【完結】キャット・トリップ・ワールド シーズン2 宇宙旅行編

夜須 香夜(やす かや)

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サイドストーリー マーキュリー①

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 大きな城壁に囲まれた都市ネーヴェ。白雪の国の首都だ。
 城よりも高い防衛魔法の塔があり、白い城や街並みは今日も綺麗に見えた。
 その街の中に、夕焼け色の髪を左右に束ねた女性が立っている。胸元には、俺たち惑星守護神がそれぞれ持つ記号が記されていた。
 彼女の記号は、木星。
「ジュピター。この前はありがとう」
「別に。生物が住める星は大変だな」
「ジュピターとサターンが来てくれたおかげで、モンスターの被害は最小限にできたよ」
「まあ、また何かあったら言ってくれ。暇してるからな」
 ジュピターと俺は、街の中を歩くことにした。
「ネーヴェは活気があっていいな」
「そうだろ? 白雪の国は、水星の中だと穏やかな気候で、人々もとても豊かだ」
 ジュピターはハッとして、後ろを振り向いた。
「どうした?」
「……お客さんのようだよ」
 こちらに、すごい勢いで走ってくる人影が見えた。
 スキンヘッドに火星の記号を携えた……マーズだ。
 顔が歪んで、怒っているように見えた。
「マーキュリー!」
「おう。久しぶりだな」
「あ? ああ。久しぶり。って、違う!」
「久しぶりだろ?」
「そうだけど! お前、杏奈に何も教えなかっただろ!」
「ん?」
 俺は、何のことを言っているのかわからないフリをした。
 これは説教が始まる。誤魔化した方がいいのかなと思ったからだ。
「とぼけるなよ! ビーナスも、お前も、もう少し説明というものをだな」
「マーズが話してくれるだろうから、言わなかった」
「俺に頼るな! 杏奈もかわいそうだろ」
「杏奈は可愛いよな。何も知らない感じだし、種族差別もしないから、俺は好きだぜ」
「そういう話じゃないだろ」
「はははっ」
 俺が笑うと、マーズはため息をついた。頭を片手で抱えて、目を瞑った。
 意外と長いまつ毛が、震えている。
「怒るぞ」
「もう怒ってるだろ」
「そうだよ!」
 顔を上げて、カッと目を見開いた。
「大変だな。マーズ」
 ジュピターはマーズの肩に手をかけた。
「ジュピター……。俺は疲れたよ」
「ご苦労様だな」
 ぽんぽんと肩を叩く。
 項垂れたマーズは、またため息をついた。
「それよりさ」
 俺が話を切り替えようとすると、マーズが睨んできたが、構わず続けた。
「モンスターが凶暴化していないか?」
「ん? ああ、確かに」
 マーズは話の内容に興味を示したようだ。目が丸くなる。
「火星ではモンスターの被害が増えてる」
「水星でも防衛魔法を破ってくるモンスターがいる」
「防衛魔法を破る奴がいるのか!」
「ああ。杏奈たちが来たときに、丁度な」
「大丈夫だったのか?」
「この国の王女も戦ってたし、ジュピターとサターンにも助けてもらったから大丈夫だったさ」
「王女も?」
 マーズが王女の話題に食いついたが、無視した。
「詳しい話は俺の家でしよう」
「そうだな。ジュピターも来るよな?」
「ああ。興味深い」
 俺たち三人は、ネーヴェの近くにある迷いの森へ向かった。
 森の中は薄暗く、人もモンスターもいない。この森を知る生物は、誰も入りはしない。迷いの森。
 隠れるには最適な場所だ。
 俺たちは意識を持ち始めてから、千年ほど経っている。迷いの森の攻略に割ける時間はたくさんあったというわけだ。
 迷いの森を進むと、木製の家が見えてきた。自分で造ったが、なかなか素敵な家になったと思う。
 水は自分で出せるから、井戸はない。小さな畑には、にんじんやじゃがいも、ハーブ類が育っている。
 家の中に入るとワンルームのこじんまりとした部屋が現れる。簡素なベッドに、小さめの台所、丸いテーブルに椅子が二つ。
 椅子が二つしかないので、俺はベッドに腰掛けることにして、二人には椅子に座ってもらうことにした。
「ハーブティーでいいか?」
「ああ、いいぞ」
 ジュピターは即座に回答してくれたが、マーズはううむと唸っている。
「苦手か?」
「いや、飲んだことがなくてだな」
 俺が、そうかと頷こうとした時、ドガンと大きな音が鳴り、家のドアが吹っ飛んだ。
 ジュピターやマーズはドアに当たらないように、左右に散っていた。
「なんだ!」
 マーズは家の外に飛び出す。俺とジュピターもそれに続く。
 家の周りは火に囲まれていた。森に燃え移ると、まずいと思い、俺はすぐに水の魔法で鎮火した。
「ん? 人影が」
 火の煙の中、二人分の人影が見えた。
「やっと見つけたぜ」
「苦労したな。さすがに追いにくい魂だった」
 煙が上がり、人影が人になると、まだ若めの男が二人立っていた。
 口角を釣り上げて、ニヤニヤしている男と、目を瞑り、不機嫌そうにしている男。
「誰だ!」
 マーズが叫ぶと、ニヤニヤしている男がさらに笑う。
「俺はぁ、キンナラ。隣の奴は、カルラ。お前たちを始末しにきた勇者様ってところだぜ」
「勇者? 何を言っているんだ」
 マーズは指に付いている指輪と鎖を光らせて、二人に向ける。
「答える義理はない」
 カルラという男は、舌打ちをした。
「戦うっていうなら、戦うけど」
「家のドアを壊された恩もあるしな」
 キンナラは、はははと乾いた笑いを見せる。
「戦うんじゃないぜ。お前たちは俺たちに殺されるんだよぉ!」
 キンナラは、腰にある半円を描いた剣を抜き取った。柄にある宝石が光る。カルラは手に持っていた短めの杖を振り上げる。先端に付いている宝石が光る。
「来るぞ!」
 俺たちは攻撃に備えて、体勢を整える。俺は剣を引き抜く。
「ウッド・カーペンター! 樹木よ。あいつらを拘束しろ」
 ジュピターは魔法を放つ。地面からうねる細い樹木が現れ、二人組に向かっていく。キンナラはそれを剣で防ぐ。カルラは後ろに下がり、呪文を唱え始める。
「ファイアランス……!」
 火の槍がカルラの杖から放たれる。ジュピターの魔法を燃やし、残りの槍がこちらに来た。
「ガード・アクア」
 俺の呪文で水の壁が現れて、火の槍は水の中に消える。俺は水の壁に突進し、這っている樹木の上を伝って、キンナラの前に飛び出す。
 キンナラが嬉しそうに笑い、俺に刃を向けるが俺はそれを剣で去なす。
「目的を言え」
「言うわけないだろ」
「なら、吐かせるだけだ! ジュピター!」
 俺の背後からジュピターが現れて、キンナラの頬に拳を振るう。見事に当たり、キンナラは吹っ飛ぶ。
 相変わらず強烈なパンチだな。ジュピターのビンタは本当に痛いので、怒らせないようにしている。
 キンナラは、剣を落とした。それを見たカルラは驚いたような素振りを見せたので、マーズが続け様に火の魔法剣でカルラの杖を破壊した。
「あ……くそっ」
 カルラは折れた杖から宝石だけ回収して、キンナラの側に寄る。
「キンナラ。起きれるか」
「ぐぅ……口の中が切れたぜ」
「強すぎる」
「大した魔法じゃねーのに! スピードが違う!」
 俺は一歩、奴らに近づいた。
「年季が違うんだよ。あと、人数と構成を考えろ。こっちは近距離二人、中距離一人で、お前らは近距離一人と遠距離一人。部が悪すぎる」
 また、一歩近づいた。ジュピターとマーズはそれを眺めている。
「俺たちには使命があるのに……」
「キンナラ、逃げよう」
「でも……」
「また来る。次は殺す」
 カルラはそう言って、折れた杖の宝石を掲げて、煙幕の魔法を唱える。
「……逃げたな」
 俺は振り向き、ジュピターとマーズを見た。
「逃したの間違いだろ」
 ジュピターは呆れたように言った。
「下っぱに見えた。黒幕を引きずり出したくてな。何回か撃退していけば、現れるだろう」
「吐かせれば良いだろ?」
「拷問はしたくない。多分、拷問するくらいじゃないと、吐かないだろう」
「……あいつら、私たちを惑星守護神だと認識して、狙っていたのだろうか」
「どうだろうな。……それより、これどうすんだよ」
 マーズはジュピターが出した樹木を見ていた。
「あ。すまない。マーキュリー」
「いいよ。ドアも壊れたし」
 カルラとキンナラは、また現れるだろう。人質に取られると、厄介だから当分オーロラには会いに行かない方がいいな。
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