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第4章 声だけカワイイ俺は見えてる侯爵子息に認識される
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対策は打ったし、俺自身も、より気をつけるようになった。だからもう二度とあんなことは起こらないだろう。――そう考えていた俺は甘かったのかもしれない。
「……またか。よほど君のことが気に入ったんだね」
〈音無しの書庫〉閲覧用テーブル席にて。
分厚い鉱物図鑑を広げて勉強中の俺、それから、その横で悠々と毛づくろいしているハリネズミもどきへと、順に視線を向けたアルベルトが、ため息まじりに言う。呆れを通り越し、もはや感心している様子である。
違う、と否定できないのが悔しい。実際、アルベルトの元で暮らしているはずのハリネズミもどきは、なぜか度々部屋を抜け出して、こうして俺のところまでやってくる。
それを連れ戻しに来たアルベルトと再会――というような流れは、これでいったい何度目になるだろうか。
最初のうちは、顔を合わせる度にどこか緊張を滲ませていたアルベルトも、数を重ねるうちに俺という存在に慣れてきたのか、今ではこうやって普通に話しかけてくる。
……いや、そんな慣れないでほしいのだけど。
こっちは俺がリズだってことを必死に隠そうとしてるんだよ。クラヴィスとしての接点なんて持ちたくないんだって。
悶々とする俺。
ただ、何か嫌なことをされたわけでもないんだよな……
たまにジロジロ見てくるくらいで。それだって、俺が見つめ返せばすぐやめてくれるし。
むしろアルベルトは、時折俺を気遣うような素振りすらみせる。
出会いの際に植え付けたあの印象のせいで、俺は彼の中で庇護対象にでも分類されてしまったのだろうか。いやいや、そんなまさかな。相手は人間不信かつ大の男嫌いという点を忘れてはいけない。多分、稀有な魔物に関心を寄せられている奇妙な人間ってことで、多少の興味を持たれているだけとか、実情はこんなところだろう。やたら見てくるのも、きっとそのせいだ。そうに違いない。
とにかく、そんなアルベルトのことを一方的に邪険に扱うのも気が引けて、結局こうして当たり障りのない対応になってしまっているのが現状である。
アルベルトが椅子を引き、当然のように俺の真向かいに座る。
書庫のテーブルは大きいからな。座る位置さえ気をつければ十分な距離を保てると分かったのか、最近は本当に躊躇わなくなった。
アルベルトはいつもだいたいこんな感じで。ひと言ふた言話してからハリネズミもどきを回収し、すぐに去っていく時もあれば、そのまま軽く世間話をしていく時もある。
そういえば、この前、こうして同じテーブルについているところを偶然通りかかったミリーに目撃されて、ものすごい顔で二度見されたっけ。
後日ちゃんと経緯を説明したのに、あいつ、「侯爵サマニ連絡シナキャー!」とか言って騒ぎだして、ちょっと――いや、かなり大変だった。
侯爵って、アルベルトの父親だよな? ミリーのやつ、変な報告してないといいんだが……
【防音】の結界がひと回り大きく張りなおされるのを肌で感じながら、俺は傍らのハリネズミもどきを手に取って、アルベルトの方に転がした。
コロコロコロ、と無抵抗に転がるそれを片手で受け止めたアルベルトは、やれやれといった様子で、
「リズがいる時は、ちゃんと僕のとこで大人しくしてるのに……」
俺は素知らぬ顔で本を読み続ける。
間違っても反応してはいけない。俺はリズなんて女のことは知らないはずなのだから。
「……またか。よほど君のことが気に入ったんだね」
〈音無しの書庫〉閲覧用テーブル席にて。
分厚い鉱物図鑑を広げて勉強中の俺、それから、その横で悠々と毛づくろいしているハリネズミもどきへと、順に視線を向けたアルベルトが、ため息まじりに言う。呆れを通り越し、もはや感心している様子である。
違う、と否定できないのが悔しい。実際、アルベルトの元で暮らしているはずのハリネズミもどきは、なぜか度々部屋を抜け出して、こうして俺のところまでやってくる。
それを連れ戻しに来たアルベルトと再会――というような流れは、これでいったい何度目になるだろうか。
最初のうちは、顔を合わせる度にどこか緊張を滲ませていたアルベルトも、数を重ねるうちに俺という存在に慣れてきたのか、今ではこうやって普通に話しかけてくる。
……いや、そんな慣れないでほしいのだけど。
こっちは俺がリズだってことを必死に隠そうとしてるんだよ。クラヴィスとしての接点なんて持ちたくないんだって。
悶々とする俺。
ただ、何か嫌なことをされたわけでもないんだよな……
たまにジロジロ見てくるくらいで。それだって、俺が見つめ返せばすぐやめてくれるし。
むしろアルベルトは、時折俺を気遣うような素振りすらみせる。
出会いの際に植え付けたあの印象のせいで、俺は彼の中で庇護対象にでも分類されてしまったのだろうか。いやいや、そんなまさかな。相手は人間不信かつ大の男嫌いという点を忘れてはいけない。多分、稀有な魔物に関心を寄せられている奇妙な人間ってことで、多少の興味を持たれているだけとか、実情はこんなところだろう。やたら見てくるのも、きっとそのせいだ。そうに違いない。
とにかく、そんなアルベルトのことを一方的に邪険に扱うのも気が引けて、結局こうして当たり障りのない対応になってしまっているのが現状である。
アルベルトが椅子を引き、当然のように俺の真向かいに座る。
書庫のテーブルは大きいからな。座る位置さえ気をつければ十分な距離を保てると分かったのか、最近は本当に躊躇わなくなった。
アルベルトはいつもだいたいこんな感じで。ひと言ふた言話してからハリネズミもどきを回収し、すぐに去っていく時もあれば、そのまま軽く世間話をしていく時もある。
そういえば、この前、こうして同じテーブルについているところを偶然通りかかったミリーに目撃されて、ものすごい顔で二度見されたっけ。
後日ちゃんと経緯を説明したのに、あいつ、「侯爵サマニ連絡シナキャー!」とか言って騒ぎだして、ちょっと――いや、かなり大変だった。
侯爵って、アルベルトの父親だよな? ミリーのやつ、変な報告してないといいんだが……
【防音】の結界がひと回り大きく張りなおされるのを肌で感じながら、俺は傍らのハリネズミもどきを手に取って、アルベルトの方に転がした。
コロコロコロ、と無抵抗に転がるそれを片手で受け止めたアルベルトは、やれやれといった様子で、
「リズがいる時は、ちゃんと僕のとこで大人しくしてるのに……」
俺は素知らぬ顔で本を読み続ける。
間違っても反応してはいけない。俺はリズなんて女のことは知らないはずなのだから。
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