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第4章 声だけカワイイ俺は見えてる侯爵子息に認識される
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時が止まったかのような静寂の中、俺は、ただただ目を丸くする。
クラヴィスとして塔内でアルベルトに会う可能性はある。だから十分気をつけようと、そう思ったのはつい数時間前のことだったのに。
いざこうして不意打ちのような形で対面すると、頭の中が真っ白になり、思考がまったくと言っていいほど纏まらない。
というか近い。
出会いがしらの衝突を回避して、そのままの状態で固まってしまったせいで、リズの時ですら近づいたことがないほどの至近距離にいるのだけど。
あとアルベルト、思っていたより背高いな!?
同じくらいと言葉では言いつつ、でも多分俺の方が上だろうと勝手に思い込んでいただけに、僅差で負けてるっぽいこの現状は、ちょっと予想外である。
……いやいや、そんなことよりもだ。
ようやく思考が追いついてきた俺は、なんとかこの場をやり過ごそうと考え、――ふと、アルベルトの様子がおかしいことに気づく。
さっきから、微動だにしてないのだけど。どうした。
よく見ると顔色も悪い。
俺か? 俺のせいだな、これは??
本当に男嫌いなんだ……
というより、これはもう、男性恐怖症のレベルでは。
なんて考えている間も、アルベルトの顔色はどんどん悪くなっていく。
もはやすっかり血の気を失っていて、しかも……なんか、体から魔力が漏れだしてないか……?
魔眼の発動により、元の薄紅色から煌めく金色に変わっているアルベルトの瞳。
それが、目の前で危なげに揺れるのを見て、俺の背中を悪寒が駆け抜ける。
っ、まずい……!
魔力が暴発する前に、どうにかアルベルトを落ち着かせないと……!!
「――っ」
本能が足を動かし、床を蹴る。
飛び下がるようにして素早く距離をとった俺に、アルベルトがびくりと小さく体を揺らす。
『人が苦手。会話もできない。あまり近づかないで貰えると助かる』
魔眼発動時は、純粋な視力も爆上がりすると聞いた。小さな文字でも読めるだろう。
取り出した手帳にさっとペンで書いて、それを突きつけるようにアルベルトに見せる。
事実はこの際どうでもいい。重要なのは、とにかく俺たち2人の立ち位置を明確にすること。
すなわち、俺が怖がっている側であり、アルベルトが怖がらせている側であると。俺に敵意はなく、今この場で危機的状況に陥っているのはあくまで俺の方――そうアルベルトに印象付ける。
人って、自分より明らかに大変な状況にある相手が目の前にいると、案外冷静になれるものだし。
多分俺、今、ものすごく焦った顔をしているだろうから、信憑性もあるだろう。
本当は、俺がもっと、庇護欲を掻き立てる見た目をしていればよかったのだけど。生憎、俺がカワイイのは声だけで、おまけに相手は絶対にこの声で話しかけられないアルベルトだ。致し方なし。
そんな一か八かの作戦は功をなしたようで――
やや困惑気味な様子のアルベルトだったが、しばらくすると状況をのみこんだのか、俺に向けてこくっと小さく頷いてくる。
しっかり距離をとったのもよかったのだろう。
コントロールを失いかけていたアルベルトの膨大な魔力も、次第に落ち着き、少しずつ冷静さを取り戻しているように見える。
ただ、その代わりといわんばかりに突き刺さる視線はなんなのか。さっきまでと違って、明らかに意思のこもった目で俺のことジロジロ見てくるのだけど……
思わずたじろぐ俺。
アルベルトは、はっとして、ばつが悪そうな顔で視線を逸らす。
「その……妙な場所に魔物の気配がしたから、様子を見にきたんだけど……」
こほんと咳払いした後、遠慮がちに、且つ〈音無しの書庫〉の効果で消されない程度の声量で口を開いたアルベルト。ちらりと目を向けた先は俺の足元、そこにいるハリネズミもどき。
こいつか!
俺はひくりと頬を引きつらせる。
〈標の塔〉は広い。〈音無しの書庫〉も広い。こんなふうにアルベルトと鉢合わせするなんて、いったいどんな確率だと疑問に思っていたが、すべての原因はまさかのこいつ!
『ダンジョン出てからも何故か後をついてきて困ってたんだ』
様子を見にきたということは、何かしら対処するつもりだったのだろう。なら、アルベルトに押しつけ――じゃない、任せてしまってもいいか。
再び走り書きを見せた俺は、空いている方の手でハリネズミもどきを拾い上げる。瞬間、モフッとした。……ええ? トゲだらけの見た目のくせに、なんで触感はモフモフなのお前……
突っ込みどころ満載なそれを、アルベルトに向けて投げ渡す。
ぽーんと緩やかな弧を描いて、飛んでいったハリネズミもどきが、無事アルベルトの手の中に収まる。
……あっ。アルベルトも変な顔してる。
だよな? やっぱり触感おかしいよな??
『じゃ、俺はこれで』
ちょっと笑いそうになりながら、最後にそう言葉を残す。
返事は待たない。
というか、これ以上ここにいるとボロがでそうだ。
俺は足早に歩き去る。
その後、彼らがどうなったのか、少しだけ気になりはしたものの――結局そのまま書庫を出て、その日は寄り道することなく〈標の塔〉を後にした。
クラヴィスとして塔内でアルベルトに会う可能性はある。だから十分気をつけようと、そう思ったのはつい数時間前のことだったのに。
いざこうして不意打ちのような形で対面すると、頭の中が真っ白になり、思考がまったくと言っていいほど纏まらない。
というか近い。
出会いがしらの衝突を回避して、そのままの状態で固まってしまったせいで、リズの時ですら近づいたことがないほどの至近距離にいるのだけど。
あとアルベルト、思っていたより背高いな!?
同じくらいと言葉では言いつつ、でも多分俺の方が上だろうと勝手に思い込んでいただけに、僅差で負けてるっぽいこの現状は、ちょっと予想外である。
……いやいや、そんなことよりもだ。
ようやく思考が追いついてきた俺は、なんとかこの場をやり過ごそうと考え、――ふと、アルベルトの様子がおかしいことに気づく。
さっきから、微動だにしてないのだけど。どうした。
よく見ると顔色も悪い。
俺か? 俺のせいだな、これは??
本当に男嫌いなんだ……
というより、これはもう、男性恐怖症のレベルでは。
なんて考えている間も、アルベルトの顔色はどんどん悪くなっていく。
もはやすっかり血の気を失っていて、しかも……なんか、体から魔力が漏れだしてないか……?
魔眼の発動により、元の薄紅色から煌めく金色に変わっているアルベルトの瞳。
それが、目の前で危なげに揺れるのを見て、俺の背中を悪寒が駆け抜ける。
っ、まずい……!
魔力が暴発する前に、どうにかアルベルトを落ち着かせないと……!!
「――っ」
本能が足を動かし、床を蹴る。
飛び下がるようにして素早く距離をとった俺に、アルベルトがびくりと小さく体を揺らす。
『人が苦手。会話もできない。あまり近づかないで貰えると助かる』
魔眼発動時は、純粋な視力も爆上がりすると聞いた。小さな文字でも読めるだろう。
取り出した手帳にさっとペンで書いて、それを突きつけるようにアルベルトに見せる。
事実はこの際どうでもいい。重要なのは、とにかく俺たち2人の立ち位置を明確にすること。
すなわち、俺が怖がっている側であり、アルベルトが怖がらせている側であると。俺に敵意はなく、今この場で危機的状況に陥っているのはあくまで俺の方――そうアルベルトに印象付ける。
人って、自分より明らかに大変な状況にある相手が目の前にいると、案外冷静になれるものだし。
多分俺、今、ものすごく焦った顔をしているだろうから、信憑性もあるだろう。
本当は、俺がもっと、庇護欲を掻き立てる見た目をしていればよかったのだけど。生憎、俺がカワイイのは声だけで、おまけに相手は絶対にこの声で話しかけられないアルベルトだ。致し方なし。
そんな一か八かの作戦は功をなしたようで――
やや困惑気味な様子のアルベルトだったが、しばらくすると状況をのみこんだのか、俺に向けてこくっと小さく頷いてくる。
しっかり距離をとったのもよかったのだろう。
コントロールを失いかけていたアルベルトの膨大な魔力も、次第に落ち着き、少しずつ冷静さを取り戻しているように見える。
ただ、その代わりといわんばかりに突き刺さる視線はなんなのか。さっきまでと違って、明らかに意思のこもった目で俺のことジロジロ見てくるのだけど……
思わずたじろぐ俺。
アルベルトは、はっとして、ばつが悪そうな顔で視線を逸らす。
「その……妙な場所に魔物の気配がしたから、様子を見にきたんだけど……」
こほんと咳払いした後、遠慮がちに、且つ〈音無しの書庫〉の効果で消されない程度の声量で口を開いたアルベルト。ちらりと目を向けた先は俺の足元、そこにいるハリネズミもどき。
こいつか!
俺はひくりと頬を引きつらせる。
〈標の塔〉は広い。〈音無しの書庫〉も広い。こんなふうにアルベルトと鉢合わせするなんて、いったいどんな確率だと疑問に思っていたが、すべての原因はまさかのこいつ!
『ダンジョン出てからも何故か後をついてきて困ってたんだ』
様子を見にきたということは、何かしら対処するつもりだったのだろう。なら、アルベルトに押しつけ――じゃない、任せてしまってもいいか。
再び走り書きを見せた俺は、空いている方の手でハリネズミもどきを拾い上げる。瞬間、モフッとした。……ええ? トゲだらけの見た目のくせに、なんで触感はモフモフなのお前……
突っ込みどころ満載なそれを、アルベルトに向けて投げ渡す。
ぽーんと緩やかな弧を描いて、飛んでいったハリネズミもどきが、無事アルベルトの手の中に収まる。
……あっ。アルベルトも変な顔してる。
だよな? やっぱり触感おかしいよな??
『じゃ、俺はこれで』
ちょっと笑いそうになりながら、最後にそう言葉を残す。
返事は待たない。
というか、これ以上ここにいるとボロがでそうだ。
俺は足早に歩き去る。
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