それが私の存在証明

天野蒼空

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それが私の存在証明

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「もういいかい」

「まーだだよ」

 幼い頃のかくれんぼは嫌いだった。背が小さかった私はいつもなかなか見つけてもらえなかった。

「もういいかい?」

 誰か見つけてくださいと必死にお願いしながら、茂みの中でじっと息を潜める。

「もういいよ」

 このまま誰も見つけてくれなくて私は風に溶けてしまうのではないかと考えながら、心臓の鳴る音の回数を数えていた。

「みいつけた」

「みつかった」

 やっぱり私は誰にも見つけてもらえない。

「みいつけた」

「みつかった」

 涙が溢れそうになる。

「さらちゃん、みいつけた」

 そんな私を見つけてくれたのは、いつだって幼馴染の潤だった。

「みつかった」

 見つけられることで私はここに存在していることを証明してもらっているようだった。



「もう、お母さんなんて知らない!」

 中学生になって、両親と喧嘩する回数が増えた。腹が立ってどうしようもなくなった私は、よく家を飛び出した。
どこにも行く場所のなくなった私は、決まって公園に来るのだった。ブランコに乗って、滑り台を滑って、鉄棒で逆上がりをして、子どもみたいに公園で遊ぶ。でも、最後にはすることがなくなって、筒状のすべり台の中で膝を抱えてじっと考え事をするのだ。

 きっと私は家を飛び出したからもう帰れない、誰にも会えずにずっとここにいるのだろうと。
夜の公園はどの季節でも寒くなる。そして、だんだんお腹も減ってくる。ぐるぐると嫌なことばかり考えてしまう私は、泣きそうになってしまう。

「やっぱりここにいた」

 そんな時に私を迎えに来てくれるのは、やっぱりいつも潤だった。

 時には部活帰りでユニフォームや道具の入った大きなカバンを持ったまま、時には塾に行く前の教科書の詰まったかばんを持って、時にはコンビニのビニール袋を片手に、私のことを見つけてくれた。

「おばさん、心配しているよ」

「お母さんなんて知らないもん」

「また泣きそうになってたんでしょ」

「泣いてなんてないもん」

 私を見つけてもらうことで、私は存在し続けた。




「好きっていってよ」

「さらは好きって言われるのが本当に好きだよね」

「そうよ。だって、愛されている感が出るじゃない。潤だってそう思うでしょう?」

 高校生になって、私達は付き合い始めた。お互いの気持に気づくまでに長い時間は必要としなかった。十七年間ずっと一緒に過ごしてきた仲だ。相手の考えていることなんて、手にとるようにわかったし、お互い変に遠慮するところもなかった。

 程よい距離感はだんだん縮んでいき、私達はゼロセンチメートルの距離で愛を囁きあった。

「好きだよ、さら」

「私も好きよ、潤」

「愛してる」

「私だって愛してる」

 私を愛してもらうことで、私は存在し続ける。

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