声だけカワイイ俺と標の塔の主様

鷹椋

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第4章 声だけカワイイ俺は見えてる侯爵子息に認識される

4-1

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 その日〈標の塔〉を訪れた俺は、とても珍しいものを目にした。

 アルベルトだ。
 なんと彼が出歩いていたのである。

 こんなことを言っては失礼かもしれないが、でも本当に、これまであのお気に入りのソファでのんびり寛いでいる姿しか見たことがなかったから、アルベルトが立って歩いているという、ただそれだけで、俺はかなりの衝撃を受けた。

 ……しかも、なんて顔してるんだよ。

 あんな容姿だから、アルベルトは滅茶苦茶目立っていた。
 すれ違う他の【鍵持ち】たちが、その美貌に目を奪われ、熱い視線を送り、中には声をかけようとする強者もいるのだが。
 そんな彼らが近寄った瞬間、アルベルトは思わず身が竦むような、恐ろしく冷たい表情に変わる。
 いや、多分あれ、殺気を込めた魔力も同時に放っているな。直前まで顔を赤らめていた人たちが、みんな一瞬で顔面蒼白になっていくんだけど……
 俺はアルベルトがまわりから「氷の侯爵子息」とか妙なあだ名をつけられてないか心配になってきた。

 どこに行く気なのか知らないけれど、あんまり他の【鍵持ち】たちを刺激するなよ……

 遠ざかるアルベルトの後ろ姿をこっそり見送り、ふうと息を吐く。
 ……うん。ついつい忘れがちだけど、こうしてクラヴィスの時にニアミスする可能性もあるのだ。
 まあ、俺が頼まれているのは、リズとしてアルベルトのお世話をすることだけだから。
 今後も関わらないようにしておこう。見かけたら即退散、それに限る。
 
 と、俺はこの時、心の中でそう誓ったのだが――


***


 ――ぽよん、――ぽよん

 おっ、更新されてる。
 ダンジョンに挑んだその帰り、立ち寄った〈音無しの書庫〉にて。
 目当ての本を書架から引き抜き、開いてページを捲っていくと、以前は白紙だった箇所に新たに文字が追加されていた。
 なるほど、こういう感じなのか……
 俺は本を持ち直し、更新された情報に目を通していく。

〈音無しの書庫〉には、本当にたくさんの本がある。
 古びた装丁のものも多く、おそらく外では出回ってないような、とても希少な本も置いてあるのだと思う。いわゆる禁書扱いのものも、探せば簡単に出てきそうな雰囲気だ。
 ただ、誰もが好きに読めるわけではないらしい。
 俺も一番初め、目についた適当な本を何気なく開いた時、中が真っ白なページだらけで困惑してしまった。
 慌てて他の本も確認したところ、全部読める本もあるにはあったのだが、何故か読みたい本に限って読めない――ということばかりで。
 首を捻っていたら【ガイド】が教えてくれた。
 どうやら、本人の能力とダンジョンの攻略状況を考慮して、書庫側が利用者に与える情報を選別しているらしい。

 その更新のタイミングについては謎だったのだけど。
 まだ複数のダンジョンの低層を軽く探索して回っているだけの俺でも、こうやって新しい情報が得られたということは、結構細かく設定されているのか?
 今後も時間をつくって、こまめに〈音無しの書庫〉を訪れたほうがいいかもしれない。

 ちなみに、ここにある本は、外へ持ち出すことはできないらしい。
 こっそり持ち出そうとしても、〈音無しの書庫〉を出た時点で、本は勝手に元の場所に戻るようになっているそうだ。
 あと、「破いたり汚したり、本を粗末に扱うと呪われるよ」とアルベルトが恐ろしいことを言っていたが、あれは本当なのだろうか。

 ――ぽよん、――ぽよん

「……」

 ――ぽよん、――ぽよん、――ぽよん

「…………はあ」

 俺は静かに本を閉じて、ちらりと自分の足元を見る。
 先ほどから、ずっと俺のまわりを跳ねまわっている、白い小さなトゲトゲした生き物。俺の視線に気づいたのか、そいつは跳ねるのをやめて、こちらを見上げ「?」と首を傾げる。

 いや、「?」じゃないだろう。
 思わずジトッと見つめ返す俺。

 魔物の一種なのだろうか。
 前世の記憶が『ハリネズミ』と言っている。あと『白いタワシ』とか『白いウニ』とも。
 いったい何がきっかけで、ここまで好かれたのやら。先刻ダンジョンを出る際、いつの間にか傍にいたこいつは、その後も何故か俺の後をついてきて、一向に離れようとしない。
 弱そうな見た目で油断を誘う類の魔物もいるから、さっさと倒してしまおうと剣をふるうも、意外とすばしっこくて、俺の攻撃が全然当たらないし。
 反撃してくるかと思いきや、向こうは「遊んでもらった」という認識なのか、牙を剥いてくる様子もなく終始能天気な顔のまま。結局、こうして書庫までついてくる始末。

 俺、餌とか持ってないぞ。
 さっさと飽きて、どこかに行ってくれ。

 げんなりしつつ、読み終わった本を元の位置に戻す。
 流石に〈標の塔〉の外までは追ってこないよな……?
 仕方ない。今日は仕事も入ってないから、もうこのままロドワームの宿に帰るか。

 歩き出した俺は、高い本棚が並ぶ迷路のような道を出口に向かって進む。
 そうして何気なく角を曲がろうとした、その時。進行方向から、ぬっと人影が飛び出してきて、

 ぶつかる――
 心臓がひやりとした。
 慌ててその場に踏みとどまり、なんとかギリギリ接触を回避したが。
 ほっとしたのも束の間、顔を上げた俺は息が止まりそうになる。

 目の前に――アルベルトが立っていた。
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