声だけカワイイ俺と標の塔の主様

鷹椋

文字の大きさ
32 / 35
第4章 声だけカワイイ俺は見えてる侯爵子息に認識される

4-3

しおりを挟む
 翌日。俺は仕事のため、リズとして〈新室〉を訪れた。
 すると、到着早々、アルベルトから呼び出しがかかる。
 一瞬どきりとしたが、聞けば呼び出しの理由は「本を読んでほしい」といういつもどおりの内容。ほっと胸を撫でおろす。

 そうだよな。ちょっと気にし過ぎだ。
 たしかに昨日は予想外の出会い方をしてしまったけれど、あの時俺は一切声を出さなかった。俺=リズだとバレるようなヘマはしていない。だから、なんの問題もない。そのはずだ。

 気を取り直して、俺はアルベルトの部屋の扉をノックする。
 そして、扉を開けて中に入り――固まった。

 視線の先には、ソファに横になって寛いでいるアルベルト。
 そこまではいい。いつもどおりだ。
 だが、そのアルベルトの腹の上に乗っている白いトゲトゲは――
 ……おまっ、お前、もしかしなくても昨日のハリネズミもどきでは……!?

 見るな! こっちを見るな!

 必死の願いも虚しく、ハリネズミもどきが俺に気づく。ぴょんとアルベルトの上から飛び降り、嬉しそうに床を跳ねながら俺の元へやってくる。
 ぎゃあああ!

「いらっしゃいリズ。……あれ。その子、君に懐いてる?」
「ははは、」

 口から乾いた笑いが出た。
 アルベルトは、じっとこちらを見つめてくる。
 嫌な汗が止まらない。
 やめてくれ。この場で魔眼の発動だけは本当に勘弁して。

「えっとー……ど、どうしたんですか、このー……魔物……?」

 俺から意識を逸らすため、話題を振ってみると。

「……ん、ちょっとね。僕も戸惑ってるんだけど」

 ゆっくり、気だるげに起き上がったアルベルトが、髪をかきあげながらソファの背もたれに身を預ける。

「この〈新室〉って特別な部屋なのか、ここにいると塔の中で明らかな異常が発生した時、なんとなく分かるんだ。それで昨日、異常を感じたから様子を見に行ってみたんだけど、……書庫に、その子がいて。なんの魔物かも分からないし、何よりダンジョンから出て塔の中を歩き回る魔物なんて、僕も初めてで驚いたよ。
 ……傍にいた青年にすごく懐いてるみたいだったから、彼が使役したのかとも思ったんだけど」

 話が自分のことに及んだ瞬間、大きく心臓が跳ねる。
 内心はらはらしていると、アルベルトが「でも」と続ける。

「魔力を感じなかったから、彼はテイマーじゃないだろうし。こうしてリズにも懐いてるところを見ると、単に人懐っこい魔物なのかな……とりあえず、しばらく手元において様子を見ようと思う」

 これは、俺についてはバレてないってことでいいのか? いいんだよな??
 アルベルトは、小さく息を吐いて目を閉じる。

「? お疲れですか?」
「いや……ただ、ちょっと反省して」
「反省」
「相手が宿してる魔力を元に、いつも周囲の人間の位置を把握してるんだけど。魔力を持ってない人も世の中にはいるんだよな。スティビアではほとんどの人間が魔力持ちだから失念してた」

 魔眼に頼りすぎるのも考えものだ、と苦笑いするアルベルト。

 ああ、それであんなふうに俺とぶつかりそうになったのか……
 場所が〈音無しの書庫〉で、相手が魔力ゼロの俺で、おまけにアルベルト本人も魔眼による気配察知にだけ意識を向けていたから。直前まで俺の存在にまったく気づかなかったのだ。

「そうですね。私の生まれた国では、魔力を持たない人の方が多数派でしたよ」

 再発を防ぐため、それとなく伝えておく。
 実際、この〈標の塔〉には大陸中から人が集まる。昨日の様子を見る限り、本当に男が駄目そうだったし、アルベルトは気をつけた方がいいだろう。

 アルベルトが再び息を吐く。
 そして、おもむろにソファに横になった。

「……ごめん。魔眼が暴走しかけた影響で、やっぱり少し疲れてる。リズ、本読んでくれない?」

 あれは完全な事故で、俺だけが悪いわけではないけれど。なんだか申し訳ない気分になってくる。

「ええ、勿論。……あの、大丈夫ですか? こういう時って、お薬とか、」
「大丈夫。今はこうやって休める場所があるから。ちょっとくらい暴走しても平気」

 何か言おうとして――でも、かけるべき言葉が何も見つからず、俺は口を噤む。
 常に魔眼が発動し続けていたという数年間、アルベルトはどれだけ大変な生活を送っていたのだろう。
 そして、やっとの思いで手に入れた、この大切な安息地。
 それを、成り行きとはいえ、俺は勝手に侵しているわけで――

「リズ?」
「っ、すみません。今、準備しますね……!」

 軽く首を振って、気持ちを切り替える。
 ここで罪悪感を抱いてどうする。そんなことよりも、今はアルベルトのケアが先だ。
 アルベルトが、それで少しでも心が休まるというのなら、俺は彼のためにこの声を使おう。
 罪滅ぼし、なんて言うにはおこがましいが。実際、それくらいしか俺にできることはないわけだし。

 ちらりとアルベルトの横顔を見て、俺は目を伏せる。

 願わくば、この仕事を終える最後の瞬間まで、俺の正体がバレませんように――

 俺自身のためにも、そしてアルベルトのためにも。
 俺は「ちょっと声が気に入っただけの、ただのメイドのリズ」として、一切の後腐れなく、ここを去れたらいい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

世界を越えてもその手は 裏話

犬派だんぜん
BL
「世界を越えてもその手は」の裏で行われていた会話です。 本編を読んでいなければ分からない内容になっています。すべて会話で、説明もありません。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

愛させてよΩ様

ななな
BL
帝国の王子[α]×公爵家の長男[Ω] この国の貴族は大体がαかΩ。 商人上がりの貴族はβもいるけど。 でも、αばかりじゃ優秀なαが産まれることはない。 だから、Ωだけの一族が一定数いる。 僕はαの両親の元に生まれ、αだと信じてやまなかったのにΩだった。 長男なのに家を継げないから婿入りしないといけないんだけど、公爵家にΩが生まれること自体滅多にない。 しかも、僕の一家はこの国の三大公爵家。 王族は現在αしかいないため、身分が一番高いΩは僕ということになる。 つまり、自動的に王族の王太子殿下の婚約者になってしまうのだ...。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」 王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。 冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、 なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。 誰に対しても一切の温情を見せないその男が、 唯一リクにだけは、優しく微笑む―― その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。 孤児の少年が踏み入れたのは、 権謀術数渦巻く宰相の世界と、 その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。 これは、孤独なふたりが出会い、 やがて世界を変えていく、 静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

越えられない壁で僕らの幸せは・・・

綾瑪東暢
BL
 繋家に産まれた繋 志飛(つなぎ しと)は男だった。残念なことに繋家に男は不要だった。両親は初めての子供だと言うことで志飛を女として育てることにし繋 志綾(つなぎ しあ)と名前を変えた。  繋家と違って女を不要としている要家。要家とはお隣同士の家であり両家の決まりで必ず繋家と要家の子供同士は結婚しないといけなかった。  それは伝統で昔からやって来ていること。誰も変えることの出来ない伝統。  要家の三男として要 荼泉(かなめ とい)が産まれた。  この流れで行くと荼泉と志綾は結婚することになる。が、どっちらも男。  伝統を守り、性別を隠しながら結婚するのか、伝統を破り、性別を明かして追い出されるか・・・

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

処理中です...