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クマの妖精
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タカシ君は、病院のベッドで眠れずに何度も寝返りを打っていました。病気で、数日前から入院をしているのです。暗くなると、どうしてもおうちに帰りたくなり、寂しくて眠れなくなってしまうのでした。
消灯時間が過ぎてから、もう何時間だったのでしょうか。周りからは同じ部屋の人達の寝息が聞こえてきます。
どうしてもお父さんとお母さんが恋しくなって、タカシ君はベッドから起き上がりました。
タカシ君の病室の近くには、「ぷれいるーむ」というお部屋がありました。そこにはマンガやぬいぐるみやおもちゃがあり、入院している子供たちは昼の間はそこで遊ぶことができるのです。
でも、タカシ君は今遊びたいわけではありませんでした。「ぷれいるーむ」の窓からは、電車が走っているのが見えるのです。おうちの方に走る電車を見れば、少し元気になれるような気がしたのです。
看護師さんのいるナースステーションは、少し離れた場所にあります。静かにしていれば気づかれないでしょう。
タカシ君は、カーテンの隙間から外を眺めました。電車の窓から漏れる光が列になって、家の方向へ流れていきます。あの先に自分の家があるのです。タカシは、電車を見たことを後悔しました。なんだか余計におうちに帰りたくなってしまったのです。
浮かんできた涙のせいで、光がにじんで、ぼやけていきます。
その時ごそごそと、後ろの方で音がして、タカシ君は少しびっくりしました。振り返ると、箱につめこまれたぬいぐるみの山が動いています。
「やあ、こんばんは!」
飛び出してきたのは茶色いクマのぬいぐるみでした。
「え? き、君はだれ? おひるにはこんなぬいぐるみ、なかったと思うけど……」
「僕はぬいぐるみじゃないよ!」
どこか得意そうにクマは言います。
「がんばって病気と闘ってる子供を励ますためにやってきた妖精だよ」
そしてくるりと回転して恰好をつけました。
「本当! じゃあ僕と友達になってよ!」
「もちろんだよ!」
「わあ、ありがとう!」
元気よくお礼を言った後、タカシ君は少し暗い声になりました。。
「僕はこの病院に友達がいないから」
「そうなの?」
タカシ君は、しばらく黙っていました。そして、重たそうに口を開きました。
「僕、おうちに帰りたくて、悲しくって、昼間もみんなと遊びたいと思えないんだ。それでヒーローごっこしようって言われても『後でね』って言ってたら、そのうち誰も話かけてくれなくなっちゃった。お父さんとお母さんは面会にきてくれるけど、夜には帰っちゃうし」
「じゃあ、僕がお話してあげる」
「ほんと!」
タカシ君の大声に、クマは「シーッ!」と手で口を押える仕草をして見せました。
「そんな大声をだしたら看護師さんが来ちゃうよ!」
クマに言われて、タカシ君もあわてて両手で口を押えました。そして、一人と一匹は顔を見合わせ、くすくす笑いました。
「じゃあクマの妖精さん、また明日もお話してくれる?」
「もちろんだよ。そのかわり、僕の事を誰にも言っちゃだめだよ」
「うん!」
そのとき、懐中電灯の円い光が、さっとタカシ君の体をなでました。
「あ、タカシ君! ダメじゃないの! きちんとベッドで寝ていなくちゃ!」
看護師さんに病室に連れ帰られるとき、タカシ君はちらりと振り返りました。クマの妖精は、本当のぬいぐるみのように倒れたまま、もう起き上がりませんでした。
それから、毎晩タカシ君はクマとお話をしました。看護師さんとしたお話、検査をがんばったこと……クマは熱心に聞いてくれました。点滴をした話をしたときは、「痛いのにがまんして偉かったね」とほめてくれました。そのたびに、おうちに帰れないさびしさが少しずつ和らいでいきました。
そして、タカシ君が元気になって、明るくなったのを感じ取ったのでしょう。同じ病室の子とも遊べるようになったのです。
もちろん、そうなってもタカシ君はクマさんのことを誰にも言わなかったし、毎晩会いに行くのを忘れませんでした。
「それでね、ヨシユキ君のお母さんが怪獣のお人形持ってきたから、コウくんの人形とヒーローごっこさせることにしたの!」
そこで、タカシ君はしゃべるのをやめました。
いつもは楽しい話をすると笑ってくれるクマなのに、今日はジッと黙ったままなのです。
「どうしたの?」
「もう、タカシ君は僕がいなくても大丈夫だね」
その言葉に嫌な予感がしました。
「え? なあに、どういうこと?」
「僕はもう、妖精の国に帰らなくちゃ」
「そんなのヤダ!」
「泣かないで」
クマの妖精は、ふわふわとした手でタカシ君の腕を優しく叩きました。
「昔の君みたいに、寂しい思いをしている子がまだまだたくさんいるんだ。僕はその子達を励ましてあげなくちゃならない」
「……うん」
悲しかったけれど、わがままを言っちゃだめだとタカシ君は思いました。
タカシ君は、さびしいときにこのクマの妖精に楽しくしてくれたのです。もし、昔のタカシ君のように悲しい、さびしい思いをしている子がいるのなら、クマをずっと僕だけの友達にしていてはいけないと思いました。
「タカシ君が退院したらまた会いにくるから。君が、僕のことを誰にも内緒にしてくれるならまた会えるよ」
「うん」
「じゃあ、またね」
そういうと、クマは動かなくなりました。
それからしばらくして、タカシ君は退院しました。ようやく家に帰れることになり、久しぶりに学校の友達とも遊べるようになったのですが、それでもクマの友達を忘れることはありませんでした。
退院したら会いに来てくれるといったのに、クマはなかなか会いに来てくれません。
(ひょっとしたら、僕の事、忘れちゃったのかな)
タカシ君は学校からの帰り道、そんなことを考えていました。なんだか、クマとお話していた日々が嘘のようでした。
そもそも、本当にクマの妖精なんていたんでしょうか?
(あれは、夢だったのかな……)
「タカシく~ん!」
どこかで聞きなれた声がしました。
タカシ君は慌てて辺りをきょろきょろ見回しました。
「約束通り、会いに来たよ、タカシ君!」
ちょうどタカシ君の目の高さ、角のブロック塀からクマが半分だけ体をのぞかせていました。そして、ぴょこぴょこと片手を振っています。
「クマさん!」
タカシ君の顔がパアッと明るくなりました。
「おいで、こっちでおしゃべりしよう!」
さっとクマは引っ込んで、その声が動き始めます。
タカシ君は慌ててクマさんの後を追って行っていきました。
××病院のぬいぐるみに、不審な機械が隠されていたことが、看護師によって発見されました。その機械は市販の人型ロボットを改造した物で、遠隔操作ができ、隠しカメラやスピーカーも備え付けられていたということです。
この地域では、子供の行方不明が相次いでおり、警察では何者かが似たようなぬいぐるみを使い、子供の気を引いて誘拐している可能性もあるとして捜査を続けています。
消灯時間が過ぎてから、もう何時間だったのでしょうか。周りからは同じ部屋の人達の寝息が聞こえてきます。
どうしてもお父さんとお母さんが恋しくなって、タカシ君はベッドから起き上がりました。
タカシ君の病室の近くには、「ぷれいるーむ」というお部屋がありました。そこにはマンガやぬいぐるみやおもちゃがあり、入院している子供たちは昼の間はそこで遊ぶことができるのです。
でも、タカシ君は今遊びたいわけではありませんでした。「ぷれいるーむ」の窓からは、電車が走っているのが見えるのです。おうちの方に走る電車を見れば、少し元気になれるような気がしたのです。
看護師さんのいるナースステーションは、少し離れた場所にあります。静かにしていれば気づかれないでしょう。
タカシ君は、カーテンの隙間から外を眺めました。電車の窓から漏れる光が列になって、家の方向へ流れていきます。あの先に自分の家があるのです。タカシは、電車を見たことを後悔しました。なんだか余計におうちに帰りたくなってしまったのです。
浮かんできた涙のせいで、光がにじんで、ぼやけていきます。
その時ごそごそと、後ろの方で音がして、タカシ君は少しびっくりしました。振り返ると、箱につめこまれたぬいぐるみの山が動いています。
「やあ、こんばんは!」
飛び出してきたのは茶色いクマのぬいぐるみでした。
「え? き、君はだれ? おひるにはこんなぬいぐるみ、なかったと思うけど……」
「僕はぬいぐるみじゃないよ!」
どこか得意そうにクマは言います。
「がんばって病気と闘ってる子供を励ますためにやってきた妖精だよ」
そしてくるりと回転して恰好をつけました。
「本当! じゃあ僕と友達になってよ!」
「もちろんだよ!」
「わあ、ありがとう!」
元気よくお礼を言った後、タカシ君は少し暗い声になりました。。
「僕はこの病院に友達がいないから」
「そうなの?」
タカシ君は、しばらく黙っていました。そして、重たそうに口を開きました。
「僕、おうちに帰りたくて、悲しくって、昼間もみんなと遊びたいと思えないんだ。それでヒーローごっこしようって言われても『後でね』って言ってたら、そのうち誰も話かけてくれなくなっちゃった。お父さんとお母さんは面会にきてくれるけど、夜には帰っちゃうし」
「じゃあ、僕がお話してあげる」
「ほんと!」
タカシ君の大声に、クマは「シーッ!」と手で口を押える仕草をして見せました。
「そんな大声をだしたら看護師さんが来ちゃうよ!」
クマに言われて、タカシ君もあわてて両手で口を押えました。そして、一人と一匹は顔を見合わせ、くすくす笑いました。
「じゃあクマの妖精さん、また明日もお話してくれる?」
「もちろんだよ。そのかわり、僕の事を誰にも言っちゃだめだよ」
「うん!」
そのとき、懐中電灯の円い光が、さっとタカシ君の体をなでました。
「あ、タカシ君! ダメじゃないの! きちんとベッドで寝ていなくちゃ!」
看護師さんに病室に連れ帰られるとき、タカシ君はちらりと振り返りました。クマの妖精は、本当のぬいぐるみのように倒れたまま、もう起き上がりませんでした。
それから、毎晩タカシ君はクマとお話をしました。看護師さんとしたお話、検査をがんばったこと……クマは熱心に聞いてくれました。点滴をした話をしたときは、「痛いのにがまんして偉かったね」とほめてくれました。そのたびに、おうちに帰れないさびしさが少しずつ和らいでいきました。
そして、タカシ君が元気になって、明るくなったのを感じ取ったのでしょう。同じ病室の子とも遊べるようになったのです。
もちろん、そうなってもタカシ君はクマさんのことを誰にも言わなかったし、毎晩会いに行くのを忘れませんでした。
「それでね、ヨシユキ君のお母さんが怪獣のお人形持ってきたから、コウくんの人形とヒーローごっこさせることにしたの!」
そこで、タカシ君はしゃべるのをやめました。
いつもは楽しい話をすると笑ってくれるクマなのに、今日はジッと黙ったままなのです。
「どうしたの?」
「もう、タカシ君は僕がいなくても大丈夫だね」
その言葉に嫌な予感がしました。
「え? なあに、どういうこと?」
「僕はもう、妖精の国に帰らなくちゃ」
「そんなのヤダ!」
「泣かないで」
クマの妖精は、ふわふわとした手でタカシ君の腕を優しく叩きました。
「昔の君みたいに、寂しい思いをしている子がまだまだたくさんいるんだ。僕はその子達を励ましてあげなくちゃならない」
「……うん」
悲しかったけれど、わがままを言っちゃだめだとタカシ君は思いました。
タカシ君は、さびしいときにこのクマの妖精に楽しくしてくれたのです。もし、昔のタカシ君のように悲しい、さびしい思いをしている子がいるのなら、クマをずっと僕だけの友達にしていてはいけないと思いました。
「タカシ君が退院したらまた会いにくるから。君が、僕のことを誰にも内緒にしてくれるならまた会えるよ」
「うん」
「じゃあ、またね」
そういうと、クマは動かなくなりました。
それからしばらくして、タカシ君は退院しました。ようやく家に帰れることになり、久しぶりに学校の友達とも遊べるようになったのですが、それでもクマの友達を忘れることはありませんでした。
退院したら会いに来てくれるといったのに、クマはなかなか会いに来てくれません。
(ひょっとしたら、僕の事、忘れちゃったのかな)
タカシ君は学校からの帰り道、そんなことを考えていました。なんだか、クマとお話していた日々が嘘のようでした。
そもそも、本当にクマの妖精なんていたんでしょうか?
(あれは、夢だったのかな……)
「タカシく~ん!」
どこかで聞きなれた声がしました。
タカシ君は慌てて辺りをきょろきょろ見回しました。
「約束通り、会いに来たよ、タカシ君!」
ちょうどタカシ君の目の高さ、角のブロック塀からクマが半分だけ体をのぞかせていました。そして、ぴょこぴょこと片手を振っています。
「クマさん!」
タカシ君の顔がパアッと明るくなりました。
「おいで、こっちでおしゃべりしよう!」
さっとクマは引っ込んで、その声が動き始めます。
タカシ君は慌ててクマさんの後を追って行っていきました。
××病院のぬいぐるみに、不審な機械が隠されていたことが、看護師によって発見されました。その機械は市販の人型ロボットを改造した物で、遠隔操作ができ、隠しカメラやスピーカーも備え付けられていたということです。
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