【完結】キャット・トリップ・ワールド シーズン2 宇宙旅行編

夜須 香夜(やす かや)

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20話 佐乃その2

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 瞬間移動魔法のお披露目会の会場は、街の中心にある。私たちはその魔法研究所に来ていた。私とラミハルが佐乃に捕まっていた研究所だ。一番広いホールで行うそうで、研究所の入口辺りはとても混んでいた。研究所は白い外壁で、中心に塔があり、防衛魔法のある石が置かれているそうだ。城の隣にある研究所は城よりも高いその塔が建っている。
 私たちが中に入ろうとすると、呼び止められた。
「杏奈!」
「あ、ユイリン。ユイリンたちも見にきたの?」
 ユイリンと望が後ろに立っていた。ユイリンの蝶の羽は下がり、リボンでまとめられていた。多分、邪魔にならないようにするためだろう。
「そうよ。国の皆が楽しみにしていたイベントだもの」
「地球から火星まで瞬間移動魔法で来たのだけど、すごい魔法よね」
「話によると、長距離はまだ対応できていないらしいのだけど、街の端から端まで行くくらいならできるみたい」
「すごい! 今まで、解明されてなかったらしいのに」
「ナリオさんは、研究者としては、まだ若いのに本当にすごいわね」
 私たちは入口にいると邪魔になるだろうと思って、研究所の中に入り、ホールへと向かった。廊下にもたくさんの人がいて、賑わいを見せていた。
「このお披露目会を見るために各惑星から人が来ている」
 望がそう言った。私たちの先を歩いていて、振り向く。
「君たちのようにね」
「今回の宇宙旅行もこれがメインだって書いてあったしな」
 皐月が答える。
「まあ、俺たちも楽しみにしていた」
 ユイリンと望は目を合わせて、ユイリンは頷いた。
 何となく思ったが、この二人、付き合っているのかな。心が通うじあっている感じがする。二人の視線がそう言っている。
 私たちはホールにつき、あらかじめクヌードさんからもらっていた券に書いてある席に座った。
 ホールの中はステージが一番下にあり、席が階段状になっている。私たちは中央辺りに座り、ユイリンたちは少し離れた席に座った。
 セイライやセイアたちはすでに座っていた。
「遅かったじゃない」
「ちょっとね。ね、氷龍」
「そうね。ちょっとそこまで」
 氷龍はいつも無表情なのだが、今はニヤリと不敵に笑った。
「ふふ、秘密の話なのね」
 セイライがクスクスと笑う。セイアはいぶかしげにこちらを見ていた。
「ひょうりゅう?」
「名前が変わったの。これからは氷龍って呼んで」
「はあ?」
 セイアは意味がわからないといった表情で氷龍を見ている。
 私たちは席につき、お披露目会が始まるのを待った。
 隙間だらけだった会場は見る見るうちに埋まっていった。
「そろそろ時間ね」
 私がちょうどそう言った時、ホールの光が消えた。
 数秒経ってから、ステージの中心が明るくなる。ナリオさんが立っていた。
「皆さん、今日はお集まりいただき、ありがとうございます」
 ナリオさんは挨拶をし、瞬間移動魔法の歴史を述べ始めた。
 正直、難しくて、よくわからなかった。
 数分経った頃だろうか、ナリオさんはステージの袖から白い布を持ってきた。
「こちらをご覧ください」
 布を広げると、青いインクで魔法陣が描かれていた。私たちが洞窟の瞬間移動する時に使う魔法陣と同じものだろうか?
 先ほどの話だと、魔法陣を模写しただけでは、成立しない魔法らしい。
「布は二枚あります。ステージの端から端へ瞬間移動してみせましょう」
 ステージの端にそれぞれ布を置いた。
 ナリオさんは右側の魔法陣の近くに行く。
「この魔法陣の上に乗り、魔力を注ぐと……」
 そう言いながら、魔法陣の上に乗る。
 魔法陣は青く輝いた。
 ナリオさんの姿が消える。
 次の瞬間、ぐちゃあっと汚い音がした。ドンとステージが唸り、左端にあった魔法陣の布が赤く染まる。
「え……」
 会場中から悲鳴が聞こえた。
 魔法陣の上に手、腕、胴体、足、頭がバラバラになって折り重なっていた。
「ひっ」
 私の口からは悲鳴が出なかった。目の前の光景が信じられなかった。
 頭を見ると、顔がこちらを向いており、ナリオさんだとわかる。
 ステージの袖から人が出てきて、ナリオさんを確認している。
「何で……」
「失敗だったって事か?」
 アキラが震えた声で言った。私は恐ろしくて、アキラの服の袖を掴んだ。
「杏奈。嫌なら見ない方がいい」
「だ、大丈夫」
 その時、後ろからガーンっと大きな音がした。振り向くと、煙が立ち込めていて、よく目を凝らすと何かがいた。
 出入口は破壊され、瓦礫が落ちている。近くに座っていた人たちは恐れおののき、逃げ始める。
「何?」
 私たちは立ち上がって、その何かを見た。
 天井につきそうなほどの大きな体。青と緑の固そうな皮膚。目は瞼がなく、眼球が飛び出ていて、ブラウンの髪が頭のてっぺんに乗っているが、テラテラと光っている。体中に黄色い粘液が付いている。手を地面につき、顔の倍もある太さの足が床を凹ませている。乳房が六つも付いていて、ゆらゆらと垂れ下がり揺れている。体の後ろからは長くて太い尻尾が見えている。
 その何かの上に人が乗っていた。
「あれは……佐乃!」
「牢屋に入れられたんじゃないのか」
 皐月が叫ぶ。
 アキラが私の前に腕を出し、守るようにして、剣を取り出した。
「はははっ。やったぞ! やってやったぞ! ナリオぉ。僕の方が優れていることが証明されたなあ!」
「どういうことだ」
「何、あの人」
「なんだあの化け物は」
 人々は逃げまどいながら、佐乃と何かを見て、叫ぶ。
「捕まる前日に魔法陣を書き換えて置いたんだ。失敗するようにさあ」
 佐乃は、大きく口を開けて笑う。
「タ……テ」
 何かが口を開いた。頬まで裂けた口から黄色のとんがった歯が無数に見えた。喉の奥までありそうだ。
「さあ、宇治原。ここにいる奴ら、全員殺してしまええええ!」
 佐乃がそう叫ぶと、何かは尻尾を振り、逃げようとした人を薙ぎ払った。その人たちは飛ばされ、壁や地面に叩きつけられる。血と肉片が飛び散る。
「皆さん、逃げてください!」
 ステージにいた人が、ステージ袖から人を逃していた。
「杏奈……は、逃げないよな」
 アキラは諦めたかのように呟いた。
「あいつを何とかしないと。ここの人だけじゃない。街の人たちも危ない」
 私はアキラから、預けていた弓矢をもらった。水星で勝った雷の矢だ。
「手を狙った方がいい」
 アキラはそう言って、私の肩に手を乗せた。
「私も戦うわ」
 氷龍は椅子に乗り上げて、手を前に出す。指につけている指輪が光る。
「俺も。セイライたちは逃げた方がいい」
 皐月は杖を出して、セイライたちの方を見た。
「でも……」
「戦えないだろ」
「……うん。怪我しないでね」
 セイライとセイアはステージの方へ行く人たちに紛れていった。
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