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17話 蝶羽族

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 食堂から出て、ロビーに行くと珍しい姿をした女性が立っていた。蝶のような羽が背中についていて、頭から蝶の触角が生えていた。ツインテールのピンクの髪が青い羽とのコントラストを描く。
「何かな?」
 女性がこちらに気づき話しかけてきた。
「ごめんなさい。見たことがない種族の方だったので」
蝶羽族ちょううぞくを初めて見たのね」
「蝶羽族?」
「うん。確かに、珍しいかもね。この街にもそんなに多くはいないし」
 そうなのか。地球では見たことのない種族だ。地球にもいるのかな。
「私、ユイリン。よろしくね」
「よろしくお願いします。私は猫耳族の杏奈」
「猫耳族なのね。三角耳の種族って初見だと何族かわからないのよ。あと、敬語はいいよ。同い年くらいだろうし」
 ユイリンは結構大人びて見えたけど、同い年くらいなのか。
「ありがとう。ユイリンはここで何をしているの?」
「友だちを待っているの……あ」
「ユイ、待たせたな」
 声をした方を向くと、薄紫色の髪をした男性が立っていた。背はアキラたちより高いかも。
「望。もう終わったの?」
「ああ。でも、収穫なしだ」
「何かあったの?」
 私は二人の会話が気になって、質問した。
「最近、街で人攫いが起きているの。その調査を私たちはしているの。警備隊がたくさん街にいるでしょ? その中すらかい潜って、人が攫われているのよ」
「そうなんだ」
 割と物騒なことになっている街なのね。だから、あんなに兵が出歩いていたのか。
 その時、ドタドタと足音がして振り向くと、ラミハルの両親が顔を青くして立っていた。
「あなた、ラミハルを……ラミハルを見なかった?」
「いえ、見てないけれど」
 私が答えると、はあとため息をついた。
「護衛の本梅さんたちにも相談しよう」
「そうね。そうよね」
「ラミハルがどうかしたの?」
「一時間前から見当たらないんだ。一緒に街を見ていた時にはぐれてしまったんだろうけど、土地勘がないだろうから、迷っているんじゃないかと心配で……」
「あなた、早く本梅さんたちに相談しましょ」
「そうだな」
 ラミハルの両親は宿屋の二階へと上がっていった。
「もしかして、人攫い……」
 私は先ほどのユイリンの話を思い出した。
「ラミハルとはどういう子なのだ?」
 望が聞いてきたので、外見の説明をした。
「俺たちはまた街で聞き込みをするから、似た子を見つけたら、宿屋へ知らせに来るよ」
「人攫いがいるから、杏奈も気をつけてね」
「ありがとう。よろしく頼むわね」
 ユイリンたちはそう言って、宿屋から出ていった。
 二階からクヌードさんが降りてきた。
「杏奈さん」
「あ、クヌードさん。何かあったのですか?」
「ラミハルさんのことで」
「さっき聞きました」
「それなら、話が早いですね。この街には人攫いが出ているらしく、今日の観光は中止になりました。明日の瞬間移動魔法のお披露目会だけになります。そして、今日は宿屋から出ないようにしてください」
「……わかりました」
 クヌードさんは、にっこりと笑い、他の方にも伝えてきますねと言って去った。
「ラミハルが行方不明……人攫いが出ている……」
 黙って待っていられるほど、私は大人しい人間ではない。アキラと皐月に相談したら、怒られるかなあ。でも、黙って出ていったら、もっと怒りそう。
 とりあえず、私はアキラと皐月の部屋に行くことにした。
 二階に上がったところで水竜に出会った。
「杏奈。見つけた」
「ん? 何か用事?」
「杏奈のことだから、ラミハルを探しに行くとか言い出しそうで、止めにきたのよ」
「あ……あー」
「ほら、抜け出そうとしてた」
 バレていたか。でも、私の決意は固い。
「見逃して」
「ダメよ」
「人はたくさんいて、賑わっていたじゃない」
「余計に危ない」
 うう。口では勝てなさそうだ。
「水竜……」
 私はお願いするように顔の前で手を合わせた。
「わかったわ。でも」
「でも?」
「私も行くわ」
「え、えええ! 水竜が?」
 意外だった。あまり人と関わらなさそうな水竜がこういう発言をするとは思わなかった。
「その方が安心だもの」
「うん……ありがとう」
「皐月たちの所へ行くのよね。行きましょう」
 水竜はそう言って、先に進んでいってしまった。私はそれに後ろからついていくことにした。
 私たちはアキラたちの部屋に入った。
「姉さん。言いたいことは大体わかる」
「さすが、皐月! 話が早い」
「でも、なんで水竜も?」
「私は監視役」
 皐月はなるほどなと呟いた。先ほどから、アキラが喋らない。私をじっと見つめてる。
「アキラ?」
「杏奈……危険なことをしようとしているのはわかっているのか?」
「わかっているわよ」
「わかってない」
 アキラは断言した。私をキッと睨む。
「人攫いは正体がわかっていないんだ。何かあってからじゃ遅い」
「じゃあ、ラミハルはどうなるの?」
「本梅さんたちや警備隊に任せよう」
「でも……」
 黙って待っているのは性に合わない。
「止められても私は行くよ」
 私はアキラをじっと見つめる。絶対に譲らない。
「はあ。わかったよ。でも、無茶はしない。俺から離れない。いいね」
「うん」
 私は頷いた。
 私たちは、クヌードさんにバレないように宿屋から出て行った。
 街の中を歩くと、警備隊がちらほらいた。監視をしているようだ。
 昼間より人通りは少ない。
「迷っているのか、攫われているのか……」
 皐月が呟いた。
「どうだろうな。ラミハルは幼いから、迷っている可能性もあるが」
 アキラが先頭を歩き、私たちはそれに続いている。
 あれ? 私は路地裏に何か光るものを見つけた。
「なんだろう」
 私は路地裏に入った。奥に赤く光るものが見える。
「杏奈! 離れるなって言ったろ」
 アキラがこちらに駆け寄ってくる。
 それと同時に私は奥にある光るものに触れた。
 すると、景色が歪んだ。
「杏奈!」
 アキラの叫び声がした。
 体が混ぜこぜになる感じがして。目を閉じた。
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