50 / 54
第3章
13
しおりを挟む
雨の勢いはようやく少しずつ弱くなってきた。
先ほどは夢中で気付かなかったが、土はぬかるんでとても歩きにくい。足首まで埋まって抜けなくなったり、足の裏が滑って転びそうになる。きららさんを斬った忍びの者はこんな中をあの速さで走ったのか。その体術のすごさに改めて感心し、恐ろしさも感じる。
「念のために、きららさんの分け身を預かってきました」
アリシアさんが体長50cmぐらいのオオサンショウウオを抱えている。歩きながら器用に衣装の裏側にあるポケットの様な場所にしまい込んだ。分け身の方もおとなしく収納されているのはほほえましかった。
分け身がこちらにあれば、もしも再び攻撃されても、きららさんは瞬時に移動する事が出来る。だが、アリシアさんが言ったように念のための処置だ。今一番忍びの者が目標にする可能性が高いのはきららさんではない。
「それにしても、忍びの者から見れば今が絶好の機会ですね」
「そうですね」
アリシアさんはどちらかと言えばのんびりとした口調で話しているが、内心は忍びの者への怒りに満ちている事が俺にもわかる。そして俺も同感だった。
ことさらに、相手にとって好機と見えるような状況を作り出したわけではないが、敵が機に乗じて襲撃してくるならば、それはこちらにとっては返り討ちにする機会だとひそかに期待していた。
そしてその期待はすぐにかなえられた。
先ほど北に消えた忍びの者が、再び探知範囲に入ってきた。
俺はアリシアさんに目配せして、それを伝える。
忍びの者は急速に距離を詰めてきて、一度は一番近い家の陰に隠れて立ち止まる。
そしてしばらく機をうかがっていたが、音を立てずに疾走して俺たちの後ろに回り込もうとする。
俺はそれまで抑えていた犬たちに、攻撃してもいいと合図する。
ただちに次郎と三郎が敵の左右に走り、同時に襲い掛かった。
忍びの者は跳躍して、家の壁を蹴り、攻撃をかわしつつ、距離を詰める。
だが、正面に太郎が立ちふさがり、五郎と六郎が左右を固める。そして背後に回り込んでいた四郎が飛びかかる。
忍びの者はそれをかわしたが、予想以上に犬たちの連携が取れているのに驚いたのか少し後ろに下がって距離をあける。
俺はようやく忍びの者の姿を間近で見る事が出来た。それは俺のいた世界で創作に登場するような、茶褐色の忍び装束で全身を固め、眼のある顔の部分と手だけが露出している。犬たちの動きに即座に対応できるように構えながらこちらを見る。
俺と一瞬、眼が合った。そのまなざしは鋭く冷淡で、相手を人物というよりは現象のように眺めている。
そんな印象を俺は持った。
鋭さよりは冷淡さを恐ろしく感じる。だが、一方で敵愾心というのだろうか、相手に対抗してその意図をくじいて、倒したいという感情が湧き上がってきた。
それは心理的には長く感じられたが、ほんのわずかな間の出来事だった。
アリシアさんが「携界収容」でしまい込んでいた大きな石を取り出し、猛然と忍びの者に投げる。それは最初頭部にめがけて放たれたが、途中で方向を変え胸に向かう。忍びの者がそれをかわすと、大きく曲線を描き、速度を速める。もう少しで右の大腿部に当たる所をかろうじてかわされた。
忍びの者はさらに後ろに飛びずさり、着地すると何かを感じたのか、再び地面を蹴る。
蹴られた地面に、突然大きな穴が開いて、ねそこさんが頭を出し、
「仕損じたか」
と叫ぶと再び地中に姿を消す。
そこで忍びの者はついにあきらめたのか、懐から出したものを投げつけた。
それは俺たちの手前で地面に落ち、激しい爆発音とともにもうもうと煙が上がった。
その煙は強烈な悪臭を放ち、犬たちが悲鳴を上げる。
俺は犬たちを煙から守るために大急ぎでその場を離れる。
「忍びはどこに?」
アリシアさんが俺にぴったり寄り添いながらたずねた。
「逃げました。北へ離れていきます」
すぐに忍びの者は探知できなくなった。
安心した俺は、激しくせき込む。
先ほどは夢中で気付かなかったが、土はぬかるんでとても歩きにくい。足首まで埋まって抜けなくなったり、足の裏が滑って転びそうになる。きららさんを斬った忍びの者はこんな中をあの速さで走ったのか。その体術のすごさに改めて感心し、恐ろしさも感じる。
「念のために、きららさんの分け身を預かってきました」
アリシアさんが体長50cmぐらいのオオサンショウウオを抱えている。歩きながら器用に衣装の裏側にあるポケットの様な場所にしまい込んだ。分け身の方もおとなしく収納されているのはほほえましかった。
分け身がこちらにあれば、もしも再び攻撃されても、きららさんは瞬時に移動する事が出来る。だが、アリシアさんが言ったように念のための処置だ。今一番忍びの者が目標にする可能性が高いのはきららさんではない。
「それにしても、忍びの者から見れば今が絶好の機会ですね」
「そうですね」
アリシアさんはどちらかと言えばのんびりとした口調で話しているが、内心は忍びの者への怒りに満ちている事が俺にもわかる。そして俺も同感だった。
ことさらに、相手にとって好機と見えるような状況を作り出したわけではないが、敵が機に乗じて襲撃してくるならば、それはこちらにとっては返り討ちにする機会だとひそかに期待していた。
そしてその期待はすぐにかなえられた。
先ほど北に消えた忍びの者が、再び探知範囲に入ってきた。
俺はアリシアさんに目配せして、それを伝える。
忍びの者は急速に距離を詰めてきて、一度は一番近い家の陰に隠れて立ち止まる。
そしてしばらく機をうかがっていたが、音を立てずに疾走して俺たちの後ろに回り込もうとする。
俺はそれまで抑えていた犬たちに、攻撃してもいいと合図する。
ただちに次郎と三郎が敵の左右に走り、同時に襲い掛かった。
忍びの者は跳躍して、家の壁を蹴り、攻撃をかわしつつ、距離を詰める。
だが、正面に太郎が立ちふさがり、五郎と六郎が左右を固める。そして背後に回り込んでいた四郎が飛びかかる。
忍びの者はそれをかわしたが、予想以上に犬たちの連携が取れているのに驚いたのか少し後ろに下がって距離をあける。
俺はようやく忍びの者の姿を間近で見る事が出来た。それは俺のいた世界で創作に登場するような、茶褐色の忍び装束で全身を固め、眼のある顔の部分と手だけが露出している。犬たちの動きに即座に対応できるように構えながらこちらを見る。
俺と一瞬、眼が合った。そのまなざしは鋭く冷淡で、相手を人物というよりは現象のように眺めている。
そんな印象を俺は持った。
鋭さよりは冷淡さを恐ろしく感じる。だが、一方で敵愾心というのだろうか、相手に対抗してその意図をくじいて、倒したいという感情が湧き上がってきた。
それは心理的には長く感じられたが、ほんのわずかな間の出来事だった。
アリシアさんが「携界収容」でしまい込んでいた大きな石を取り出し、猛然と忍びの者に投げる。それは最初頭部にめがけて放たれたが、途中で方向を変え胸に向かう。忍びの者がそれをかわすと、大きく曲線を描き、速度を速める。もう少しで右の大腿部に当たる所をかろうじてかわされた。
忍びの者はさらに後ろに飛びずさり、着地すると何かを感じたのか、再び地面を蹴る。
蹴られた地面に、突然大きな穴が開いて、ねそこさんが頭を出し、
「仕損じたか」
と叫ぶと再び地中に姿を消す。
そこで忍びの者はついにあきらめたのか、懐から出したものを投げつけた。
それは俺たちの手前で地面に落ち、激しい爆発音とともにもうもうと煙が上がった。
その煙は強烈な悪臭を放ち、犬たちが悲鳴を上げる。
俺は犬たちを煙から守るために大急ぎでその場を離れる。
「忍びはどこに?」
アリシアさんが俺にぴったり寄り添いながらたずねた。
「逃げました。北へ離れていきます」
すぐに忍びの者は探知できなくなった。
安心した俺は、激しくせき込む。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜
昼寝部
ファンタジー
2XXX年、X月。
俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。
そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。
その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。
俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。
これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる