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三章
その結婚は許可できぬ
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リティシア姫が無事に帰ったというニュースは、ロアーディアルだけでなくトルバドの国でも駆け巡った。時期は予定より遅れたものの、春になるのを待たず、リティシア姫とルイドバード王子の結婚式が挙げられることとなった。姫の生還と婚礼と、二重のめでたさで二つの国は沸き返った。
結婚式当日、トルバドにある離宮の庭には、自分達の王子と新しい花嫁を見ようと着飾った人々が殺到した。皆、主役の登場を待って、舞台ほどの大きさのあるバルコニーを見上げている。
バルコニーは、こうして王族が国民に姿を見せる時のために作られた物で、小さな舞台ほどの大きさがあった。コの字になった建物の中央に設けられているため、左右どちらからでもバルコニーに出られる。どちらから新郎新婦が出てくるか分からない観客達は、絶えず視線をきょろきょろさせていた。中には滅多にない見せ物を子供にみせようと、息子を肩車している父親もいた。
いつもとは違い、バルコニーには真ん中に布で飾り付けられた祭台が置かれている。その上に置かれた書見台には、祈りの言葉を書いた本が載せられていた。
「姫様は悪者に捕らえられていたのでしょう? よく生きていたものよねえ」
よそ行きの服を着た若い女性が、連れの女性に話かけた。
「そう、それを助けたのがルイドバード様だったんだって」
「ステキよねえ! 王子様が助けに来てくださるなんて!」
胸の前で両手を組んで、女性はキャ~と黄色い声を上げた。
「それで、姫様をさらった悪人はどうなったの?」
「さらった当人は死んだらしいんだけど、結構大きな組織だったらしくて、生き残りがかなりいるそうよ。二国が合同で殲滅(せんめつ)にあたるんですって」
それを聞いて、近くにいた男は下卑た笑みを浮かべた。
「まあ、結婚式が無事に行なわれるってことは、花嫁の資格は奪われる前に助かったってわけだ」
「まあ!」
女二人は不愉快そうな目で男を見つめる。
「なんにせよ、悪党は処刑か一生投獄だろ。またしばらくは祭が続きそうだな」
結局、女二人は下品な男を無視して話を続けることにしたらしい。何事も無かったかのように顔を寄せあった。
「ルイドバード王子が姫を助けたことで、王妃様と弟王子は完全に失脚したんだって。弟王なんて、兄の粛正を恐れて失踪したそうよ。ルイドバード様が王位を継ぐらしいわ!」
「そういえば、あの道化はどうしたの? 姫を悪人に売ったっていう」
「それが誤解だったんですって。それどころか、ずっと姫を探していたそうよ」
やがて楽隊が華やかな音楽を奏で始め、民衆が色めき立った。
婚礼衣裳を着たルイドバードが右手から現れた。慣習に従い、ルイドバードはフードで顔を隠し剣を掲げた黒服の従者を連れている。
誰かの口笛が鳴り響いた。憧れの王子の登場に、何人もの女性が悲鳴のような歓声を上げる。
左からリティシアが現われた。花嫁衣裳は準備する期間が十分とはいえず、さらわれる前の物より簡素だったが、飾りや刺繍が少なくごまかしが利かない分、逆にリティシアの持つ素の美しさを際立たせていた。フードで顔を隠し、花束を抱えた白服の侍女がうやうやしく付き従っている。
従者と侍女は隅に控えさせ、新郎と新婦がバルコニーの中央に立った。見守る民(たみ)達の歓声が一際大きくなった。カゴから手製の紙吹雪をまく者もいる。
「お帰りなさい、リティシア様!」
「おめでとうございます!」
民衆の祝いの声に、若い王子と王女は微笑んだが、緊張しているのか、どこかぎこちなさがあった。
余韻を残して音楽が止まり、その余韻も消えたころ、歓声も静まった。
神官がもったいぶった足取りでバルコニーの袖から現われる。二人と向き合う形になると、重々しく口を開いた。
「トルバド国の王子、ルイドバード。汝は創世と愛の神、ロアーディアの心臓に懸けてリティシアを愛することを誓うか。そしてロアーディアル国の姫、リティシア。汝は創世と愛の神、ロアーディアの心臓に懸けてリティシアを愛することを誓うか」
二人はゆっくりと口を開く。
その時、庭の前方にいる人々から、ざわめきが上がった。
「おい、あの光はなんだ?」
「え? どこ?」
祭壇の上に、小さな光の柱のような物が立った。その中に光の球が浮いていた。最初は目の良い者しか気付かなかったが、その光はだんだんと大きくなっていく。
当然、祭壇近くにいる三人が気づかないわけはない。新郎新婦は動揺しているようだった。
「私はロアーディアの心臓にかけて……」
二人の『誓う』の言葉をかき消すように、光の球は強く輝いた。
ルイドバードが背中にリティシアをかばう。
金色の光は、膨らみ、削れ、翼を持った人間のシルエットになった。ぼんやりとした光の固まりで、目鼻立ちははっきり見えないが、体つきから女性のように見えた。
いきなりの奇跡に、神官はぽかんと口を開けている。
「なんだ、あれは!」
まるで水面の波紋のように、見物人にパニックが広がっていく。
「天使さま、天使さまだ!」
腕の中で興奮した子供が叫びながら動き回って、母親が慌てて腕に力を込めた。
天使、というその言葉は、人々の間に波紋のように広がっていった。
「天使?」
「どこ? 見えない」
「あれだ! あの光っている奴!」
手の胸の前で組合せ、祈りだす者も出てきた。
天使は人々の注目を浴びながら、ゆっくりと唇を開いた。
「その誓いの言葉を言ってはならない」
低めの女の声にも、男の裏声にも聞こえる不思議な声だった。天使が何か話しているとに気付いた人々は、その言葉を聞こうと、魔法にかかったように口を閉じ、少しずつ広間はは静まっていく。
「ち、誓ってはいけない……なぜ?」
まるで大声を上げたら目の前の未知の存在が襲いかかって来るというように、ルイドバードは恐る恐る疑問を口にする。
その恐怖をなだめるように、天使は穏やかな声で言う。
「あなたたちのこの結婚には偽りがある」
不安と好奇心が混ざったざわめきが民衆を覆いつくした。
ルイドバードとリティシアは、驚いているようだが取り乱しはしなかった。
「我は女神ロアーディア様の使いである。我が主(あるじ)は、ご自分の子孫であるリティシアが間違った婚姻を結ぼうとしているのを、忍びなく思って我を使わされた。トルバド国王子、ルイドバード。そなたの花嫁はリティシアではない。そしてロアーディアル国の姫リティシア。そなたの花婿はルイドバードではない」
「どういうことでしょう?」
リティシアの質問に対する天使の答えは簡潔だった。
「汝はルイドバードを愛してはいない。そして、ルイドバードも汝を愛してはいない」
その言葉に、ざわめきは消えその場は静まり返った。その雰囲気に怯えたのか、どこかで赤ん坊が泣いている。
「愛のない結婚は、ロアーディア様を侮辱すること。そして神から賜(たまわ)る幸せを投げ捨てること。許される物ではない。ロアーディア様はご自分の子孫が不幸になるのを望んではいない」
天使は祭壇を降り、床をすべるように移動する。聖なる祭壇から離れたからか、その姿は小波(さざなみ)のように揺らめき、安定しない。天使はルイドバードの後に控えている従者の前に立った。
従者は畏(おそ)れ、敵意がないことを示すために剣を床に置くとひざまずいた。
「リティシア、汝が愛しているのはこの男。従者よ、顔を見せろ」
命じられた通り、男はフードを外した。
現れたのは、垂れた目に泣きボクロが印象的な優男(やさおとこ)。
その顔をもっとはっきり見ようと、民衆は爪先立ちをしたり、目を細めたりしている。
「誰だ?」
「あいつ、どこかで見た覚えが……そうだ、道化だ。姫専属の!」
「ラティラス? あれが噂の?」
ラティラスは、ひざまずき、目線を落としたまま動かない。
天使の形をした幻影は、今度はリティシアの侍女に歩み寄る。
侍女は花束を抱えたままひざまずいた。
「ルイドバード、汝が愛しているのはこの女。侍女よ、顔を見せろ」
同じように促され、侍女の一人がフードを取ると、現れたのは他の者がみなれない少女――ファネット――のはにかんだほほ笑みだった。
「バ、バカな! そんな小娘が! ルイドバード王子の花嫁とは!」
職業に似合わない言葉を、トルバド人の神官が吐いた。
「控えよ、無礼者!」
相変わらず不思議な響きを持つ天使の声が神官を制した。
「永い時の中で、王家の直系からこそ外れたものの、この娘、ファネットは女神の血を引いておられる」
海鳴りのように驚きの声が響く。
天使は、女神の子孫に敬意を表し、ファネットに対し小さく礼をとった。
女神の使いが、ただの小娘に礼をするなどありえない。それこそ、本当に神に認められた者でないと。
「かくして全ては正しき場所に収まるだろう。姫は道化と、王子は町娘と。ちぐはぐのようだが愛の女神の御名(みな)においてはこれがあるべき姿」
「……奇跡だ」
誰かが呆(ほう)けたように呟いた。
「あ、ああ、んん」
仕切り直しをしようとしているように、神官は咳払いをした。
「それでは、女神ロアーディアの名において、リティシアとラティラス、ルイドバードとファネットの婚礼を始める」
会場を揺るがすほどの歓声が響いた。
誰かが全体に響き渡るほど大きな声で叫ぶ。
「トルバド国とロアーディアル国よ、永遠(とわ)に栄えあれ!」
その様子を見届けると、天使はゆっくりとうなずいた。天使の影は現われた時を逆にたどるように、光る金の塊(かたまり)となる。その光は広がり、溶けるように消え失せた。
女神に使わされた天使が、互いの想いを押し殺し、望まぬ結婚をしようとしている恋人達を救った。
驚きは今や奇跡を祝う拍手と歓声と口笛になりほとばしっていた。
結婚式当日、トルバドにある離宮の庭には、自分達の王子と新しい花嫁を見ようと着飾った人々が殺到した。皆、主役の登場を待って、舞台ほどの大きさのあるバルコニーを見上げている。
バルコニーは、こうして王族が国民に姿を見せる時のために作られた物で、小さな舞台ほどの大きさがあった。コの字になった建物の中央に設けられているため、左右どちらからでもバルコニーに出られる。どちらから新郎新婦が出てくるか分からない観客達は、絶えず視線をきょろきょろさせていた。中には滅多にない見せ物を子供にみせようと、息子を肩車している父親もいた。
いつもとは違い、バルコニーには真ん中に布で飾り付けられた祭台が置かれている。その上に置かれた書見台には、祈りの言葉を書いた本が載せられていた。
「姫様は悪者に捕らえられていたのでしょう? よく生きていたものよねえ」
よそ行きの服を着た若い女性が、連れの女性に話かけた。
「そう、それを助けたのがルイドバード様だったんだって」
「ステキよねえ! 王子様が助けに来てくださるなんて!」
胸の前で両手を組んで、女性はキャ~と黄色い声を上げた。
「それで、姫様をさらった悪人はどうなったの?」
「さらった当人は死んだらしいんだけど、結構大きな組織だったらしくて、生き残りがかなりいるそうよ。二国が合同で殲滅(せんめつ)にあたるんですって」
それを聞いて、近くにいた男は下卑た笑みを浮かべた。
「まあ、結婚式が無事に行なわれるってことは、花嫁の資格は奪われる前に助かったってわけだ」
「まあ!」
女二人は不愉快そうな目で男を見つめる。
「なんにせよ、悪党は処刑か一生投獄だろ。またしばらくは祭が続きそうだな」
結局、女二人は下品な男を無視して話を続けることにしたらしい。何事も無かったかのように顔を寄せあった。
「ルイドバード王子が姫を助けたことで、王妃様と弟王子は完全に失脚したんだって。弟王なんて、兄の粛正を恐れて失踪したそうよ。ルイドバード様が王位を継ぐらしいわ!」
「そういえば、あの道化はどうしたの? 姫を悪人に売ったっていう」
「それが誤解だったんですって。それどころか、ずっと姫を探していたそうよ」
やがて楽隊が華やかな音楽を奏で始め、民衆が色めき立った。
婚礼衣裳を着たルイドバードが右手から現れた。慣習に従い、ルイドバードはフードで顔を隠し剣を掲げた黒服の従者を連れている。
誰かの口笛が鳴り響いた。憧れの王子の登場に、何人もの女性が悲鳴のような歓声を上げる。
左からリティシアが現われた。花嫁衣裳は準備する期間が十分とはいえず、さらわれる前の物より簡素だったが、飾りや刺繍が少なくごまかしが利かない分、逆にリティシアの持つ素の美しさを際立たせていた。フードで顔を隠し、花束を抱えた白服の侍女がうやうやしく付き従っている。
従者と侍女は隅に控えさせ、新郎と新婦がバルコニーの中央に立った。見守る民(たみ)達の歓声が一際大きくなった。カゴから手製の紙吹雪をまく者もいる。
「お帰りなさい、リティシア様!」
「おめでとうございます!」
民衆の祝いの声に、若い王子と王女は微笑んだが、緊張しているのか、どこかぎこちなさがあった。
余韻を残して音楽が止まり、その余韻も消えたころ、歓声も静まった。
神官がもったいぶった足取りでバルコニーの袖から現われる。二人と向き合う形になると、重々しく口を開いた。
「トルバド国の王子、ルイドバード。汝は創世と愛の神、ロアーディアの心臓に懸けてリティシアを愛することを誓うか。そしてロアーディアル国の姫、リティシア。汝は創世と愛の神、ロアーディアの心臓に懸けてリティシアを愛することを誓うか」
二人はゆっくりと口を開く。
その時、庭の前方にいる人々から、ざわめきが上がった。
「おい、あの光はなんだ?」
「え? どこ?」
祭壇の上に、小さな光の柱のような物が立った。その中に光の球が浮いていた。最初は目の良い者しか気付かなかったが、その光はだんだんと大きくなっていく。
当然、祭壇近くにいる三人が気づかないわけはない。新郎新婦は動揺しているようだった。
「私はロアーディアの心臓にかけて……」
二人の『誓う』の言葉をかき消すように、光の球は強く輝いた。
ルイドバードが背中にリティシアをかばう。
金色の光は、膨らみ、削れ、翼を持った人間のシルエットになった。ぼんやりとした光の固まりで、目鼻立ちははっきり見えないが、体つきから女性のように見えた。
いきなりの奇跡に、神官はぽかんと口を開けている。
「なんだ、あれは!」
まるで水面の波紋のように、見物人にパニックが広がっていく。
「天使さま、天使さまだ!」
腕の中で興奮した子供が叫びながら動き回って、母親が慌てて腕に力を込めた。
天使、というその言葉は、人々の間に波紋のように広がっていった。
「天使?」
「どこ? 見えない」
「あれだ! あの光っている奴!」
手の胸の前で組合せ、祈りだす者も出てきた。
天使は人々の注目を浴びながら、ゆっくりと唇を開いた。
「その誓いの言葉を言ってはならない」
低めの女の声にも、男の裏声にも聞こえる不思議な声だった。天使が何か話しているとに気付いた人々は、その言葉を聞こうと、魔法にかかったように口を閉じ、少しずつ広間はは静まっていく。
「ち、誓ってはいけない……なぜ?」
まるで大声を上げたら目の前の未知の存在が襲いかかって来るというように、ルイドバードは恐る恐る疑問を口にする。
その恐怖をなだめるように、天使は穏やかな声で言う。
「あなたたちのこの結婚には偽りがある」
不安と好奇心が混ざったざわめきが民衆を覆いつくした。
ルイドバードとリティシアは、驚いているようだが取り乱しはしなかった。
「我は女神ロアーディア様の使いである。我が主(あるじ)は、ご自分の子孫であるリティシアが間違った婚姻を結ぼうとしているのを、忍びなく思って我を使わされた。トルバド国王子、ルイドバード。そなたの花嫁はリティシアではない。そしてロアーディアル国の姫リティシア。そなたの花婿はルイドバードではない」
「どういうことでしょう?」
リティシアの質問に対する天使の答えは簡潔だった。
「汝はルイドバードを愛してはいない。そして、ルイドバードも汝を愛してはいない」
その言葉に、ざわめきは消えその場は静まり返った。その雰囲気に怯えたのか、どこかで赤ん坊が泣いている。
「愛のない結婚は、ロアーディア様を侮辱すること。そして神から賜(たまわ)る幸せを投げ捨てること。許される物ではない。ロアーディア様はご自分の子孫が不幸になるのを望んではいない」
天使は祭壇を降り、床をすべるように移動する。聖なる祭壇から離れたからか、その姿は小波(さざなみ)のように揺らめき、安定しない。天使はルイドバードの後に控えている従者の前に立った。
従者は畏(おそ)れ、敵意がないことを示すために剣を床に置くとひざまずいた。
「リティシア、汝が愛しているのはこの男。従者よ、顔を見せろ」
命じられた通り、男はフードを外した。
現れたのは、垂れた目に泣きボクロが印象的な優男(やさおとこ)。
その顔をもっとはっきり見ようと、民衆は爪先立ちをしたり、目を細めたりしている。
「誰だ?」
「あいつ、どこかで見た覚えが……そうだ、道化だ。姫専属の!」
「ラティラス? あれが噂の?」
ラティラスは、ひざまずき、目線を落としたまま動かない。
天使の形をした幻影は、今度はリティシアの侍女に歩み寄る。
侍女は花束を抱えたままひざまずいた。
「ルイドバード、汝が愛しているのはこの女。侍女よ、顔を見せろ」
同じように促され、侍女の一人がフードを取ると、現れたのは他の者がみなれない少女――ファネット――のはにかんだほほ笑みだった。
「バ、バカな! そんな小娘が! ルイドバード王子の花嫁とは!」
職業に似合わない言葉を、トルバド人の神官が吐いた。
「控えよ、無礼者!」
相変わらず不思議な響きを持つ天使の声が神官を制した。
「永い時の中で、王家の直系からこそ外れたものの、この娘、ファネットは女神の血を引いておられる」
海鳴りのように驚きの声が響く。
天使は、女神の子孫に敬意を表し、ファネットに対し小さく礼をとった。
女神の使いが、ただの小娘に礼をするなどありえない。それこそ、本当に神に認められた者でないと。
「かくして全ては正しき場所に収まるだろう。姫は道化と、王子は町娘と。ちぐはぐのようだが愛の女神の御名(みな)においてはこれがあるべき姿」
「……奇跡だ」
誰かが呆(ほう)けたように呟いた。
「あ、ああ、んん」
仕切り直しをしようとしているように、神官は咳払いをした。
「それでは、女神ロアーディアの名において、リティシアとラティラス、ルイドバードとファネットの婚礼を始める」
会場を揺るがすほどの歓声が響いた。
誰かが全体に響き渡るほど大きな声で叫ぶ。
「トルバド国とロアーディアル国よ、永遠(とわ)に栄えあれ!」
その様子を見届けると、天使はゆっくりとうなずいた。天使の影は現われた時を逆にたどるように、光る金の塊(かたまり)となる。その光は広がり、溶けるように消え失せた。
女神に使わされた天使が、互いの想いを押し殺し、望まぬ結婚をしようとしている恋人達を救った。
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