悪役転生〜主人公に全てを奪われて追放される踏み台悪役貴族に転生した〜

r21

文字の大きさ
33 / 57

運命

しおりを挟む
「お、美味しい」

 一口食べたアリシアが呟く。

「やはり、そうだろう」
「すいません、夢中になってしまって」
「構わん、俺の料理が素晴らしすぎるせいだからな」
「そういえば、まだ、ちゃんとお礼を言っていませんでしたね。危ないところを本当にありがとうございました」
「構わんぞ……。構わんぞ」

 俺は何事もなかったかのように手を振る。
 いい気分だ。
 俺のような無欲で人助けをする人間などそうそういないだろう。

「それに、こんなに素敵なお食事も……この服も……」 
「当然だ、俺は悪党ではなく、正義の味方なのだから。全くどこかの誰かにも分かってもらいたいものだ……」
「……? ところで、そういえば、お名前もお聞きしていませんでした……私はアリシアといいます。ククル村という村で、家の薬屋の手伝いをしています」

 アリシアは名乗る。

「やはりそうか……」
「やはり?」
「……いや、俺の名はレクスだ。そうだな……。俺は……いわば……」

 俺は、自分を説明するのに相応しい言葉何かと考える。
 この世界で、家名を名乗るのは実はそんなに好きじゃない。

「いわば……?」
「俺は、イケメンだ」
「いけめん? ですか?」
「そう、俺はイケメンだ」

 これが最も俺という男を表現するのに正しい言葉だろう。

「……イケメンとは何でしょうか?」
「イケメンとは、何かだと?」
「はい、私は聞いたことがない言葉ですね」
「そうか——」

 イケメンとは何か……
 
 問いかけるアリシアに、俺は悩む。
 非常に重要で本質的な問いだ。
 正確に答えなければならない。

「——非常に難しい質問だな。だが、はっきりと答えよう」
「はい」
「イケメン——とはつまり、俺の事を指し示す言葉だ。巷では、俺以外の紛い物がイケメンと、呼ばれているが、俺以外の者は真のイケメンではない。俺こそが真のイケメンなのだ」
「………そうですか……(——この人の、言っている事は良く分かりませんね)」

 アリシアはよく分からないという事がわかった。
 深掘りできそうな雰囲気でもない、引き下がるように俯く。
 
「分かってくれたようでなによりだ」

 俺の回答に納得してくれた様子のアリアを前に、俺は頷く。
 この世界にイケメンという言葉が存在しないのなら、今後きっと俺の定義した事こそが、何れ、その意味を表すのだろう。
 完璧な回答が示せて良かった。

「……そう言えば、レクスさんは、なぜあの場にいたのでしょう? あの場所は、あの盗賊達の住処のようでしたが……」
「その前に、俺からも一つ、アリシアに聞きたいのだが?」
「はい、なんでしょう」
「アリシアは何故あの場所に囚われていたんだ?」
「それは……、私の実家は薬屋を営んでいるのですが、その手伝いで薬草の採集を行っているのですが……いつも行っている森に突然、現れた二人組に……襲われてしまい捕まってしまったようで……、気が付けばあの場所に……」
「……なるほど」
「はい、あの場所は安全だと思っていたのですが……今迄も盗賊なんて出た事は一度も出たことはありませんでした」
「突然、現れたという事だな?」
「はい。完全に油断していました……」

 反省した様子のアリシアを前に俺は眉根を寄せる。

――まさか俺のせいか……?

 物事の複雑性を扱うカオス理論という学問の中に、バタフライ・エフェクトという言葉があるのを思い出した。
 きっかけが、蝶の羽ばたきのような小さな行為であったにせよ、様々な因果の巡り合わせの結果、それは大きな結果を生む可能性があるということ。

 俺という別世界の人間の記憶を持つ、存在が生まれてしまった以上、この世界は、本来の【ブレイヴ・ヒストリア】の世界とは完全に同一の世界とは言えない。
 言わば、並行世界パラレルワールドのようなものだろう。

 俺という異分子が【ブレイヴ・ヒストリア】のレクス・サセックスがとる行動と違う行動をとれば、それは確実に世界に波紋をうむ。

――俺が、金を稼ぐために、盗賊団のアジトを周回していたせいで、アリシアが……?

 例えば盗賊達のアジトに定期的に集金と称して盗み入って周った結果、盗賊の行動が変化し。活動が広範囲化してしまい、彼女が誘拐されてしまった可能性はゼロではない。

――だ、だが……俺の行動が原因だと確定したわけでもない。

 俺が知らなかっただけで、本来の【ブレイヴ・ヒストリア】の世界のアリシアも盗賊に誘拐されてしまっていた可能性もあるだろう。
 俺は知らないのだ、それがあったかなかったのかも。
 確か有名な哲学者が言っていた。――語りえぬものについては、沈黙しなければならない、と。

――そ、そうだとも。俺の予測や思考を超えた何か、未知の可能性もある。
 何事もこうだと、決めつけてしまうのは危険ではないか? 決めつけてしまうと思考停止に陥る……。
 俺のせいじゃない。
 多分な。

「……お、俺が、あの場にいた理由だったな……?」
「はい」

 透き通るような瞳に見つめられて俺の心臓は不思議な高鳴りを感じた。

「そ、それはだな……」
「はい」
「まさしく運命というやつだ。俺とアリシアは出会う運命だった。だから、俺はあの場所にいた。そうとしか考えられないな。うむ、運命が俺達を引き合わせる為に俺達はあの場にいたのだろうな……」

 ――も、もし仮に俺のせいだとしても、華麗に助け出したのだ……問題は無い……なんの問題も無い。問題は無い筈だろう……
 俺とアリシアは出会う運命だった。ローランやサーシャと同じようにな。
 運命だった。何となく良い響きもする。

「運命ですか? 私はそう言うのは信じていませんが……」
「……そ、そういう事もあるのだ……。この世界には、あらかじめそうだと決められた出来事というものがある。俺はそれを知っている。覚えておけアリシア……」

 少し視線を逸らしながらレクスは言った。

「……それは、よく分かりませんが。見ず知らずの私の為にレクスさんは飛び込んできてくれたんですよね……?」
「全く見ず知らずというわけではないがな」
「そうなんですか?」

 少し首を傾げるアリシア。

「それに、あの程度の事。俺にとっては然もない事……礼には及ばんぞ」
「……でも然もない事……ですか。そう言えばあの男の人も、一瞬で倒しちゃいましたしね……。突然、頭と血が降ってきてびっくりしちゃいましたよ……」
「ああ、あれは誤算だった。ふふ……すまんな」

 思い出し笑いをする。

「……あの私に付いた血を落とした魔術……あんなの見た事も聞いた事も無いです……」
「ああ、あれは俺の独自オリジナル魔術だ」

 俺は少しのドヤ顔で返す。

「……独自オリジナルですか?」 
「ああ。独自オリジナルだ」
「自分であの魔術を作ったと?」
「ああ、ほんの思いつきだ……、便利だと思ってな……」
「……思いつき……そんな簡単に……私の先生も凄い魔術師でしたが、いつか自分の独自魔術を作りたいと研究していましたね……」
「そうなのか?」

 俺は、無表情を装いながら水を飲む。
 とても美味い水だ。

「羨ましいです。私もいつかはと……」
「ふむ」
「それにお料理をしながら、魔術を使うレクスさんは凄く楽しそうでした……」

 空を見上げて、陰のある微笑みを浮かべるアリシア。

「……そうか?」
「……私は他の人が魔術を使うところ見ればどの程度の魔術師なのかある程度分かります。レクスさんは凄い魔術師なんだろうと思います」
「まぁ、そうだな」
「……はは、やっぱり自分で言うんですね……。私も、あんな風な……レクスさんみたいな魔術師になりたかったんですよ……」
「俺のようになりたいなどとは。良いセンスだ。よく分かっている。…‥なればいい……」
「……はは……。無理ですよ……」

 儚げな乾いた微笑を浮かべるアリシア。

「無理ではない。無理だと決めつけては何も始まらん」
「無理ですよ……、だって……」

 俯くアリシア。

「……どうした?」
「……だって、私は……もう、二度と魔術は使えないんですから……」

 瞳に涙を滲ませて、絞り出すような声でアリシアはそう言った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが

夏見ナイ
ファンタジー
過労死した俺が転生したのは、大好きな乙女ゲームの悪役貴族アレン。待つのはヒロインたちからの断罪と処刑エンド!?冗談じゃない! 絶対に生き延びて平穏な老後を送るため、俺はゲーム知識を総動員して破滅フラグ回避に奔走する。領地を改革し、民を救い、来るべき災厄に備えて血の滲むような努力を重ねた。 ただ死にたくない一心だったのに、その行動はなぜか周囲に「深謀遠慮の聖人」と勘違いされ、評価はうなぎ登り。 おまけに、俺を断罪するはずの聖女や王女、天才魔導師といったヒロインたちが「運命の人だわ!」「結婚してください!」と次々に迫ってきて……!? これは、破滅を回避したいだけの悪役貴族が、いつの間にか国を救う英雄に祭り上げられ、ヒロインたちに溺愛される勘違い救国ファンタジー!

帰還勇者の盲愛生活〜異世界で失った仲間たちが現代で蘇り、俺を甘やかしてくる~

キョウキョウ
ファンタジー
普通の会社員だった佐藤隼人(さとうはやと)は、ある日突然異世界に招かれる。 異世界で勇者として10年間を旅して過ごしながら魔王との戦いに決着をつけた隼人。 役目を終えて、彼は異世界に旅立った直後の現代に戻ってきた。 隼人の意識では10年間という月日が流れていたが、こちらでは一瞬の出来事だった。 戻ってきたと実感した直後、彼の体に激痛が走る。 異世界での経験と成長が現代の体に統合される過程で、隼人は1ヶ月間寝込むことに。 まるで生まれ変わるかのような激しい体の変化が続き、思うように動けなくなった。 ようやく落ち着いた頃には無断欠勤により会社をクビになり、それを知った恋人から別れを告げられる。 それでも隼人は現代に戻ってきて、生きられることに感謝する。 次の仕事を見つけて、新しい生活を始めようと前向きになった矢先、とある人物が部屋を訪ねてくる。 その人物とは、異世界で戦友だった者の名を口にする女子高生だった。 「ハヤト様。私たちの世界を救ってくれて、本当にありがとう。今度は、私たちがあなたのことを幸せにします!」 ※カクヨムにも掲載中です。

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

処理中です...