彼女は世界を抱いている

三塚 章

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彼女は世界を抱いている5

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 俺は憎たらしく嗤(わら)ってみせた。
 ほんのわずか、男は不快そうな顔をしてみせた。
 その表情に気づかないふりをして、俺は続けた。
「それに卑怯ですよね。背後からヒモで首を絞めたんでしたっけ。女を一人殺すのに後ろからって」
 嗤いを含んだ俺の声に、名前も知らない男はもっと気分を悪くしたようだった。
 不快さを隠さない声で、こう言ってきた。
「いや、僕は正面からナイフで一突きってきいたけど」
 きっとそのとき、俺はにやりと笑っていただろう。
 若葉を殺した凶器は、まだ発表されていない。間違いなくこいつが犯人だ。
 俺はポケットに隠したスタンガンを指先でさぐった。

 俺は茂みに隠していた大きなトランクにその男を詰込み、廃ビルに転がしていった。
 さすがに屋上で運ぶのはむりで、エントランスで若葉を呼ぶ。
「ほら、おみやげ」
 トランクの鍵を開け、中身を床に転がす。気を失い、両手を結束バンドで縛られている犯人は、ごろっと半回転した。
 自分を殺した犯人を見た若葉は、少し怯えたようにあとずさった。
「大丈夫だよ、縛ってあるから。それに気を失ってる」
 俺は腰をかがめ、宥めるように手を撫でた。
「仇をとったらどう? 君にはその権利がある。もし君がこの男を絞め殺したとしても、警察は真犯人を見つけられないよ。まさかバラバラ死体の手がやったなんて分からないだろう。もっとも、俺がここにこの男を運び込んだのはバレるかも知れないけど」
 若葉はしばらく考え込んでいるように動きを止めていたが、次の瞬間にはクモのように犯人に飛び掛かった。
 若葉は血管が浮き出るほどギリギリと犯人の首を絞めあげた。蒼白い男の顔が赤黒く膨らんでいく。
 人が死ぬ所なんて滅多に見られるものではないので、俺は見学を決め込むことにした。
 ブチッという音がしたと思ったら、いつの間にか縛めを解いた犯人が両手で若葉を引きはがし、床に叩きつける。無理に引きはがしたせいで、奴の首に指の真っ赤な線がついていた。
 男の手には、いつの間にか銀色のナイフが握られていた。
 気を失ったときにボディチェックはしたのに!
 犯人が立ち上がった靴音で、俺にはわかった。あの季節外れのごついブーツ。暗器のようにブーツの中に隠していたのだ。
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