親友未満

天野蒼空

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親友未満

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「あたし達ってさ、親友じゃん?」

 すずちゃんはそう言って私の筆箱からピンクのドット柄がついたシャーペンを取りだした。

「そうねえ」

 私は反論するのが面倒なのでそのまま受け流す。
 すずちゃんにとって私は親友。つまり、友達より上の存在。だから私がショッピングモールに入ってないちょっと高い雑貨屋で見つけた付箋をベリベリと何枚も使うし、ルーズリーフを毎日忘れてきて私のファイルから取っていくし、私のお気に入りのピンクのドット柄がついたシャーペンも使う。

「あ、間違えた」

「どうしたの?」

「ここの計算の答え、繰り上がりするの忘れてた」

 くるっとシャーペンが上下逆になる。先に付いていた真っ白な消しゴムが左右に動く度に黒く汚れていく。

「えー、そのシャーペンの消しゴム、まだ使ってなかったのにー」

「あっ、そういうの気にする派だった?ごめんごめん。でもさ、あたし達ってさ、親友じゃん?」

 てへぺろ、と言わんばかりに少し舌を出している姿はとても謝っているようには見えない。でも、仕方ないのかな。すずちゃんにとって私は親友だから。

「そのプリントさ、4時間目のやつでしょ?」

 今は2時間目と3時間目の間の休み時間。そんなペースでやっていたら絶対に間に合わないのに、なんでそんなに余裕そうなんだろう。

「そうそう。数学とかほんとめんどくさいよね」

「わかる。それに小林先生怖いし」

「そうだよね!」

 キラキラした目ですずちゃんは私の両手を握る。

「小林先生さ、ほんっと怖いし、マジ無理だしさ、この前宿題忘れた時なんてもう鬼かと思ったもん」

「それはすずちゃんが宿題忘れるからでしょ」

「それでさー」

 そう言いながらすずちゃんは私の鞄を開けて、水色のノートを取り出した。表紙には「数学」と書いてある。

「宿題、写させてくれない?ほら、あたし達ってさ、親友じゃん?」

「自力でやらなきゃ意味無いって小林先生言ってたよ」

「酷い。親友なのに……」

 すずちゃんは今にも泣きそうな表情だ。

「もう、仕方ないな。次はやってきなよ?」

 何度この言葉をすずちゃんに言ってきただろうか。親友だから、その言葉があればすずちゃんは私を手下にできると思っているのだろうか。

「ありがとう!さすが親友!」

「早くやりなよ」

 不満な顔が出ないように急いで笑顔の仮面を付ける。
 だから私はすずちゃんを親友だとは思わない。すずちゃんにとって親友でも、私にとっては違う。
 親友未満だ。
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