あの、何か?」
「いや、僕は吟遊詩人なのだけど、昔話を聞くかい?」
「え? ええ」
僕……声を聞いて気づいたが男の人だ。よく見ると体や手ががっしりしていた。
「大昔、世界が生まれた頃、一人の人間がいた。その人間はとても無垢で、美しくて、強かった」
男は一呼吸置いた。
「例えば、君みたいに」
私をじっと見つめる。
「え?」
「話の続きをしよう。それから、地上では多くの人が生まれ、人間はたくさん増えていった。そんな時、一つの神が人間を滅ぼすことを決めた」
大した話ではないのだが、聞いてしまう不思議な声の持ち主だった。子どもに聞かせる童謡のようだ。
「そして、人間と神の戦争が始まったのだ……どう?」
「どうって……。その続きは?」
「うーん。考え中!」
男はにっこりと笑った。
「僕は、幻。君の名前は?」
「私は杏奈」
「そう。杏奈……杏奈ねえ。じゃあ、僕は行くよ。また会えるといいね。杏奈!」
幻はそう言って、食堂から出ていった。
「何だったのかしら」
今日、灯子に会いに行かないと、明日には火星に行くことになるから、会えなくなる。
「ねえ、杏奈」
ベッドで寝ていた水竜が起き上がり、話しかけてきた。
「昼間の光は何だったのかしら」
モンスターが現れた時の話だろう。
「私、その前後に気を失ったから、覚えていないのよ」
「そうなの?」
「うん。気がついたら、モンスターはいなくなっていて、建物も怪我した人も治っていて、でも亡くなった人もいたの。外傷もないのに」
「そう……。何か不思議な力が働いたのだろうけど、誰の力だったのかしら」
誰かが助けてくれたのは、確かだ。お礼ができたら、良いのだけど。
「いつか、私も……」
水竜はそっと呟いた。
「水竜?」
「いえ、何でもない」
私は疑問に思ったが、水竜もこれ以上言及されたくないと思い、聞かないことにした。
「私、灯子のところに行ってくる」
私は立ち上がり、部屋の扉へと向かった。
「大丈夫? もう暗いよ」
セイライが心配そうに話かけてきた。
「大丈夫。アキラと皐月も一緒に行くから」
「そうなの。それなら、大丈夫なのかな」
私は、大丈夫と再び言って、外に出た。
宿屋の入口に行くと、アキラと皐月はもう来ていた。
「姉さん。遅い」
「ごめん。水竜と話してた」
皐月は、それならいいけどと答えた。
私たちは、灯子に会いに行くために、事務所へと向かった。
事務所へ着くと、明かりが灯っていた。中に人はいるようだ。
「杏奈! 皐月、アキラ」
話しかけられ、後ろを振り向くと、灯子が立っていた。
「なんで後ろから?」
事務所からではなく、後ろからやってきた。
「スラム街にいたの。さっきは来てくれて、ありがとう。気づいていたのに、話せなくてごめんね」
「いいのよ。みんなと話できた?」
「ええ。みんな応援してくれるって、言ってくれたわ」
「良かったわね!」
私と灯子は手を取り合った。私は嬉しくて、飛び跳ねた。
「杏奈たちのおかげよ。皐月もアキラもありがとう」
「俺は何もしてない」
「俺も、少し話をしただけさ」
二人とも少し照れたように、頭をかいたり、頬をかいたりした。
「杏奈たちは明日、別の惑星に行くのよね」
「うん。しばらくの間、お別れになるけど、また会いに行く」
「私も歌手として立派になって、地球にライブに行くわ」
「うん! 絶対に聞きにく!」
私たちはその後、少し立ち話をした。
「そろそろ事務所に入らないと。社長たちが待っているから」
「わかったわ。また、ね」
「ええ! また会いましょう」
私たちは別れの言葉を言って、宿屋へと戻ることにした。
次の日、天気は晴れていた。私たちは身支度をして、朝食を取るために下へ降りた。
金星最後の朝食は、目玉焼きと硬いパンと冷めたスープだった。ラミハルたちは良いものを食べているようだが。
火星はどんな惑星なのだろう。この星、この国みたいに差別があるのだろうか。
「火星はどんな感じなのかなあ」
「火星には変わったヒュー族がいるらしいぜ」
アキラが私の疑問に答えた。
「変わったヒュー族?」
「詳しくは知らないけれど、火星人特有の能力があるって聞いたことがある」
「へえ。どんな能力なんだろう」
ちょっと火星に行くのが楽しみになった。
朝食を終え、宿屋の前に行くとクヌードさんたちが待っていた。
「では、これから馬車に乗り、赤の洞窟へ向かいます」
ノルマフィ・シュタット……金星とは今日でお別れだ。
結局、ビーナスからは何の情報も得られなかったな。イヴが乙女の象徴……どういうことなのだろうか。
馬車を走らせて、洞窟へと辿り着いた。洞窟の中は赤く、奥には白い魔法陣があった。
魔法陣の上に立ち、私たちはいつも通り瞬間移動をした。
洞窟の中は同じく赤かった。洞窟の入口へと向かい、馬車に再び乗った。
外は、森の中で、地球とあまり変わらない感じだった。
「火星の炎の国に滞在するのよね」
森を抜けると、近くに低い城壁に囲まれた城が見えた。城の隣に大きな建物が建っている。塔のようなものだ。
「あれは……」
「パンフレットによると、巨大な防衛装置らしいな。詳細は書かれていないから、どんなものかわからないが」
皐月がそう言った。
城門の前につき、中に入ると、レンガの建物がたくさん並んでいた。街の中は賑わっていて、たくさんの人がいた。
中には鎧を着た兵がちらほら見える。
「まずは、宿屋へ行きましょう」
クヌードさんは、そう言って、先導した。
露店は出ていないが、たくさんの店らしきものが並んでいる。パンや野菜のマークが書いてある看板が立っている。
「賑わっていて、すごいわね」
人々は、ヒュー族または魔族もいるし、動物族もいる。ここは差別がそんなになさそうだった。
宿屋へ着くと、部屋に荷物を下ろしに行った。今回も水竜と一緒だ。セイライとセイアとは別の部屋になってしまった。
少し休憩時間があるので、私は宿屋にある食堂に来ていた。
食堂の中心に弦楽器を持った長髪の人が座って、曲を奏でていた。
不思議な音色で、ずっと聴いていられるようだ。
曲が終わると、拍手が巻き起こった。
「ありがとうございました」
その人に、みんなは投げ銭をした。私も金貨を一枚取り出して、渡すことにした。
「おや、君は……」
長髪の人が私を見て、きょとんとした。驚いているようだった。
「あの、何か?」
「いや、僕は吟遊詩人なのだけど、昔話を聞くかい?」
「え? ええ」
僕……声を聞いて気づいたが男の人だ。よく見ると体や手ががっしりしていた。
「大昔、世界が生まれた頃、一人の人間がいた。その人間はとても無垢で、美しくて、強かった」
男は一呼吸置いた。
「例えば、君みたいに」
私をじっと見つめる。
「え?」
「話の続きをしよう。それから、地上では多くの人が生まれ、人間はたくさん増えていった。そんな時、一つの神が人間を滅ぼすことを決めた」
大した話ではないのだが、聞いてしまう不思議な声の持ち主だった。子どもに聞かせる童謡のようだ。
「そして、人間と神の戦争が始まったのだ……どう?」
「どうって……。その続きは?」
「うーん。考え中!」
男はにっこりと笑った。
「僕は、幻。君の名前は?」
「私は杏奈」
「そう。杏奈……杏奈ねえ。じゃあ、僕は行くよ。また会えるといいね。杏奈!」
幻はそう言って、食堂から出ていった。
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