周囲が優しくないイケメンばかりなので、優しいイケメンを召喚する!

ぬい

文字の大きさ
3 / 16

【3】周囲が優しくないイケメンばかりなので、優しいイケメンを召喚する!

しおりを挟む
 私はお風呂に入りながら、じっくりと考えた。
 私の家族は麗しい。みんな優しい。

 だが、だが、だが――私の周囲の男性は、皆、優しくない。冷たいと言える場合もあるだろう。顔がいい男とは優しくないのかと考えてみたが、兄や弟、なにより父を見る限り、そんなはずはないのである。

 では、私が悪いのだろうか?
 私の何がそんなに悪いのだろう?

 母と私を比較てしてみる。私は母が大好きだ。ツルハシ型の杖を振り回している母の隣で、何時間もラベンダーを眺めていると幸せになる。母は、昔苦労したそうで、私に女の子は女の子らしい幸せを甘受すべきだと言って、好きな習い事をさせてくれたし、可愛い服を昔から買ってくれた。何より私を愛して、抱きしめてくれた。

 もしかして、私には優しさが足りないのだろうか? いいや、そんなことはないだろう。私は完璧な侯爵令嬢を志していて、優しさもその要素だ。

 ウンウン唸りながら、しばらくお湯に沈んだ後、ハッとした。
 召喚獣は私に優しい。
 ならば人型召喚獣も私に優しいかも知れない。

 優しくなくても、優しくしてくれと命令可能である。命令不可能な召喚獣などほとんどいないし、それは四将軍以上の貴重な存在だ。そうだ――人型なのだから、顔面造形も召喚時の条件にできる。そうだそうだそうだ――優しいイケメンを召喚しよう。これならば私が変わるまでもない。周囲にいないのだから、優しいイケメンを喚んでくれば良いのだ。

 こうして決意し、私はお風呂から上がった。

 その日からずっと、鍵言葉にする『イケメン』にあたる召喚獣古代語を探し続け、イケメンを意味する紋章を探し続け、イケメンを呼び寄せる旋律を考え続け、私は朝も昼も夜もイケメンと優しさについて考え続け、いつしかイケメンの定義に混乱するほどになりながらも、なんとか召喚予定日前日に魔法陣を完成させ、その日は熟睡した。


 ――当日。

「ラヴェンデルの名のもとに、召喚する」

 私は召喚魔方陣の中央に立ち、白い指揮杖を握り締めた。

 それを軽く振ると、私の中でのイケメン旋律が流れ始めた。私が独自に作曲した調べは、今回先生には『何が言いたいのかは不明だが、情熱が伝わってきて一番マシだ』と評価されていた。

 魔方陣内部の溝に数多の光が走り抜けていき、その光は紋章をなぞり、四方にあった、古代語の『イケメン』という文字を浮かび上がらせた。誰もこの言葉の意味がわからないそうだ。先生にも尋ねられた。私は『非常に優れた人物という単語です』と誤魔化したものである。私の換言能力はお父様譲りだ。

 光が終焉した時、一陣の風が吹き抜けた。
 直後、逆に無風無音の静寂が訪れた。
 普通はすぐに召喚主が名乗るのだが――私にはそれできなかった。

 呆然として目を見開いた私を、現れた人型の召喚獣が見下ろしている。
 長身の人間より、さらに頭一つ分ほど背が高そうに思える。

 ラピスラズリのような瞳をしていて、時折紫や桃色に光る銀髪をしていた。薄い唇は形が良く、すっと通った鼻筋、ある種の作り物のような双眸、肌、これは――……イケメンである。成功だ。

 そう漠然と考えたが……呼吸が苦しいほどにその場の空気は冷えていて、威圧感がある。視線を離す事ができない。心臓の音が嫌に大きく響いた時、見ていた先生の声が聞こえた。

「クラインディルヴェルト……?」
「最強の召喚獣の……すごい、イリス、すごい」

 リヒト先輩が続けた。そこでようやく私は我を取り戻した。

「誰が何をしても召喚に応じなかったというのに――イリス、一体何を鍵言葉に?」

 ミネロム先生の言葉に、『イケメン』だと答えたいが、ためらわれて迷った。
 しかしこの召還獣は……『最強』や『強い』といった鍵言葉では出てこないのに、『イケメン』で出てくるのか。

「ま、ますは、召喚獣とお話をしてまいります――あ、の、こちらへ!」

 私は必死で体を叱咤し、横に付属している召喚獣用応接間にクラインディルヴェルトらしき召喚獣を促した。すると少し顎を傾け、より見下す表情でついてきた。扉を閉める。そして席に促してから、私は言った。

「召喚に応じて下さり、感謝致しますわ」
「――イケメンに優しくされたいという魔方陣に興味がわいてな」
「うっ……そ、それは、その……」
「召喚獣の世界で一番のイケメンという指定条件――俺だった。俺は、人間界からの全ての指定条件を、完全に防御したと思っていたから驚いた。自分が一番イケメンだということには、まぁ納得したが」
「そうでございますのね」
「だが、優しくというのがよく分からない。何が望みだ? 念の為に言っておくが、俺はそれに興味を抱いてここへ来ただけで、優しくするとは言っていない」
「え?」
「ん?」
「優しくしてくれないのですか?」
「特にするつもりはないな――場合によるが。具体的に話してみてくれ」
「こう……頭を撫でたり、手をつないだり、『綺麗だね』『可愛いね』と言ってくれたり、悲しい時には慰めてくれたり、プレゼントをくれたり、分からないことを優しく教えてくれたり、失敗した時は慰めてくれたり、疲れた顔をしていたら肩を揉んでくれるような」
「てっきり性欲解消の相手をしろという話か、この国のために尽くす優しさを見せろという話の、どちらかだと思っていた」
「――!! ぜ、ぜひこの国のために」
「もう遅い。それにそうであったなら、俺は帰るつもりだった。なるほど、頭を撫でるのか。それは面白そうだな」
「え……?」

 困惑していると、立ち上がった召喚獣が、私を抱きしめた。
 ぽかんとしていると、片腕を腰に回し、もう片方の手で私の頭を撫ではじめた。
 腕の中で硬直していると、喉で笑うようにしてから、囁かれた。

「俺の事は、クライと呼んでくれ。簡略呼び名を交換すれば、契約儀式は終了だろう?」
「え、ええ。クライ……私は、イリス・ラヴェンデルと申します。イリスとお呼びになってくださいませ」
「分かった。あきるまでの間、思いっきり優しくしてやるから覚悟しろ」

 そう言って額に触れるだけのキスをされた。
 私は真っ赤になったままで、やっと彼を押し返すべきだと気がついた。

「肉体的接触は、クライは手でのみ、かつ私の掌へのみでお願いします。他はダメです。これは召喚条件に付け加えます」
「肩が揉めないが?」
「肩も付け加えます」
「髪がダメなら撫でられないぞ?」
「頭も良い事にします」
「――どうしてそれ以外はダメなんだ?」
「私は許婚がおりますので、浮気になってしまいますもの。二度と私にキスをしてはなりません」
「婚約者がいるのに、イケメンに優しくされたいと願った女が、浮気云々と言い出してもな……」
「っ、口ではもっと優しい言葉を言わないとダメですわ」
「――寂しかったんだな。俺が慰めてやる、俺の腕の中に来い。抱きしめるだけで、それ以上は何もしないから」
「……――分かりました」

 こうして私は、クライに抱きしめられながら、これからどうしようか思案したのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

転生先のご飯がディストピア飯だった件〜逆ハーレムはいらないから美味しいご飯ください

木野葛
恋愛
食事のあまりの不味さに前世を思い出した私。 水洗トイレにシステムキッチン。テレビもラジオもスマホある日本。異世界転生じゃなかったわ。 と、思っていたらなんか可笑しいぞ? なんか視線の先には、男性ばかり。 そう、ここは男女比8:2の滅び間近な世界だったのです。 人口減少によって様々なことが効率化された世界。その一環による食事の効率化。 料理とは非効率的な家事であり、非効率的な栄養摂取方法になっていた…。 お、美味しいご飯が食べたい…! え、そんなことより、恋でもして子ども産め? うるせぇ!そんなことより美味しいご飯だ!!!

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...