30 / 35
第4章 声だけカワイイ俺は見えてる侯爵子息に認識される
4-1
しおりを挟む
その日〈標の塔〉を訪れた俺は、とても珍しいものを目にした。
アルベルトだ。
なんと彼が出歩いていたのである。
こんなことを言っては失礼かもしれないが、でも本当に、これまであのお気に入りのソファでのんびり寛いでいる姿しか見たことがなかったから、アルベルトが立って歩いているという、ただそれだけで、俺はかなりの衝撃を受けた。
……しかも、なんて顔してるんだよ。
あんな容姿だから、アルベルトは滅茶苦茶目立っていた。
すれ違う他の【鍵持ち】たちが、その美貌に目を奪われ、熱い視線を送り、中には声をかけようとする強者もいるのだが。
そんな彼らが近寄った瞬間、アルベルトは思わず身が竦むような、恐ろしく冷たい表情に変わる。
いや、多分あれ、殺気を込めた魔力も同時に放っているな。直前まで顔を赤らめていた人たちが、みんな一瞬で顔面蒼白になっていくんだけど……
俺はアルベルトがまわりから「氷の侯爵子息」とか妙なあだ名をつけられてないか心配になってきた。
どこに行く気なのか知らないけれど、あんまり他の【鍵持ち】たちを刺激するなよ……
遠ざかるアルベルトの後ろ姿をこっそり見送り、ふうと息を吐く。
……うん。ついつい忘れがちだけど、こうしてクラヴィスの時にニアミスする可能性もあるのだ。
まあ、俺が頼まれているのは、リズとしてアルベルトのお世話をすることだけだから。
今後も関わらないようにしておこう。見かけたら即退散、それに限る。
と、俺はこの時、心の中でそう誓ったのだが――
***
――ぽよん、――ぽよん
おっ、更新されてる。
ダンジョンに挑んだその帰り、立ち寄った〈音無しの書庫〉にて。
目当ての本を書架から引き抜き、開いてページを捲っていくと、以前は白紙だった箇所に新たに文字が追加されていた。
なるほど、こういう感じなのか……
俺は本を持ち直し、更新された情報に目を通していく。
〈音無しの書庫〉には、本当にたくさんの本がある。
古びた装丁のものも多く、おそらく外では出回ってないような、とても希少な本も置いてあるのだと思う。いわゆる禁書扱いのものも、探せば簡単に出てきそうな雰囲気だ。
ただ、誰もが好きに読めるわけではないらしい。
俺も一番初め、目についた適当な本を何気なく開いた時、中が真っ白なページだらけで困惑してしまった。
慌てて他の本も確認したところ、全部読める本もあるにはあったのだが、何故か読みたい本に限って読めない――ということばかりで。
首を捻っていたら【ガイド】が教えてくれた。
どうやら、本人の能力とダンジョンの攻略状況を考慮して、書庫側が利用者に与える情報を選別しているらしい。
その更新のタイミングについては謎だったのだけど。
まだ複数のダンジョンの低層を軽く探索して回っているだけの俺でも、こうやって新しい情報が得られたということは、結構細かく設定されているのか?
今後も時間をつくって、こまめに〈音無しの書庫〉を訪れたほうがいいかもしれない。
ちなみに、ここにある本は、外へ持ち出すことはできないらしい。
こっそり持ち出そうとしても、〈音無しの書庫〉を出た時点で、本は勝手に元の場所に戻るようになっているそうだ。
あと、「破いたり汚したり、本を粗末に扱うと呪われるよ」とアルベルトが恐ろしいことを言っていたが、あれは本当なのだろうか。
――ぽよん、――ぽよん
「……」
――ぽよん、――ぽよん、――ぽよん
「…………はあ」
俺は静かに本を閉じて、ちらりと自分の足元を見る。
先ほどから、ずっと俺のまわりを跳ねまわっている、白い小さなトゲトゲした生き物。俺の視線に気づいたのか、そいつは跳ねるのをやめて、こちらを見上げ「?」と首を傾げる。
いや、「?」じゃないだろう。
思わずジトッと見つめ返す俺。
魔物の一種なのだろうか。
前世の記憶が『ハリネズミ』と言っている。あと『白いタワシ』とか『白いウニ』とも。
いったい何がきっかけで、ここまで好かれたのやら。先刻ダンジョンを出る際、いつの間にか傍にいたこいつは、その後も何故か俺の後をついてきて、一向に離れようとしない。
弱そうな見た目で油断を誘う類の魔物もいるから、さっさと倒してしまおうと剣をふるうも、意外とすばしっこくて、俺の攻撃が全然当たらないし。
反撃してくるかと思いきや、向こうは「遊んでもらった」という認識なのか、牙を剥いてくる様子もなく終始能天気な顔のまま。結局、こうして書庫までついてくる始末。
俺、餌とか持ってないぞ。
さっさと飽きて、どこかに行ってくれ。
げんなりしつつ、読み終わった本を元の位置に戻す。
流石に〈標の塔〉の外までは追ってこないよな……?
仕方ない。今日は仕事も入ってないから、もうこのままロドワームの宿に帰るか。
歩き出した俺は、高い本棚が並ぶ迷路のような道を出口に向かって進む。
そうして何気なく角を曲がろうとした、その時。進行方向から、ぬっと人影が飛び出してきて、
ぶつかる――
心臓がひやりとした。
慌ててその場に踏みとどまり、なんとかギリギリ接触を回避したが。
ほっとしたのも束の間、顔を上げた俺は息が止まりそうになる。
目の前に――アルベルトが立っていた。
アルベルトだ。
なんと彼が出歩いていたのである。
こんなことを言っては失礼かもしれないが、でも本当に、これまであのお気に入りのソファでのんびり寛いでいる姿しか見たことがなかったから、アルベルトが立って歩いているという、ただそれだけで、俺はかなりの衝撃を受けた。
……しかも、なんて顔してるんだよ。
あんな容姿だから、アルベルトは滅茶苦茶目立っていた。
すれ違う他の【鍵持ち】たちが、その美貌に目を奪われ、熱い視線を送り、中には声をかけようとする強者もいるのだが。
そんな彼らが近寄った瞬間、アルベルトは思わず身が竦むような、恐ろしく冷たい表情に変わる。
いや、多分あれ、殺気を込めた魔力も同時に放っているな。直前まで顔を赤らめていた人たちが、みんな一瞬で顔面蒼白になっていくんだけど……
俺はアルベルトがまわりから「氷の侯爵子息」とか妙なあだ名をつけられてないか心配になってきた。
どこに行く気なのか知らないけれど、あんまり他の【鍵持ち】たちを刺激するなよ……
遠ざかるアルベルトの後ろ姿をこっそり見送り、ふうと息を吐く。
……うん。ついつい忘れがちだけど、こうしてクラヴィスの時にニアミスする可能性もあるのだ。
まあ、俺が頼まれているのは、リズとしてアルベルトのお世話をすることだけだから。
今後も関わらないようにしておこう。見かけたら即退散、それに限る。
と、俺はこの時、心の中でそう誓ったのだが――
***
――ぽよん、――ぽよん
おっ、更新されてる。
ダンジョンに挑んだその帰り、立ち寄った〈音無しの書庫〉にて。
目当ての本を書架から引き抜き、開いてページを捲っていくと、以前は白紙だった箇所に新たに文字が追加されていた。
なるほど、こういう感じなのか……
俺は本を持ち直し、更新された情報に目を通していく。
〈音無しの書庫〉には、本当にたくさんの本がある。
古びた装丁のものも多く、おそらく外では出回ってないような、とても希少な本も置いてあるのだと思う。いわゆる禁書扱いのものも、探せば簡単に出てきそうな雰囲気だ。
ただ、誰もが好きに読めるわけではないらしい。
俺も一番初め、目についた適当な本を何気なく開いた時、中が真っ白なページだらけで困惑してしまった。
慌てて他の本も確認したところ、全部読める本もあるにはあったのだが、何故か読みたい本に限って読めない――ということばかりで。
首を捻っていたら【ガイド】が教えてくれた。
どうやら、本人の能力とダンジョンの攻略状況を考慮して、書庫側が利用者に与える情報を選別しているらしい。
その更新のタイミングについては謎だったのだけど。
まだ複数のダンジョンの低層を軽く探索して回っているだけの俺でも、こうやって新しい情報が得られたということは、結構細かく設定されているのか?
今後も時間をつくって、こまめに〈音無しの書庫〉を訪れたほうがいいかもしれない。
ちなみに、ここにある本は、外へ持ち出すことはできないらしい。
こっそり持ち出そうとしても、〈音無しの書庫〉を出た時点で、本は勝手に元の場所に戻るようになっているそうだ。
あと、「破いたり汚したり、本を粗末に扱うと呪われるよ」とアルベルトが恐ろしいことを言っていたが、あれは本当なのだろうか。
――ぽよん、――ぽよん
「……」
――ぽよん、――ぽよん、――ぽよん
「…………はあ」
俺は静かに本を閉じて、ちらりと自分の足元を見る。
先ほどから、ずっと俺のまわりを跳ねまわっている、白い小さなトゲトゲした生き物。俺の視線に気づいたのか、そいつは跳ねるのをやめて、こちらを見上げ「?」と首を傾げる。
いや、「?」じゃないだろう。
思わずジトッと見つめ返す俺。
魔物の一種なのだろうか。
前世の記憶が『ハリネズミ』と言っている。あと『白いタワシ』とか『白いウニ』とも。
いったい何がきっかけで、ここまで好かれたのやら。先刻ダンジョンを出る際、いつの間にか傍にいたこいつは、その後も何故か俺の後をついてきて、一向に離れようとしない。
弱そうな見た目で油断を誘う類の魔物もいるから、さっさと倒してしまおうと剣をふるうも、意外とすばしっこくて、俺の攻撃が全然当たらないし。
反撃してくるかと思いきや、向こうは「遊んでもらった」という認識なのか、牙を剥いてくる様子もなく終始能天気な顔のまま。結局、こうして書庫までついてくる始末。
俺、餌とか持ってないぞ。
さっさと飽きて、どこかに行ってくれ。
げんなりしつつ、読み終わった本を元の位置に戻す。
流石に〈標の塔〉の外までは追ってこないよな……?
仕方ない。今日は仕事も入ってないから、もうこのままロドワームの宿に帰るか。
歩き出した俺は、高い本棚が並ぶ迷路のような道を出口に向かって進む。
そうして何気なく角を曲がろうとした、その時。進行方向から、ぬっと人影が飛び出してきて、
ぶつかる――
心臓がひやりとした。
慌ててその場に踏みとどまり、なんとかギリギリ接触を回避したが。
ほっとしたのも束の間、顔を上げた俺は息が止まりそうになる。
目の前に――アルベルトが立っていた。
25
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
愛させてよΩ様
ななな
BL
帝国の王子[α]×公爵家の長男[Ω]
この国の貴族は大体がαかΩ。
商人上がりの貴族はβもいるけど。
でも、αばかりじゃ優秀なαが産まれることはない。
だから、Ωだけの一族が一定数いる。
僕はαの両親の元に生まれ、αだと信じてやまなかったのにΩだった。
長男なのに家を継げないから婿入りしないといけないんだけど、公爵家にΩが生まれること自体滅多にない。
しかも、僕の一家はこの国の三大公爵家。
王族は現在αしかいないため、身分が一番高いΩは僕ということになる。
つまり、自動的に王族の王太子殿下の婚約者になってしまうのだ...。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている
春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」
王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。
冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、
なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。
誰に対しても一切の温情を見せないその男が、
唯一リクにだけは、優しく微笑む――
その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。
孤児の少年が踏み入れたのは、
権謀術数渦巻く宰相の世界と、
その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。
これは、孤独なふたりが出会い、
やがて世界を変えていく、
静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。
カランコエの咲く所で
mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。
しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。
次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。
それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。
だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。
そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。
越えられない壁で僕らの幸せは・・・
綾瑪東暢
BL
繋家に産まれた繋 志飛(つなぎ しと)は男だった。残念なことに繋家に男は不要だった。両親は初めての子供だと言うことで志飛を女として育てることにし繋 志綾(つなぎ しあ)と名前を変えた。
繋家と違って女を不要としている要家。要家とはお隣同士の家であり両家の決まりで必ず繋家と要家の子供同士は結婚しないといけなかった。
それは伝統で昔からやって来ていること。誰も変えることの出来ない伝統。
要家の三男として要 荼泉(かなめ とい)が産まれた。
この流れで行くと荼泉と志綾は結婚することになる。が、どっちらも男。
伝統を守り、性別を隠しながら結婚するのか、伝統を破り、性別を明かして追い出されるか・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる