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ゴールドorシルバー~薩摩芋のクリームスープ トリュフの香り~
「寒かったね~」
「流石に凍えるかと思っちゃった」
デート中にあまりにも寒すぎて駆け込んだ喫茶店。その店内は「純喫茶」というジャンルにふさわしい内装をしていた。
ふかふかの一人がけのソファーが向かい合い、その間に置かれたウォールナットの丸テーブル。オレンジがかった白熱灯に、ステンドグラスで作られたランプシェードがかけられている。壁には私の背丈ほどの振り子時計がかけられており、少し厚めの窓ガラスに外の景色が歪んでいる。
「こちら、メニューになります」
蝶ネクタイとvestを身に着けた店員が、革張りの表紙に挟まれたメニューとお冷を持ってきた。
「優香は何にする?」
メニューを受け取った圭太が聞いてくる。
「なんか、あったかいものがいいなあ」
「寒くて入ってきたのに、ここでアイスを頼んだら勇者だよ」
そう言いながらパラパラとページをめくる。
コーヒー、カフェラテ、エスプレッソ、紅茶、ロイヤルミルクティー。喫茶店といえば、な飲み物はどれもそろっている。
チーズケーキ、モンブラン、フルーツタルト。写真だけでも宝石のように輝いている。入口のショーケースに入っていたやつだろう。
クラブハウスサンドイッチ、ホットサンドイッチ、フルーツサンドイッチ。昔ながらの喫茶店らしさを残しながらも、最近らしいサンドイッチもあるようだ。お腹も少し空いてきているので、サンドイッチでもいいかもしれない。
「スープなんてあるんだね」
「本当だ。他の喫茶店ではスープってあんまり見ないよね」
一番のおススメは『薩摩芋のクリームスープ』だそうだ。説明によれば、濃厚で甘い薩摩芋のスープの上に削ったトリュフがかけられているということなのだが、こんな喫茶店で出すスープにトリュフなんて使うものなのだろうか。まあ、都会の喫茶店はそういう鋳物なのかもしれない。
「せっかくだから、頼んでみようかな」
「いいね。俺も同じのにしようかな」
店員さんを呼び、薩摩芋のクリームスープとクラブハウスサンドイッチを二セット頼む。
店員さんが奥に戻ったのを見て、私はポケットからスマホを取り出した。画面に表示させるのは、さっき一緒に見ていた服屋のサイト。
「さっき見ていた服なんだけどさ」
「あー、ワンピース?」
「そうそう。別の店舗には色違いの物もあるらしくって、悩むんだよね」
「でも、さっき試着していた色。……ますたーどからー?っていうの?あれ、すごく優香に似合っていたけれどなあ」
「それはちょっと思ったんだけれど、手持ちのアクセサリー、シルバー系が多いからさ。あの色ならゴールド系でそろえたほうが可愛いかなって思うから悩むんだよね」
「えー、そうかな」
そこで悩まれてしまうと、気持ちが揺らぐ。圭太は私に似合う服を見つけてくる天才。色彩センスが良いからなのか、私に似合う服をぴたりと当ててくる。だから、服を買う時は絶対に圭太についてきてもらうと決めているのだ。
「じゃあ、例えばなんだけど。ゴールド系のアクセサリーがあったらあの服、買う?」
「買うかなー。特に指輪がね。ほら、あのデザイン、首が詰まっているからネックレスはなくてもいいし、ペンダントみたいなのを上に重ねてもいいと思うんだよね」
「それはわかる。バランス的に、だよね。イヤリングは小さくて揺れるのとかいいと思うんだよね。ほら、この前のフリーマーケットで買っていたのとか、似合いそうじゃん?」
「それはめっちゃわかる!」
そうやって考えていくと、あのワンピースがますます欲しくなってくる。
「悩むな~」
そんなことを話していたら、注文していたものが机に運ばれてくる。
クラブハウスサンドは表面がほんのりトーストされている。断面がきれいで、トマトの赤とレタスの緑が華やかだ。断面がきれいにそろえられた三角形は、白い皿の上で四つ綺麗に整列し、ちょこんとパセリが添えられている。
黄色みがかったスープはぽってりとした陶器の器に入れられている。見るからになめらかそうなのが伝わってくる。上にかけられているのはメニューに書かれていたトリュフなのだろう。
「美味しそう!」
いただきます、と手を合わせて、まずはサンドイッチ。
サクリ、とパンを噛むと先にあるのは瑞々しいトマトとレタス。ハムは燻製がしっかりとされているものなのだろう。スモーキーさがとても美味しい。ハムの塩味がレタスの水分と合わさって、程よく食を進めてくれる。あっという間に一つ食べ終わり、次のものへと手が伸びてしまう。ここまでお腹が空いていたとは思っていなかったが、食べる手が止まらない。
「このサンドイッチ、すっごくおいしいね」
「わかる。ずっとたべちゃう」
だが、せっかくのお店のおすすめも気になる。メニューに書いてあったトリュフも含めて。
サンドイッチを皿に置き、スプーンで一口。
「わあ」
言葉が出てこなかった。思わず目を瞑ってしまう。
甘くって、美味しくって。ふわっととろける様な気持ちになる。
「お、これは美味しいね」
口に入れたときに感じるのは、薩摩芋の純粋な甘さ。それから、シルクのような舌触り。優しい甘さは柔らかなクリームの波と一緒に舌の上を滑っていく。飲み込むとふわりと香るトリュフの余韻。濃い香りは力強い自然さ。後味で薩摩芋の甘さを引き延ばすように、下から支えている。
思わずうっとりしてしまうような味だ。
「優香ってさ、すっごくいい顔で食べるよね」
「え?」
「だって、そんなに美味しいって顔全体で表現する人なかなかいないよ」
「そうかな?」
自覚は一ミリもないのだけれど。
「優香のそういうとこ、ほんと可愛いよね」
「可愛い、のかな?」
可愛いといわれて悪い気はしないのだけれど、自分でわかっていないところだからなんだがむず痒くなる。
「うん。好きなところ」
予想していなかった流れでの唐突な言葉に、私の心臓はきゅんとなる。体温が上がっていって、ほほが赤くなっているのも感じている。
「美味しそうに食べる優香が、好きだよ」
追い打ちをかけるように言われたら、もう本当にとけちゃいそう。
「そんなに言ったって、何にも出ないんだけど」
「なんにも優香から出なくても、俺から出してもいい?」
「え?何を?」
「ペアリング」
一瞬時が止まったかと思った。
ペアリング。つまり、指輪。二人でお揃いの指輪をつける。
それって。それって。
「すっごく、いいな」
「でしょ?」
いたずらっぽく圭太が笑う。
圭太は私の食べるときの顔をとやかく言っていたけれど、圭太だって笑う時は顔いっぱいを使って笑っている。私は圭太のそんな笑い方が好きなのだ。
「ペアリングは、ゴールドのやつがいいと思うんだけど、どう?」
「シルバーでもゴールドでも、デザインで決めたいかなって思うんだけど、なんでゴールド?」
「さっきさ、ゴールド系のアクセサリーがって言っていたじゃん?」
それにさ、と、圭太は付け加える。
「いつかプラチナの指輪でペア、するだろうから。今はゴールド」
はっとした。
そんな先まで、考えてくれているなんて思ってもいなかった。
でも、私もそれくらいずっと一緒に居られたらいいなって思っているから。
「うん。食べ終わったら、探しに行こうか」
そう言って私はもう一口、スープを飲んだ。
甘くて、柔らかくて、とろけてしまいそうだ。
「流石に凍えるかと思っちゃった」
デート中にあまりにも寒すぎて駆け込んだ喫茶店。その店内は「純喫茶」というジャンルにふさわしい内装をしていた。
ふかふかの一人がけのソファーが向かい合い、その間に置かれたウォールナットの丸テーブル。オレンジがかった白熱灯に、ステンドグラスで作られたランプシェードがかけられている。壁には私の背丈ほどの振り子時計がかけられており、少し厚めの窓ガラスに外の景色が歪んでいる。
「こちら、メニューになります」
蝶ネクタイとvestを身に着けた店員が、革張りの表紙に挟まれたメニューとお冷を持ってきた。
「優香は何にする?」
メニューを受け取った圭太が聞いてくる。
「なんか、あったかいものがいいなあ」
「寒くて入ってきたのに、ここでアイスを頼んだら勇者だよ」
そう言いながらパラパラとページをめくる。
コーヒー、カフェラテ、エスプレッソ、紅茶、ロイヤルミルクティー。喫茶店といえば、な飲み物はどれもそろっている。
チーズケーキ、モンブラン、フルーツタルト。写真だけでも宝石のように輝いている。入口のショーケースに入っていたやつだろう。
クラブハウスサンドイッチ、ホットサンドイッチ、フルーツサンドイッチ。昔ながらの喫茶店らしさを残しながらも、最近らしいサンドイッチもあるようだ。お腹も少し空いてきているので、サンドイッチでもいいかもしれない。
「スープなんてあるんだね」
「本当だ。他の喫茶店ではスープってあんまり見ないよね」
一番のおススメは『薩摩芋のクリームスープ』だそうだ。説明によれば、濃厚で甘い薩摩芋のスープの上に削ったトリュフがかけられているということなのだが、こんな喫茶店で出すスープにトリュフなんて使うものなのだろうか。まあ、都会の喫茶店はそういう鋳物なのかもしれない。
「せっかくだから、頼んでみようかな」
「いいね。俺も同じのにしようかな」
店員さんを呼び、薩摩芋のクリームスープとクラブハウスサンドイッチを二セット頼む。
店員さんが奥に戻ったのを見て、私はポケットからスマホを取り出した。画面に表示させるのは、さっき一緒に見ていた服屋のサイト。
「さっき見ていた服なんだけどさ」
「あー、ワンピース?」
「そうそう。別の店舗には色違いの物もあるらしくって、悩むんだよね」
「でも、さっき試着していた色。……ますたーどからー?っていうの?あれ、すごく優香に似合っていたけれどなあ」
「それはちょっと思ったんだけれど、手持ちのアクセサリー、シルバー系が多いからさ。あの色ならゴールド系でそろえたほうが可愛いかなって思うから悩むんだよね」
「えー、そうかな」
そこで悩まれてしまうと、気持ちが揺らぐ。圭太は私に似合う服を見つけてくる天才。色彩センスが良いからなのか、私に似合う服をぴたりと当ててくる。だから、服を買う時は絶対に圭太についてきてもらうと決めているのだ。
「じゃあ、例えばなんだけど。ゴールド系のアクセサリーがあったらあの服、買う?」
「買うかなー。特に指輪がね。ほら、あのデザイン、首が詰まっているからネックレスはなくてもいいし、ペンダントみたいなのを上に重ねてもいいと思うんだよね」
「それはわかる。バランス的に、だよね。イヤリングは小さくて揺れるのとかいいと思うんだよね。ほら、この前のフリーマーケットで買っていたのとか、似合いそうじゃん?」
「それはめっちゃわかる!」
そうやって考えていくと、あのワンピースがますます欲しくなってくる。
「悩むな~」
そんなことを話していたら、注文していたものが机に運ばれてくる。
クラブハウスサンドは表面がほんのりトーストされている。断面がきれいで、トマトの赤とレタスの緑が華やかだ。断面がきれいにそろえられた三角形は、白い皿の上で四つ綺麗に整列し、ちょこんとパセリが添えられている。
黄色みがかったスープはぽってりとした陶器の器に入れられている。見るからになめらかそうなのが伝わってくる。上にかけられているのはメニューに書かれていたトリュフなのだろう。
「美味しそう!」
いただきます、と手を合わせて、まずはサンドイッチ。
サクリ、とパンを噛むと先にあるのは瑞々しいトマトとレタス。ハムは燻製がしっかりとされているものなのだろう。スモーキーさがとても美味しい。ハムの塩味がレタスの水分と合わさって、程よく食を進めてくれる。あっという間に一つ食べ終わり、次のものへと手が伸びてしまう。ここまでお腹が空いていたとは思っていなかったが、食べる手が止まらない。
「このサンドイッチ、すっごくおいしいね」
「わかる。ずっとたべちゃう」
だが、せっかくのお店のおすすめも気になる。メニューに書いてあったトリュフも含めて。
サンドイッチを皿に置き、スプーンで一口。
「わあ」
言葉が出てこなかった。思わず目を瞑ってしまう。
甘くって、美味しくって。ふわっととろける様な気持ちになる。
「お、これは美味しいね」
口に入れたときに感じるのは、薩摩芋の純粋な甘さ。それから、シルクのような舌触り。優しい甘さは柔らかなクリームの波と一緒に舌の上を滑っていく。飲み込むとふわりと香るトリュフの余韻。濃い香りは力強い自然さ。後味で薩摩芋の甘さを引き延ばすように、下から支えている。
思わずうっとりしてしまうような味だ。
「優香ってさ、すっごくいい顔で食べるよね」
「え?」
「だって、そんなに美味しいって顔全体で表現する人なかなかいないよ」
「そうかな?」
自覚は一ミリもないのだけれど。
「優香のそういうとこ、ほんと可愛いよね」
「可愛い、のかな?」
可愛いといわれて悪い気はしないのだけれど、自分でわかっていないところだからなんだがむず痒くなる。
「うん。好きなところ」
予想していなかった流れでの唐突な言葉に、私の心臓はきゅんとなる。体温が上がっていって、ほほが赤くなっているのも感じている。
「美味しそうに食べる優香が、好きだよ」
追い打ちをかけるように言われたら、もう本当にとけちゃいそう。
「そんなに言ったって、何にも出ないんだけど」
「なんにも優香から出なくても、俺から出してもいい?」
「え?何を?」
「ペアリング」
一瞬時が止まったかと思った。
ペアリング。つまり、指輪。二人でお揃いの指輪をつける。
それって。それって。
「すっごく、いいな」
「でしょ?」
いたずらっぽく圭太が笑う。
圭太は私の食べるときの顔をとやかく言っていたけれど、圭太だって笑う時は顔いっぱいを使って笑っている。私は圭太のそんな笑い方が好きなのだ。
「ペアリングは、ゴールドのやつがいいと思うんだけど、どう?」
「シルバーでもゴールドでも、デザインで決めたいかなって思うんだけど、なんでゴールド?」
「さっきさ、ゴールド系のアクセサリーがって言っていたじゃん?」
それにさ、と、圭太は付け加える。
「いつかプラチナの指輪でペア、するだろうから。今はゴールド」
はっとした。
そんな先まで、考えてくれているなんて思ってもいなかった。
でも、私もそれくらいずっと一緒に居られたらいいなって思っているから。
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そう言って私はもう一口、スープを飲んだ。
甘くて、柔らかくて、とろけてしまいそうだ。
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登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。