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運命
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「お、美味しい」
一口食べたアリシアが呟く。
「やはり、そうだろう」
「すいません、夢中になってしまって」
「構わん、俺の料理が素晴らしすぎるせいだからな」
「そういえば、まだ、ちゃんとお礼を言っていませんでしたね。危ないところを本当にありがとうございました」
「構わんぞ……。構わんぞ」
俺は何事もなかったかのように手を振る。
いい気分だ。
俺のような無欲で人助けをする人間などそうそういないだろう。
「それに、こんなに素敵なお食事も……この服も……」
「当然だ、俺は悪党ではなく、正義の味方なのだから。全くどこかの誰かにも分かってもらいたいものだ……」
「……? ところで、そういえば、お名前もお聞きしていませんでした……私はアリシアといいます。ククル村という村で、家の薬屋の手伝いをしています」
アリシアは名乗る。
「やはりそうか……」
「やはり?」
「……いや、俺の名はレクスだ。そうだな……。俺は……いわば……」
俺は、自分を説明するのに相応しい言葉何かと考える。
この世界で、家名を名乗るのは実はそんなに好きじゃない。
「いわば……?」
「俺は、イケメンだ」
「いけめん? ですか?」
「そう、俺はイケメンだ」
これが最も俺という男を表現するのに正しい言葉だろう。
「……イケメンとは何でしょうか?」
「イケメンとは、何かだと?」
「はい、私は聞いたことがない言葉ですね」
「そうか——」
イケメンとは何か……
問いかけるアリシアに、俺は悩む。
非常に重要で本質的な問いだ。
正確に答えなければならない。
「——非常に難しい質問だな。だが、はっきりと答えよう」
「はい」
「イケメン——とはつまり、俺の事を指し示す言葉だ。巷では、俺以外の紛い物がイケメンと、呼ばれているが、俺以外の者は真のイケメンではない。俺こそが真のイケメンなのだ」
「………そうですか……(——この人の、言っている事は良く分かりませんね)」
アリシアはよく分からないという事がわかった。
深掘りできそうな雰囲気でもない、引き下がるように俯く。
「分かってくれたようでなによりだ」
俺の回答に納得してくれた様子のアリアを前に、俺は頷く。
この世界にイケメンという言葉が存在しないのなら、今後きっと俺の定義した事こそが、何れ、その意味を表すのだろう。
完璧な回答が示せて良かった。
「……そう言えば、レクスさんは、なぜあの場にいたのでしょう? あの場所は、あの盗賊達の住処のようでしたが……」
「その前に、俺からも一つ、アリシアに聞きたいのだが?」
「はい、なんでしょう」
「アリシアは何故あの場所に囚われていたんだ?」
「それは……、私の実家は薬屋を営んでいるのですが、その手伝いで薬草の採集を行っているのですが……いつも行っている森に突然、現れた二人組に……襲われてしまい捕まってしまったようで……、気が付けばあの場所に……」
「……なるほど」
「はい、あの場所は安全だと思っていたのですが……今迄も盗賊なんて出た事は一度も出たことはありませんでした」
「突然、現れたという事だな?」
「はい。完全に油断していました……」
反省した様子のアリシアを前に俺は眉根を寄せる。
――まさか俺のせいか……?
物事の複雑性を扱うカオス理論という学問の中に、バタフライ・エフェクトという言葉があるのを思い出した。
きっかけが、蝶の羽ばたきのような小さな行為であったにせよ、様々な因果の巡り合わせの結果、それは大きな結果を生む可能性があるということ。
俺という別世界の人間の記憶を持つ、存在が生まれてしまった以上、この世界は、本来の【ブレイヴ・ヒストリア】の世界とは完全に同一の世界とは言えない。
言わば、並行世界のようなものだろう。
俺という異分子が【ブレイヴ・ヒストリア】のレクス・サセックスがとる行動と違う行動をとれば、それは確実に世界に波紋をうむ。
――俺が、金を稼ぐために、盗賊団のアジトを周回していたせいで、アリシアが……?
例えば盗賊達のアジトに定期的に集金と称して盗み入って周った結果、盗賊の行動が変化し。活動が広範囲化してしまい、彼女が誘拐されてしまった可能性はゼロではない。
――だ、だが……俺の行動が原因だと確定したわけでもない。
俺が知らなかっただけで、本来の【ブレイヴ・ヒストリア】の世界のアリシアも盗賊に誘拐されてしまっていた可能性もあるだろう。
俺は知らないのだ、それがあったかなかったのかも。
確か有名な哲学者が言っていた。――語りえぬものについては、沈黙しなければならない、と。
――そ、そうだとも。俺の予測や思考を超えた何か、未知の可能性もある。
何事もこうだと、決めつけてしまうのは危険ではないか? 決めつけてしまうと思考停止に陥る……。
俺のせいじゃない。
多分な。
「……お、俺が、あの場にいた理由だったな……?」
「はい」
透き通るような瞳に見つめられて俺の心臓は不思議な高鳴りを感じた。
「そ、それはだな……」
「はい」
「まさしく運命というやつだ。俺とアリシアは出会う運命だった。だから、俺はあの場所にいた。そうとしか考えられないな。うむ、運命が俺達を引き合わせる為に俺達はあの場にいたのだろうな……」
――も、もし仮に俺のせいだとしても、華麗に助け出したのだ……問題は無い……なんの問題も無い。問題は無い筈だろう……
俺とアリシアは出会う運命だった。ローランやサーシャと同じようにな。
運命だった。何となく良い響きもする。
「運命ですか? 私はそう言うのは信じていませんが……」
「……そ、そういう事もあるのだ……。この世界には、あらかじめそうだと決められた出来事というものがある。俺はそれを知っている。覚えておけアリシア……」
少し視線を逸らしながらレクスは言った。
「……それは、よく分かりませんが。見ず知らずの私の為にレクスさんは飛び込んできてくれたんですよね……?」
「全く見ず知らずというわけではないがな」
「そうなんですか?」
少し首を傾げるアリシア。
「それに、あの程度の事。俺にとっては然もない事……礼には及ばんぞ」
「……でも然もない事……ですか。そう言えばあの男の人も、一瞬で倒しちゃいましたしね……。突然、頭と血が降ってきてびっくりしちゃいましたよ……」
「ああ、あれは誤算だった。ふふ……すまんな」
思い出し笑いをする。
「……あの私に付いた血を落とした魔術……あんなの見た事も聞いた事も無いです……」
「ああ、あれは俺の独自魔術だ」
俺は少しのドヤ顔で返す。
「……独自ですか?」
「ああ。独自だ」
「自分であの魔術を作ったと?」
「ああ、ほんの思いつきだ……、便利だと思ってな……」
「……思いつき……そんな簡単に……私の先生も凄い魔術師でしたが、いつか自分の独自魔術を作りたいと研究していましたね……」
「そうなのか?」
俺は、無表情を装いながら水を飲む。
とても美味い水だ。
「羨ましいです。私もいつかはと……」
「ふむ」
「それにお料理をしながら、魔術を使うレクスさんは凄く楽しそうでした……」
空を見上げて、陰のある微笑みを浮かべるアリシア。
「……そうか?」
「……私は他の人が魔術を使うところ見ればどの程度の魔術師なのかある程度分かります。レクスさんは凄い魔術師なんだろうと思います」
「まぁ、そうだな」
「……はは、やっぱり自分で言うんですね……。私も、あんな風な……レクスさんみたいな魔術師になりたかったんですよ……」
「俺のようになりたいなどとは。良いセンスだ。よく分かっている。…‥なればいい……」
「……はは……。無理ですよ……」
儚げな乾いた微笑を浮かべるアリシア。
「無理ではない。無理だと決めつけては何も始まらん」
「無理ですよ……、だって……」
俯くアリシア。
「……どうした?」
「……だって、私は……もう、二度と魔術は使えないんですから……」
瞳に涙を滲ませて、絞り出すような声でアリシアはそう言った。
一口食べたアリシアが呟く。
「やはり、そうだろう」
「すいません、夢中になってしまって」
「構わん、俺の料理が素晴らしすぎるせいだからな」
「そういえば、まだ、ちゃんとお礼を言っていませんでしたね。危ないところを本当にありがとうございました」
「構わんぞ……。構わんぞ」
俺は何事もなかったかのように手を振る。
いい気分だ。
俺のような無欲で人助けをする人間などそうそういないだろう。
「それに、こんなに素敵なお食事も……この服も……」
「当然だ、俺は悪党ではなく、正義の味方なのだから。全くどこかの誰かにも分かってもらいたいものだ……」
「……? ところで、そういえば、お名前もお聞きしていませんでした……私はアリシアといいます。ククル村という村で、家の薬屋の手伝いをしています」
アリシアは名乗る。
「やはりそうか……」
「やはり?」
「……いや、俺の名はレクスだ。そうだな……。俺は……いわば……」
俺は、自分を説明するのに相応しい言葉何かと考える。
この世界で、家名を名乗るのは実はそんなに好きじゃない。
「いわば……?」
「俺は、イケメンだ」
「いけめん? ですか?」
「そう、俺はイケメンだ」
これが最も俺という男を表現するのに正しい言葉だろう。
「……イケメンとは何でしょうか?」
「イケメンとは、何かだと?」
「はい、私は聞いたことがない言葉ですね」
「そうか——」
イケメンとは何か……
問いかけるアリシアに、俺は悩む。
非常に重要で本質的な問いだ。
正確に答えなければならない。
「——非常に難しい質問だな。だが、はっきりと答えよう」
「はい」
「イケメン——とはつまり、俺の事を指し示す言葉だ。巷では、俺以外の紛い物がイケメンと、呼ばれているが、俺以外の者は真のイケメンではない。俺こそが真のイケメンなのだ」
「………そうですか……(——この人の、言っている事は良く分かりませんね)」
アリシアはよく分からないという事がわかった。
深掘りできそうな雰囲気でもない、引き下がるように俯く。
「分かってくれたようでなによりだ」
俺の回答に納得してくれた様子のアリアを前に、俺は頷く。
この世界にイケメンという言葉が存在しないのなら、今後きっと俺の定義した事こそが、何れ、その意味を表すのだろう。
完璧な回答が示せて良かった。
「……そう言えば、レクスさんは、なぜあの場にいたのでしょう? あの場所は、あの盗賊達の住処のようでしたが……」
「その前に、俺からも一つ、アリシアに聞きたいのだが?」
「はい、なんでしょう」
「アリシアは何故あの場所に囚われていたんだ?」
「それは……、私の実家は薬屋を営んでいるのですが、その手伝いで薬草の採集を行っているのですが……いつも行っている森に突然、現れた二人組に……襲われてしまい捕まってしまったようで……、気が付けばあの場所に……」
「……なるほど」
「はい、あの場所は安全だと思っていたのですが……今迄も盗賊なんて出た事は一度も出たことはありませんでした」
「突然、現れたという事だな?」
「はい。完全に油断していました……」
反省した様子のアリシアを前に俺は眉根を寄せる。
――まさか俺のせいか……?
物事の複雑性を扱うカオス理論という学問の中に、バタフライ・エフェクトという言葉があるのを思い出した。
きっかけが、蝶の羽ばたきのような小さな行為であったにせよ、様々な因果の巡り合わせの結果、それは大きな結果を生む可能性があるということ。
俺という別世界の人間の記憶を持つ、存在が生まれてしまった以上、この世界は、本来の【ブレイヴ・ヒストリア】の世界とは完全に同一の世界とは言えない。
言わば、並行世界のようなものだろう。
俺という異分子が【ブレイヴ・ヒストリア】のレクス・サセックスがとる行動と違う行動をとれば、それは確実に世界に波紋をうむ。
――俺が、金を稼ぐために、盗賊団のアジトを周回していたせいで、アリシアが……?
例えば盗賊達のアジトに定期的に集金と称して盗み入って周った結果、盗賊の行動が変化し。活動が広範囲化してしまい、彼女が誘拐されてしまった可能性はゼロではない。
――だ、だが……俺の行動が原因だと確定したわけでもない。
俺が知らなかっただけで、本来の【ブレイヴ・ヒストリア】の世界のアリシアも盗賊に誘拐されてしまっていた可能性もあるだろう。
俺は知らないのだ、それがあったかなかったのかも。
確か有名な哲学者が言っていた。――語りえぬものについては、沈黙しなければならない、と。
――そ、そうだとも。俺の予測や思考を超えた何か、未知の可能性もある。
何事もこうだと、決めつけてしまうのは危険ではないか? 決めつけてしまうと思考停止に陥る……。
俺のせいじゃない。
多分な。
「……お、俺が、あの場にいた理由だったな……?」
「はい」
透き通るような瞳に見つめられて俺の心臓は不思議な高鳴りを感じた。
「そ、それはだな……」
「はい」
「まさしく運命というやつだ。俺とアリシアは出会う運命だった。だから、俺はあの場所にいた。そうとしか考えられないな。うむ、運命が俺達を引き合わせる為に俺達はあの場にいたのだろうな……」
――も、もし仮に俺のせいだとしても、華麗に助け出したのだ……問題は無い……なんの問題も無い。問題は無い筈だろう……
俺とアリシアは出会う運命だった。ローランやサーシャと同じようにな。
運命だった。何となく良い響きもする。
「運命ですか? 私はそう言うのは信じていませんが……」
「……そ、そういう事もあるのだ……。この世界には、あらかじめそうだと決められた出来事というものがある。俺はそれを知っている。覚えておけアリシア……」
少し視線を逸らしながらレクスは言った。
「……それは、よく分かりませんが。見ず知らずの私の為にレクスさんは飛び込んできてくれたんですよね……?」
「全く見ず知らずというわけではないがな」
「そうなんですか?」
少し首を傾げるアリシア。
「それに、あの程度の事。俺にとっては然もない事……礼には及ばんぞ」
「……でも然もない事……ですか。そう言えばあの男の人も、一瞬で倒しちゃいましたしね……。突然、頭と血が降ってきてびっくりしちゃいましたよ……」
「ああ、あれは誤算だった。ふふ……すまんな」
思い出し笑いをする。
「……あの私に付いた血を落とした魔術……あんなの見た事も聞いた事も無いです……」
「ああ、あれは俺の独自魔術だ」
俺は少しのドヤ顔で返す。
「……独自ですか?」
「ああ。独自だ」
「自分であの魔術を作ったと?」
「ああ、ほんの思いつきだ……、便利だと思ってな……」
「……思いつき……そんな簡単に……私の先生も凄い魔術師でしたが、いつか自分の独自魔術を作りたいと研究していましたね……」
「そうなのか?」
俺は、無表情を装いながら水を飲む。
とても美味い水だ。
「羨ましいです。私もいつかはと……」
「ふむ」
「それにお料理をしながら、魔術を使うレクスさんは凄く楽しそうでした……」
空を見上げて、陰のある微笑みを浮かべるアリシア。
「……そうか?」
「……私は他の人が魔術を使うところ見ればどの程度の魔術師なのかある程度分かります。レクスさんは凄い魔術師なんだろうと思います」
「まぁ、そうだな」
「……はは、やっぱり自分で言うんですね……。私も、あんな風な……レクスさんみたいな魔術師になりたかったんですよ……」
「俺のようになりたいなどとは。良いセンスだ。よく分かっている。…‥なればいい……」
「……はは……。無理ですよ……」
儚げな乾いた微笑を浮かべるアリシア。
「無理ではない。無理だと決めつけては何も始まらん」
「無理ですよ……、だって……」
俯くアリシア。
「……どうした?」
「……だって、私は……もう、二度と魔術は使えないんですから……」
瞳に涙を滲ませて、絞り出すような声でアリシアはそう言った。
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