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異様な光景ばかりです
侍女長と侍女の力説に押されました
しおりを挟むルヴィエル公爵婦人とメルロム侯爵婦人は、まだまだ何かをお摘まみになられながら、ワインをお飲みになっております。
お2人ともお楽しそうにお喋りをされながら、私はワインを頂いても全く酔えません。
お2人が暴露ばかりなさっておられるので、私はワインを頂いても恥ずかしくて酔えないのでございます。
そして本日、最大の威力のある事をお聞きされるのです。
「メロちゃん、今夜って初夜だけれど大丈夫かしらぁ?」
「そうよね。今夜が初夜だけど、メロは大丈夫よね?アレクシス君の事が大好きでしたものね」
「えっ!?そうなの?メロちゃん、アレスのこと好きでらしたのね。今も好きなら大丈夫なのかしら?でも、もし嫌だったらアレスに伝えてね?」
ちょっと待って下さいな。ルヴィエル公爵婦人とメルロム侯爵婦人、さっきから初夜の話題になっておられますよ。
確かに本日がアレクシス様と私の結婚式でございました。ですので今夜が初夜というのも分かっております。
ですが旦那様になられたアレクシス様が、バードン伯爵令嬢をお好きだと思っておりました。ですので初夜はないものだと、自分の中で思っておりましたのです。
勿論、私も閨の教育は座学で学んでおりますが……。でもなぜ旦那様のお母様と、私のお母様が初夜の話題をされるのです?
私は初夜の話題で、自分のお顔が真っ赤になっていると分かっております。自分のお顔が熱いですもの。
「メロちゃんは大丈夫かもって思っておりますわ。ただアレスが大丈夫なのか?なのよね…」
「アレクシス君だって、ご嫡子だもの閨教育を受けられておられるのでしょうし、それなら大丈夫でしょう?」
「それがね、アレスは女性が苦手になってしまってね。だから大丈夫かしら?って心配なのよ」
ちょっとお2人様、この話題ってお恥ずかしい内容ではないですか!?
お母様達はワインで酔われておいでだから、初夜とか閨の話題をなされるのでしょうが……お聞きして恥ずかしいのは私ですよ!!
ルヴィエル公爵婦人とメルロム侯爵婦人は、ワインで頬を薔薇色に染めておられるのです。
それなのに何故だか子供を産まれていない少女が羞じらう様な、初々しさがあるように思えるのですが、どうしてなのでしょうか?
そして閨のお話をなさっていらっしゃるのに、なぜ乙女の様にお可愛らしいのですか?
「メロちゃん、お顔が真っ赤よ。初々しくてお可愛らしいわ」
「メロは、乙女だものね?だから初々しくて可愛いのよ」
私がお母様達に対して思った事でありますのに、なぜお母様達が私に仰るのでございますか?
それに私を“乙女だものね”って仰らないで下さいませ。もう私はお母様達から逃げようと思っております。
「ルヴィエル公爵婦人とお母様、そろそろ私は戻らせて頂きますね」
「そうよね。メロちゃん、ちゃんと侍女長たちに頼んであるから大丈夫よ。安心してね?」
「メロ、綺麗にして貰いなさいね!!アレクシス様に全てお任せしていれば大丈夫ですわ。だから安心なさいね?」
「メルヴィル公爵婦人とメルロム侯爵婦人、私はアレクシス様にお食事をお摂りになったかお聞きして来ます」
「まだアレスは夕食を摂っていないと思うわ。メロちゃん、アレスの事を宜しくお願いしますね?」
「……分かりました。それではお先に失礼致します」
まだ私は自分のお顔が真っ赤だと分かっております。ですがアレクシス様のお食事の事が気になってますので、侍女長のラエナにお聞きしてみようと思います。まだルヴィエル公爵家の事が分からないので、誰かに教えて頂かないと…。
私は先程のお部屋を退室してから、まず自室へ戻ってみました。すると侍女長のラエナと侍女が、既に室内に控えておりました。
「シャルメローラ様、お帰りなさいませ。こちらの侍女はララーナです。これから私とララーナでお綺麗に致しますね」
「私はララーナと申します。シャルメローラ様、宜しくお願い致します。これからお綺麗にしてアレクシス様の所へお送り致します!!」
とてもラナエとララーナは、張り切っておられてますね。ですがアレクシス様のお食事の事をお聞きしないと。
「あの……お聞きしたいのですが……」
「何でございますか?」
「夕食の際に食堂へアレクシス様が来ていらっしゃらなかったのですが、アレクシス様はお食事をお摂りになられましたか?」
「アメリア様より、アレクシス様のお食事は自室でとお聞きしております。そしてアレクシス様のお世話をされるのは、シャルメローラ様という事もお聞き致しました。
まだアレクシス様はお食事をお召し上がりになられておられません。お食事の準備は出来ておりますので、後でシャルメローラ様にお願い致します」
「そうなのですね。……分かりました。教えてくれて有難うございます」
「いいえ、シャルメローラ様は本日、ルヴィエル公爵家へお越しになられたばかりです。分からない事などお気軽にお聞き下さいませ」
「ラナエもララーナも有難うございます。これから宜しくお願い致します」
「「シャルメローラ様、宜しくお願い致します」」
ララーナとはお話をした事がなかったけれど、ラナエと同じで優しくて頼れそうな人だと思ったわ。
「シャルメローラ様、アレクシス様のご入浴ですが、ご入浴のご準備もしてあります。また分からない事などありましたらお聞き下さい」
「……分かりました」
「それではシャルメローラ様、お綺麗に準備を致しますね」
そう言われて私はドレスや下着を脱ぎ、バスタブの中に入ってお湯に浸かったわ。お湯に薔薇の花弁が浮いており、薔薇の香りがして良い香りで瞳を閉じた。
ラナエとララーナがマッサージとかして下さって、今日の疲れが取れた様に感じたわ。お風呂からあがると、髪の毛や肌に香りの良い香油で再度マッサージを受けたのよ。
「侍女長、こちらで良いでしょうか?」
「そうね…その白いので良いでしょう。シャルメローラ様なら、何を着せてもお似合いになるわ!!」
「そうですよね。今夜は白い方のレースと刺繍のが付いた方に致します!!」
「ではシャルメローラ様、こちらを着てから、髪を緩く巻きましょう」
そう言われて白色のレースが付いていて、花の刺繍の入った寝衣を着て、ライトピンクゴールドの髪の毛を緩く巻いて貰う。
あれ?この白い洋服、肌が透けてない?それに太腿までしか長さがないわ。恥ずかしい……
ラナエとララーナは、私の様子を気にする事なく薄くお化粧を施される。
「シャルメローラ様、出来ましたよ。とてもお綺麗ですわ!!」
「そうですね!!とてもお綺麗でございます!!」
ラナエとララーナは良い仕事を遣りきりましたって様な、とても誇らし気なお顔をされておりますよ。
「シャルメローラ様、この鏡でお姿を確認されてみて下さいませ!!」
「そうですわ!!とてもお綺麗になられておりますわ!!」
そうラナエとララーナに促されて、大きな鏡の前に立ち自分の姿を確認してみました。そう……確認をね。
誇らし気なラナエとララーナの表情とは、全く違いシャルメローラはお顔を真っ赤に染めたのです。
ラナエとララーナには申し訳ないのですが、とても恥ずかしくて無理だわと思い、直ぐラナエとララーナへ声を掛けました。
今、身に付けている白色の寝衣の大半が繊細な花柄のレースで、太腿の辺りの裾にはフリルが付いている。ほぼ全身の肌が透けて見えており艶やかな姿が鏡に映し出されていた。
「これだと肌が見えそうで恥ずかしいわ。ラナエとララーナ違う物を用意して下さい」
「これで大丈夫ですわ!!ご心配は必要ございません!!シャルメローラ様のお美しさにアレクシス様も、あんなお下品なバードン伯爵令嬢など瞳に入りませんわ!!シャルメローラ様に骨抜きでございます!!」
「そうでございます!!ララーナが仰る通り、シャルメローラ様のお美しさとお可愛らしさでアレクシス様もお喜びになられますわ!!」
「でも……この様な姿だとアレクシス様のお世話には向かいかと……」
ラナエとララーナの力説に困りながら、肌が透けない寝衣をと頼もうとしたのです。
「シャルメローラ様の初夜に真っ黒や真っ赤なベビードールは、ちょっと……」
「そうですわ。どのお色の物でもシャルメローラ様に、お似合いになられるかと思われますが、初夜には真っ白が宜しいかと。シャルメローラ様のお美しいお肌も新雪の様な白さで、この白いベビードールなら身に付けておられなく見えますわ。絵画の女神のようですわね」
「私は本日、バードン伯爵令嬢の対応しておりましたが、娼婦の様な感じでございました。まるで市井で殿方をお誘いする様で毒々しいです。
それに比べてシャルメローラ様は、羞じらう姿は初々しく花の様なお人でございます。アレクシス様もシャルメローラ様というお花に魅入ってしまわれますわ!!」
なぜか初夜の装いの力説に変わられてます。そしてなぜかバードン伯爵令嬢と比較されておりますの。
私はバードン伯爵令嬢を思い浮かべて、旦那様はバードン伯爵令嬢の様な装いがお好きなのかしら?と考えてました。
「さあ、シャルメローラ様はアレクシス様のお部屋へ行かれなくてはね!!」
「このままですか?」
「そうですわ。このまま行かれますのよ」
もうこの寝衣のままアレクシス様の居られるお部屋へ向かうと言われ、お部屋へ向かう途中で誰かに見られたらと思い焦りました。
「ラナエ、このままアレクシス様のお部屋に向かって、途中に誰かに見られたら恥ずかしいわ!!」
「大丈夫ですわ。シャルメローラ様のお部屋から直ぐ行けますのよ」
「さぁ、シャルメローラ様はアレクシス様の所へ行かれて、そのお姿をお見せして差し上げて下さいな」
ラエナに手を引かれ、ララーナに背中を押されて、自室の出入口の扉とは違う扉の前に来ていました。
こんな扉があったかしら?と不思議に思って扉を見つめた。
ラエナが扉をノックして声を掛けました。
「アレクシス様、お開けして宜しいですか?」
「入ってくれ」
そうお返事があり扉を開けて、ラナエとララーナが私をお部屋に押し入れる様に連れて行くのです。
アレクシス様のお部屋と私の自室が繋がっていた事に驚きました。そして落ち着いたお色の物を好まれておられるみたいです。
このお部屋の主であるアレクシス様は、大きな机の前にある椅子に座られておりました。
「こちらにお食事をご用意してございます。そしてご入浴の準備も出来ております。ではシャルメローラ様、何かご用事がございましたら、このベルでお呼び下さいませ」
「では私達は失礼します」
そう言ってラナエとララーナは、アレクシス様の部屋から出て行きました。
ラナエとララーナに置いてきぼりの様にされ、とても私は困っておりますが誰も助けて下さらないのでしょう。
取り敢えず、アレクシス様にお食事でしょうか?それともお風呂でしょうか?
どちらにされるかアレクシス様にお聞きしましょう。
そう思いましたので、アレクシス様が座られているテーブルへ近付き、私はお声をお掛けしました。
「アレクシス様、宜しいでしょうか?」
そうお声をお掛けしましたが、アレクシス様は机に向いたままでお返事をされました。
「どうかしたかな?申し訳ないけれど今、途中で手を離せないんだよ」
「お忙しいのでしょうか?」
「そうだね……領地の報告書を確認しているからね」
「アレクシス様、まだお食事とご入浴されておられませんとお聞きしました。お食事とご入浴、どちらになさいますか?」
「ああ、お母様から頼まれた人かな?私のお世話係の人が来られたんだね?後少し待ってて欲しい」
「……分かりました」
「申し訳ないね。テーブルとソファがあるから、そちらに行って座って待ってて」
「では、そちらのソファに座らせて頂きます」
そう伝えて私はテーブルとソファのある所へ行き、ソファに座らせて貰いアレクシス様をお待ちしました。
テーブルの上にはティーポットとティーカップ、アレクシス様のお食事で手軽に召し上がられるサンドイッチなどが置かれておりました。
私は静かに旦那様になられたアレクシス様をお待ちする事にしました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
結婚式後の旦那様との会話は謝罪でした
暫く待っていてもアレクシス様から声が掛けられる訳でもないのです。まだお食事もされておられませんし、私はアレクシス様が心配になりました。
テーブルの上に置かれてあるティーカップにお紅茶をお入れして、サンドイッチをお皿にとりアレクシス様の所へ行きました。
「アレクシス様、何も召し上がられておられないのでしょう?お紅茶とサンドイッチをお持ち致しました。召し上がって下さいませ」
そう私がお声をお掛けして漸く、アレクシス様が書類からお顔を上げられました。
「申し訳なかった。お母様よりお父様の仕事をする様に言われて、キリが良い所まで終わらせたくてね」
「紅茶ですがお飲みになられますか?」
「ああ、頂こうかな。喉が渇いたからね」
まだアレクシス様は机に眼を向けておられるので、そっとお紅茶の入ったティーカップを差し出しました。
アレクシス様はこちらを見る事もなく、ティーカップを受け取られる。瞳を閉じてお紅茶の香りを楽しまれながら、静かに飲まれておられます。
「これはヌワラエリヤかな?」
「そうでございます。ヌワラエリヤでございます。良くご存知ですわ」
「香りと優しい甘みがあるからね。疲れが癒されるよ」
「そうですわね。ヌワラエリヤは香りが良く、優しい甘みがございますからね。お菓子と一緒でも美味しいと思われますわ」
「そうだね。このままでも美味しいけれど、甘いお菓子と一緒でも良いな」
「アレクシス様、もうお仕事は終わりになりますか?」
「今日はもう終わりにするよ。待たせて申し訳なかったね」
まだアレクシス様は瞳を閉じられたままであります。どう致しましょうか……アレクシス様にご挨拶からの方が宜しいのでしょうか?そう私は少し下を向き考えておりました、ジャラッと音がしました。
私はその音がした方へお顔を上げました。
するとアレクシス様が椅子から立ち上がられて、私の方を見て眼を見開いておられたのです。
アレクシス様が何も仰らずにおられるので、私はお疲れであられるアレクシス様に労りのお声をお掛けしました。
「お仕事お疲れ様でございます。アメリア様よりアレクシス様のお世話をと言われております。まだお食事もご入浴もされておられないとお聞きしました。お食事とご入浴どちらになさいますか?」
そう私はお聞きしたのですが、旦那様であられるアレクシス様からお返事がございません。アレクシス様を見るとお顔が赤くなられております。体調がお悪いのでしょうか?
「アレクシス様、大丈夫でございますか?」
「あっ……申し訳ありません。貴女が私のお世話をされるのですか?」
「そうですが、何かございますか?」
「お母様に頼まれた人が貴女だったとは、全く知らなかったのです。お待たせして本当に申し訳ありません」
「お気になさらないで下さいませ。アレクシス様はお仕事をなさっておられたのですし。
先程、アメリア様よりアレクシス様のお世話をと。お聞きしたばかりなのです。本日より宜しくお願い致します」
そうお伝えして私は礼を致しました。
するとアレクシス様が私に謝罪をされました。
「貴女がメロだったのですね?ずっと捜してたのです。でも見付けられなかった……。
そしてメルロム侯爵家のシャルメローラ嬢が、メロと思わなく婚約が決まってから手紙も、お会いするのも、プレゼントも何も出来ておりません。
それに本日の結婚式も、ずっと幼馴染みと過ごしていて申し訳ありませんでした。
もっと早くに気付けていたら、婚約が決まった時にお手紙、お茶会、オペラ鑑賞、プレゼントとか色々な事をしたかったですし。それに本日の結婚式もメロの隣に居たかったです。」
「今になってお謝りされるのですか。もう……アレス君は私をお好きじゃないと思っておりました。メルロム侯爵家主催のお茶会で、お会いする事も出来なかったですし。
それに婚約が決まった時にも、お手紙も、お茶会も、お会いする約束や、プレゼント交換さえもございません。
そして結婚式の当日である今日でさえ、アレス君は大切な大切な、そして大好きな幼馴染みのバードン伯爵令嬢とお楽しみになられておいででした。
結婚式後もアレス君は私とではなく、大好きな幼馴染みと……ずっと……。
私の事をお好きでないなら、私と離縁をなさってバードン伯爵令嬢と再婚なさいませ」
アレス君の謝罪をお聞きして、我慢をしておりましたが瞳に溜まった涙が、次から次へとポロポロと零れ落ちていきます。
ずっと今までアレス君に伝えたかった事が、どんどん溢れ出してます。
どうしてバードン伯爵令嬢なの?とか、そんなに幼馴染みが大切なの?とか、バードン伯爵令嬢がお好きなの?とか、色々な事が溢れてしまうのです。
「メロ、本当に申し訳ありませんでした。私は貴女が大好きなのです!!
離縁なんて言わないで下さい。貴女への気持ちは本当ですよ。ずっとずっとメロ、貴女を捜してました!!
幼馴染みのバードン伯爵令嬢が好きな訳じゃないのです。幼馴染みで妹みたいに思っています。
本日の結婚式の時に貴女を見たら、幼い頃に会ったメロの髪の色と、瞳の色に似ていて気になっていたんです!!
お願いですから泣かないで下さい。私が悪かったのですから、どんなにメロにお謝りしても足らないでしょう。
貴女に泣かれると私はどうしたら良いか」
そのお話はルヴィエル公爵婦人からお聞きしましたわ。お聞きして理解していても、私はずっとアレス君をお待ちしておりましたのに……。
ルヴィエル公爵婦人が仰られる様に、アレス君はお鈍いですし、お馬鹿でらっしゃるのね。
「アレス君のバカ、ずっと私は待っておりましたのに……。そしてなぜ、『メロちゃん、大好きだよ!!』って仰られたのに、ずっと私をお捜しになられていたと仰ったのに…。
なぜバードン伯爵令嬢とご一緒におられたのです?私とはダンスさえもせず、バードン伯爵令嬢とは何度も踊られておりましたよね。
アレス君は私をお捜しになられていたと仰られましたが、私以外の人とばかりご一緒にお過ごしになられておいででした。
私との婚約がお決まりになっても、私をお捜しになられてました。私に執着心がおありですが、私に感心がございませんでしたわ」
私は涙が止まらなくて下を向き唇を噛み、嗚咽を漏らさない様にしてました。
するとジャラジャラと音が聞こえ、アレス君は私の手に持っていたサンドイッチのお皿を持って、お仕事に使用される机に置かれた。
「シャルメローラの言う通りだよ。大好きな貴女を傷付けてばかりで、私は自分が情けないと思っています。
とても貴女を好きなのに捜してても、貴女に辿り着かなくて、ずっと貴女を待たせていた。
ずっと傷付けて待たせてゴメンね」
そうアレス君が再度、私に謝罪をされました。
その後にジャラジャラジャラジャラと音がします。私はずっと続いている音を不思議に思いお顔を上げてみました。
するとアレス君が腕を上げたり、下げたりと繰り返されておられました。その手を見ると既に両手首を拘束具で、拘束されておられたのです。両手首を繋ぐ鎖の音がしていたのでした。
アレス君はお顔を赤く染めながら、両腕を上げて私に鎖が当たらない様にして、私を抱き締めました。
そして、こう仰ったのです。
「シャルメローラ、お願いですから私に愛想尽かして離縁しないで下さい。私を嫌わないで。私を捨てないで下さい。メロを愛してます」
アレス君が捨てられた仔犬みたいに、縋る様な瞳で私を見ておりました。
このワンシーンだけを第3者が観たら、私の方がお悪い様に思われそうです。私は悪くないのですが……。
そしてアレス君、貴方様はお綺麗なお顔でございます。どんな表情でもお綺麗なままなのです。そこら辺の貴族ご子息様や、貴族ご令嬢様よりお綺麗なお顔なのであります。何気にあざとくないでしょうか?
私よりお綺麗なお顔で、その縋る様な表情……ズルイですよ。そのお表情でお謝りになられると、お赦ししてしまいそうなのです。
「アレス君、やっぱり……ズルイです。そして仕方のない人ですね。今までの事はお赦しして差し上げます。
ですが、これはお赦しして差し上げられません!!
アレスくんがバードン伯爵令嬢臭いのです!!この臭いをつけたまま私の所に来ないで下さいませ!!
アレスのバカ!!どんなにお近くでお過ごしになられてたのですか?
これからもアレスが誰かの香りをお付けになられて来られるなら、私にも考えがございますわ!!」
私は涙眼でアレスのお顔を見上げ睨み付けました。どんなにバードン伯爵令嬢とお近くでお過ごしになったのよ!!
こんなにベッタリと絡み付く様に臭いをお付けになられて、そのままおられるなんて……。
悲しくて、悔しくて、寂しくて、嫉妬して、色々な感情が入り混ざって、彼の胸を握り締めた両手で叩きました。
私は貴方様の行動に怒っておりますのに、アレスは更に力を入れてギューッと抱き締めて居られました。
暫くしてから私の頭や頬にキスをされ宥めすかして、ご機嫌取りをなさってらっしゃるのです。
「本当にゴメンね。これからもメロに近付きたいからこの臭いを消すのに、入浴しようと思うけど…
ねぇ、シャルメローラ手伝ってくれるかな?」
「……もう、本当にズルイ人ですよね」
「メロしかお世話してくれる人が居ないからね?私のお願いを聞いてよ」
そう懇願する様に私に仰られるので、致し方なく私は頷きました。アレクシスの腕の中からスルリと抜け出して、浴室へお湯の加減を見に行きました。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
謝罪をするのに困った状況
メロが私の腕の中から抜け出して、私は1人でソファに座っている。彼女が私と居る事が、とても嬉しいと本当に心から思うよ。
私は少し前までお母様からの罰で、お父様の仕事を自室の机でやっていた。するとノックの音がしたので、入室の許可の返事にした。
私は誰が入って来たのか確認もせずに、黙々と目の前の仕事をしていた。数人居るみたいだけど特に私に声が掛かる訳でもない。気にせず仕事に集中していた。
静かだから誰も居ないと思っていたら、声を掛けられた。とても可愛らしい声だった。
「アレクシス様、宜しいでしょうか?」
「どうかしたかな?申し訳ないけれど今、途中で手を離せないんだよ」
「お忙しいのでしょうか?」
「そうだね……領地の報告書を確認しているからね」
「アレクシス様、まだお食事とご入浴されておられませんとお聞きしました。お食事とご入浴、どちらになさいますか?」
「ああ、お母様から頼まれた人かな?私のお世話係の人が来られたんだね?後少し待ってて欲しい」
「……分かりました」
「申し訳ないね。テーブルとソファがあるから、そちらに行って座って待ってて」
「では、そちらのソファに座らせて頂きます」
そう少し会話をしただけだった。
多分、お母様が私のお世話を頼んだ侍女だろうと思っていた。
それに何かを言われる訳でもないし、だから気にせずに仕事をしていたんだ。
暫くして声を掛けられた。
「アレクシス様、何も召し上がられておられないのでしょう?お紅茶とサンドイッチをお持ち致しました。召し上がって下さいませ」
労る様に心配する声を聞いて、ちょうどキリの良い所まで仕事が終わったから返事をした。
「申し訳なかった。お母様よりお父様の仕事をする様に言われて、キリが良い所まで終わらせたくてね」
「紅茶ですがお飲みになられますか?」
「ああ、頂こうかな。喉が渇いたからね」
私は書類から眼を逸らさずに、彼女が差し出してくれたティーカップを受け取った。
眼を閉じてティーカップに入っている紅茶の香りと風味を楽しむ。
「これはヌワラエリヤかな?」
「そうでございます。ヌワラエリヤでございます。良くご存知ですわ」
「香りと優しい甘みがあるからね。疲れが癒されるよ」
「そうですわね。ヌワラエリヤは香りが良く、優しい甘みがございますからね。お菓子と一緒でも美味しいと思われますわ」
「そうだね。このままでも美味しいけれど、甘いお菓子と一緒でも良いな」
「アレクシス様、もうお仕事は終わりになりますか?」
「今日はもう終わりにするよ。待たせて申し訳なかったね」
彼女は紅茶に詳しいようで、会話をしていて楽しい。ヌワラエリヤは、メロと会ったお茶会で飲んだ紅茶だ。
時間も忘れて仕事をしていて随分と待たせてしまった。
仕事もキリの良い所までが終わっているし、机の上を軽く片付けた。
そして椅子から立ち上がり、彼女に振り返ると結婚したシャルメローラが居たんだ。
ライトピンクゴールドの髪を緩く巻いていて薄く化粧している。
真っ白なレースの多い寝衣を着ていて、殆どが透けて見えている。
とても艶やかで綺麗だし触りたくなるけれど我慢だ。それより……どこに眼を向けたら良いのだろうと困った。
顔が熱いから真っ赤になっているだろうと分かる。
「お仕事お疲れ様でございます。アメリア様よりアレクシス様のお世話をと言われております。まだお食事もご入浴もされておられないとお聞きしました。お食事とご入浴どちらになさいますか?」
シャルメローラに聞かれても、彼女に魅入ってしまい反応が出来なかった。
「アレクシス様、大丈夫でございますか?」
「あっ……申し訳ありません。貴女が私のお世話をされるのですか?」
「そうですが、何かございますか?」
「お母様に頼まれた人が貴女だったとは、全く知らなかったのです。お待たせして本当に申し訳ありません」
「お気になさらないで下さいませ。アレクシス様はお仕事をなさっておられたのですし。
先程、アメリア様よりアレクシス様のお世話をと。お聞きしたばかりなのです。本日より宜しくお願い致します」
お母様が私のお世話係にしたのがシャルメローラだったのか!?
シャルメローラは嫌でないのかな……とても私は嬉しいけれど、まず謝罪をしなくては。
「貴女がメロだったのですね?ずっと捜してたのです。でも見付けられなかった……。
そしてメルロム侯爵家のシャルメローラ嬢が、メロと思わなく婚約が決まってから手紙も、お会いするのも、プレゼントも何も出来ておりません。
それに本日の結婚式も、ずっと幼馴染みと過ごしていて申し訳ありませんでした。
もっと早くに気付けていたら、婚約が決まった時にお手紙、お茶会、オペラ鑑賞、プレゼントとか色々な事をしたかったですし。それに本日の結婚式もメロの隣に居たかったです。」
「今になってお謝りされるのですか。もう……アレス君は私をお好きじゃないと思っておりました。メルロム侯爵家主催のお茶会で、お会いする事も出来なかったですし。
それに婚約が決まった時にも、お手紙も、お茶会も、お会いする約束や、プレゼント交換さえもございません。
そして結婚式の当日である今日でさえ、アレス君は大切な大切な、そして大好きな幼馴染みのバードン伯爵令嬢とお楽しみになられておいででした。
結婚式後もアレス君は私とではなく、大好きな幼馴染みと……ずっと……。
私の事をお好きでないなら、私と離縁をなさってバードン伯爵令嬢と再婚なさいませ」
私がシャルメローラに謝罪をすると、涙を瞳に溜めており、ポロポロと涙を流しながら指摘された。
私が悪い事は解っているけれど、シャルメローラと離縁なんてしたくない。それにバードン伯爵令嬢が好きな訳じゃないし再婚なんて有り得ない。
彼女の泣き顔は綺麗で、やはり魅入ってしまう。とても美しく可愛らしいから、どんな表情でも綺麗だと思う。
だからといって泣かせたい訳でも、ましてや悲しい顔をさせたい訳じゃない。
誠心誠意、心を込めて赦して貰える様に謝罪しよう。
「メロ、本当に申し訳ありませんでした。私は貴女が大好きなのです!!
離縁なんて言わないで下さい。貴女への気持ちは本当ですよ。ずっとずっとメロ、貴女を捜してました!!
幼馴染みのバードン伯爵令嬢が好きな訳じゃないのです。幼馴染みで妹みたいに思っています。
本日の結婚式の時に貴女を見たら、幼い頃に会ったメロの髪の色と、瞳の色に似ていて気になっていたんです!!
お願いですから泣かないで下さい。私が悪かったのですから、どんなにメロにお謝りしても足らないでしょう。
貴女に泣かれると私はどうしたら良いか」
「アレス君のバカ、ずっと私は待っておりましたのに……。そしてなぜ、『メロちゃん、大好きだよ!!』って仰られたのに、ずっと私をお捜しになられていたと仰ったのに…。
なぜバードン伯爵令嬢とご一緒におられたのです?私とはダンスさえもせず、バードン伯爵令嬢とは何度も踊られておりましたよね。
アレス君は私をお捜しになられていたと仰られましたが、私以外の人とばかりご一緒にお過ごしになられておいででした。
私との婚約がお決まりになっても、私をお捜しになられてました。私に執着心がおありですが、私に感心がございませんでしたわ」
シャルメローラの今までの気持ちを聞いて、自分の行いの悪さと、ずっと彼女を傷付けていた事と、ずっと待たせていた事など全てが、自分に対する情けなさと不甲斐なさに感じられた。
「シャルメローラの言う通りだよ。大好きな貴女を傷付けてばかりで、私は自分が情けないと思っています。
とても貴女を好きなのに捜してても、貴女に辿り着かなくて、ずっと貴女を待たせていた。
ずっと傷付けて待たせてゴメンね」
シャルメローラの涙と、彼女の震えている華奢な肩を見て慰めたいと思う。
だけど彼女の艶めかしい姿に、自分の理性が保つかどうか不安だ。
それに私が触れて良いのか、シャルメローラに嫌がられないかもある。
どうしようか迷いながら腕を上げたり、下げたりしていたら鎖のジャラジャラとした音がした。
シャルメローラは下を向いて泣いていたのを、音が気になったのか顔を上げてこちらを見たんだ。
やはり涙を流している表情も綺麗で、瞳が潤んでいるのを見て抱き締めたいと思った。
迷った結果、拘束具で拘束された両手首の鎖が彼女に当たらない様に腕を上げ、シャルメローラを私の腕の中に閉じ込める様に抱き締めた。
そしてメロに懇願する。
「シャルメローラ、お願いですから私に愛想尽かして離縁しないで下さい。私を嫌わないで。私を捨てないで下さい。メロを愛してます」
そう私がどれ程、シャルメローラと一緒に居たいのかを……
「アレス君、やっぱり……ズルイです。そして仕方のない人ですね。今までの事はお赦しして差し上げます。
ですが、これはお赦しして差し上げられません!!
アレスくんがバードン伯爵令嬢臭いのです!!この臭いをつけたまま私の所に来ないで下さいませ!!
アレスのバカ!!どんなにお近くでお過ごしになられてたのですか?
これからもアレスが誰かの香りをお付けになられて来られるなら、私にも考えがございますわ!!」
彼女が涙瞳で私を見上げ睨み付けてましたが、破壊力のある上目遣いだったし。
シャルメローラが私に対しての事で、バードン伯爵令嬢に嫉妬したのが嬉しかった。
そして可愛らしく私の胸を泣きながら叩いている。
私は腕の中の愛しい人を逃がさない様に更に強く抱き締めた。
暫くしてから彼女の頭や頬にキスをして、宥めすかしてご機嫌取りをする。
シャルメローラのご機嫌取りというより、私がメロにキスをしたかったからだが。
シャルメローラが近付かないでと言った、バードン伯爵令嬢の臭いを早く消さなくては…
「本当にゴメンね。これからもメロに近付きたいからこの臭いを消すのに、入浴しようと思うけど…
ねぇ、シャルメローラ手伝ってくれるかな?」
「……もう、本当にズルイ人ですよね」
「メロしかお世話してくれる人が居ないからね?私のお願いを聞いてよ」
メロの耳に囁く様にお願いした。
シャルメローラは私がズルイと言うけれど、私からしたらメロ、貴女の方がズルイと思うよ。
嫉妬して怒る表情も、拗ねた様な表情も、態とじゃないって分かってるのに、あざとく感じるよ。
シャルメローラが私の入浴のお世話をしてくれるらしく、頷いてから私の腕の中からスルリと出て行った。
湯加減とか見に行ってくれたのだろう。
それにしても良く自分の理性が保ったと思う。あんなに密着していて、襲わなかった事が不思議な位だ。
彼女の柔らかい肢体に、ふんわりと匂う甘い香り。
ずっと捜していたメロの全てを感じられて、私はシャルメローラに溺れる様に酔いしれる。
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