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7話 From明日香
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「おつかれさまでしたー」
生徒会室から出て、昇降口に向かう。とりあえず、今日やらなくてはいけない分の仕事はなんとか終わったのでよかった。
とん、と後ろから肩を叩かれる。
「岩瀬さん、よかったら一緒に帰らない?」
「会長、お疲れさまです。大丈夫ですよ」
最近は会長のほうが忙しくしていたから、同じ時間、それもまだ日がくれていない時間に帰るのは久しぶりだ。
「いやー、最近はずっと忙しかったからね」
「生徒総会まであと一ヶ月ちょっとですものね」
「そうね。それが終われば私の時代も終わりかな」
「先輩の時代、ですか?」
「任期、終わっちゃうからね」
その言葉でハッとした。会長は今年で三年生。次も続けて会長をすることはないのだろう。
「寂しくなりますね」
足元に二つの影が長く伸びる。
「岩瀬さんはさ、青春してる?」
「青春、ですか?」
いきなり青春と言われても、よくわからない。
「そうだよ、青春。ほら、高校生らしく恋愛とかとかさ」
「恋愛……。ないですね」
「ほら、どこかに一つくらい」
「そういう会長はどうなんですか」
「全くないんだよね。高校生のうちに彼氏とか作りたかったなあって、後悔しているところなのよ。だから岩瀬さんには青春してもらいたいなあって」
恋愛に興味がないわけではない。私だって少女漫画とか、カルピスのCMにあるようないわゆる「アオハル」っぽい恋をしてみたい。
ただ、それが現実的かどうかは別問題だ。
「難しいですよ。今は部活も生徒会もありますから」
「ええー、生徒会の中にもいるじゃん。一人しかいない同学年でしょ、なんかないの?」
「橋本ですか?」
一人しかいない同学年と言われたらたしかにそうなのだけれど、全然そんな雰囲気になったことはない。
「どうよ、どうよ?」
「ないですよ、ほんとに。ただ一緒に生徒会しているだけですもん」
「そっかー。で、岩瀬さんからみた橋本くんってどうなのよ」
「やっぱり、仕事の速さは凄いと思います」
同じくらいの仕事を頼まれていたはずなのに、いつも先に終わるのは橋本だ。悔しいけど、凄いと思う。
「確かに、いつも頼んだことはすぐに終わらせているよね。で、仕事以外の部分とか、どう?」
生徒会室以外の橋本をよく知っているかと言われれば、全然そんなことはないと思う。休みの日に一緒に遊びに行くこともなければ、クラスが同じわけでもない。芸術の選択授業も違うし、部活も違う。
ただ、生徒会室の中で一緒にやっていることは仕事だけではない。ただ時間を潰したいだけの時に生徒会室に来ると橋本もそこにいて、最近読んだ本や好きな漫画やアニメ、ゲームなどを勧め合ったり、いっしょに宿題をしたり、教室であったくだらない話をしたりしている。
日によっては話し込んでしまって、気がついたらすっかり暗くなってしまっていたこともあった。だから、この生徒会室の中だけとはいえ、一緒に過ごしている時間は長いほうなのかもしれない。
「面白いところはあると思いますよ」
菜月のように話すことや存在全てに魅力があるわけではない。でも、聞き上手、というやつなのだろうか。話をするときは私のほうが話すことが多い。でも、何でも話しやすくて、ついつい長く話しすぎてしまう。
普段は他人に興味なんてない、って言いそうなあまり表情が変わらないタイプなのに。
「確かにそうね」
「冗談の言い方とか、ノリがいいところとか、うまく言えないんですけど、なんか面白いんですよね」
「それって、相性いい感じとか?」
「いや、多分そういうのじゃないですよ。ほら、みんながいるときだって橋本はそういう感じじゃないですか」
「たしかにそうかも」
会長はそう言ってぷうっと頬をふくらませる。
「じゃあさ、彼氏にしたいランキングだとどうよ」
「そんな事考えたことなかったですよ。でも、モテそうですよね。面白くて、仕事ができて。悪いほうじゃないと思いますよ。顔だって、まあまあ良いほうだと思いますし」
モテているかどうかは、そんな話聞いてないからわからないけれど。
「じゃあ、かっこいいとか思っている感じ?」
「な、なんでそんなことになるんですか!」
全身が炎に包まれたかのように、かあっと熱くなる。一言もそんな事言ってないのにそんな事言われたら、意識してしまいそうになるから全力で否定する。
まあ、いいなと思ったことは多分なくはないかもしれないけれど。
「なんであんな奴が。橋本がかっこいいとか、本当に、絶対に、ありえないです!」
「俺がどうしたって?」
振り向くと、後ろに橋本が立っていた。
いつの間に来たのだろう。もしかしたら話していたこと、全部聞かれていたのかもしれない。そんなことを考えたら、恥ずかしさで死にそうになる。
「なんでそんなところに立っているのよ。ムカつく」
こんなにタイミング悪く来るなんて、本当に腹が立つ。
「だって、俺も駅に行くし。なんなら電車も同じ方向だし。あと、これ飲む?」
差し出されたのはミルクティーのペットボトルだ。しかも私の好きな種類のもの。
「貰う。ありがと」
「いや、昇降口のところの自販機で買ったら、二本落ちてきたんだよね」
キャップを開けて、甘いミルクティーを口の中に流し込む。その冷たさが火照った私の体をゆっくりと冷やしていく。
「それで、俺のこと何話していたの?」
口に含んだミルクティーを吹き出しそうになる。
「なんでもないわよ、ばか!」
もう、今日は橋本と目を合わせられそうにない。
生徒会室から出て、昇降口に向かう。とりあえず、今日やらなくてはいけない分の仕事はなんとか終わったのでよかった。
とん、と後ろから肩を叩かれる。
「岩瀬さん、よかったら一緒に帰らない?」
「会長、お疲れさまです。大丈夫ですよ」
最近は会長のほうが忙しくしていたから、同じ時間、それもまだ日がくれていない時間に帰るのは久しぶりだ。
「いやー、最近はずっと忙しかったからね」
「生徒総会まであと一ヶ月ちょっとですものね」
「そうね。それが終われば私の時代も終わりかな」
「先輩の時代、ですか?」
「任期、終わっちゃうからね」
その言葉でハッとした。会長は今年で三年生。次も続けて会長をすることはないのだろう。
「寂しくなりますね」
足元に二つの影が長く伸びる。
「岩瀬さんはさ、青春してる?」
「青春、ですか?」
いきなり青春と言われても、よくわからない。
「そうだよ、青春。ほら、高校生らしく恋愛とかとかさ」
「恋愛……。ないですね」
「ほら、どこかに一つくらい」
「そういう会長はどうなんですか」
「全くないんだよね。高校生のうちに彼氏とか作りたかったなあって、後悔しているところなのよ。だから岩瀬さんには青春してもらいたいなあって」
恋愛に興味がないわけではない。私だって少女漫画とか、カルピスのCMにあるようないわゆる「アオハル」っぽい恋をしてみたい。
ただ、それが現実的かどうかは別問題だ。
「難しいですよ。今は部活も生徒会もありますから」
「ええー、生徒会の中にもいるじゃん。一人しかいない同学年でしょ、なんかないの?」
「橋本ですか?」
一人しかいない同学年と言われたらたしかにそうなのだけれど、全然そんな雰囲気になったことはない。
「どうよ、どうよ?」
「ないですよ、ほんとに。ただ一緒に生徒会しているだけですもん」
「そっかー。で、岩瀬さんからみた橋本くんってどうなのよ」
「やっぱり、仕事の速さは凄いと思います」
同じくらいの仕事を頼まれていたはずなのに、いつも先に終わるのは橋本だ。悔しいけど、凄いと思う。
「確かに、いつも頼んだことはすぐに終わらせているよね。で、仕事以外の部分とか、どう?」
生徒会室以外の橋本をよく知っているかと言われれば、全然そんなことはないと思う。休みの日に一緒に遊びに行くこともなければ、クラスが同じわけでもない。芸術の選択授業も違うし、部活も違う。
ただ、生徒会室の中で一緒にやっていることは仕事だけではない。ただ時間を潰したいだけの時に生徒会室に来ると橋本もそこにいて、最近読んだ本や好きな漫画やアニメ、ゲームなどを勧め合ったり、いっしょに宿題をしたり、教室であったくだらない話をしたりしている。
日によっては話し込んでしまって、気がついたらすっかり暗くなってしまっていたこともあった。だから、この生徒会室の中だけとはいえ、一緒に過ごしている時間は長いほうなのかもしれない。
「面白いところはあると思いますよ」
菜月のように話すことや存在全てに魅力があるわけではない。でも、聞き上手、というやつなのだろうか。話をするときは私のほうが話すことが多い。でも、何でも話しやすくて、ついつい長く話しすぎてしまう。
普段は他人に興味なんてない、って言いそうなあまり表情が変わらないタイプなのに。
「確かにそうね」
「冗談の言い方とか、ノリがいいところとか、うまく言えないんですけど、なんか面白いんですよね」
「それって、相性いい感じとか?」
「いや、多分そういうのじゃないですよ。ほら、みんながいるときだって橋本はそういう感じじゃないですか」
「たしかにそうかも」
会長はそう言ってぷうっと頬をふくらませる。
「じゃあさ、彼氏にしたいランキングだとどうよ」
「そんな事考えたことなかったですよ。でも、モテそうですよね。面白くて、仕事ができて。悪いほうじゃないと思いますよ。顔だって、まあまあ良いほうだと思いますし」
モテているかどうかは、そんな話聞いてないからわからないけれど。
「じゃあ、かっこいいとか思っている感じ?」
「な、なんでそんなことになるんですか!」
全身が炎に包まれたかのように、かあっと熱くなる。一言もそんな事言ってないのにそんな事言われたら、意識してしまいそうになるから全力で否定する。
まあ、いいなと思ったことは多分なくはないかもしれないけれど。
「なんであんな奴が。橋本がかっこいいとか、本当に、絶対に、ありえないです!」
「俺がどうしたって?」
振り向くと、後ろに橋本が立っていた。
いつの間に来たのだろう。もしかしたら話していたこと、全部聞かれていたのかもしれない。そんなことを考えたら、恥ずかしさで死にそうになる。
「なんでそんなところに立っているのよ。ムカつく」
こんなにタイミング悪く来るなんて、本当に腹が立つ。
「だって、俺も駅に行くし。なんなら電車も同じ方向だし。あと、これ飲む?」
差し出されたのはミルクティーのペットボトルだ。しかも私の好きな種類のもの。
「貰う。ありがと」
「いや、昇降口のところの自販機で買ったら、二本落ちてきたんだよね」
キャップを開けて、甘いミルクティーを口の中に流し込む。その冷たさが火照った私の体をゆっくりと冷やしていく。
「それで、俺のこと何話していたの?」
口に含んだミルクティーを吹き出しそうになる。
「なんでもないわよ、ばか!」
もう、今日は橋本と目を合わせられそうにない。
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