階層

海豹

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階層ゲーム前

4 謎の男、本

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 来た時と同じ通路を通る。古い箱にランプを戻し、小走りでトンネルを抜けた。
ハシゴを登り井戸の蓋を慎重に開ける。誰かに見られると不審に思われ冷たい目を向けられるに違いない。誰も近くを通ってないのを確認すると重い蓋を開け外に出た。ため息をつき辺りを見回す。誰もいない。
安堵し、歩き出そうと左足を地面に伸ばした瞬間。

「おい!」「そこの君!」

 低い声が背後から聞こえた。
振り返ると険しい目つきをした中年の男がこちらをずっと見ている。気味悪く感じ無意識に駆け出してしまった。無我夢中で階段を降りていると、背後から凄い勢いで男が追いかけてくる。思わず近くの公衆トイレに駆け込んだ。洋式トイレの扉に鍵をかけ息を潜めた。ゆっくりと男の足音が近づいてくる。それは、自分がいる扉の前にまで来て止まった。
「何ですか、、?」
男は黙ったままだ。
「何もしてませんよ、、」
鼻息が荒く扉越しにも聞こえてくる。
「すいません、一体何の用なんですか、」
それから五秒ほどの沈黙があり、男は発した。
「いつから知ってた。」
「え、?」
「何が?」
「・・・」
「いつから、あの場所を知っていたかと聞いているんだ。」
大きな声で男は怒鳴った。
「四年前大学の帰りに偶然見つけて、、」
「中で何をしていた」
「何って、廃墟なんて珍しいから見回ったり、落ち着くからぼーっとしてただけですよ。」
「本当か?」
「ええ、本当ですけど」
少し男の口調が優しくなった気がした。
「ならいい、でもな、あまりあの廃墟に近づくな。」
「いいな、?」
「え、何で、、」
「いいなと言ってるんだ、」
「あ、はい、」
男の足音が遠ざかって行く。
一気に緊張がほぐれ、ため息をつく。
あれほど緊張したのは何年振りだろうか。
個室の壁に手をつけもたれる。すると、手に冷たく固い感触が伝わってきた。金属の感触。ふと、廃墟の教室にあった金属製の扉が思い出される。さっきまでの疑問と繋がり、思った。あの廃墟には何か深い過去があるのではないかと。自分は急いで個室を出たが、もうあの男は姿を消していた。残念でもあったが安心が勝っていた。
 
 疲労を感じたので帰路につき、家のベッドに横たわる。時計を見ると三時五分を指していた。「あと6時間程度か。」
何故か家にいると焦燥に駆られるような感覚になるので、一旦近くのショッピングセンターに付属で付いている本屋に行くことにした。 
 中に入ると、すぐさまミステリーコーナーへと足を運ぶ。小説はやはりミステリーやサスペンスに限る。そういえば会場には二つの電子機器以外の持ち込みが許可されていた。ならいっそのこと、ここで本を買ってそれとサバイバルナイフの二つを持っていこう。スマホを持っていけないとなるとさぞかし暇だろう。少し分厚い本を選ぶことにした。
 〈天使の牢獄〉
特に表紙が良かったわけではないが、題名に惹かれ手に取っていた。

 メールを見たところ、集合場所の地図が送られており、自分の家から20キロ程離れたとある公園の前らしい。駅が近くにあったため集合場所までは電車で行くことにした。
まだ時間があるので先程の公園でこの本を読むことにしよう。

 時刻は午後四時半、黄昏れながら歩いていると、公園から目と鼻の先にある喫茶店の窓に一瞬見慣れた顔が見えた気がした。
引き返すか迷ったが早く本を読みたかったこともあり公園に向かうことにした。
 公園の階段を上り屋根のあるテーブルベンチを探して視線を向けると、奇妙な光景を目の当たりにした。そこにはなんと、先程自分をつけてきた男が泣き伏しながらテーブルに拳をなん度も叩きつけているのだった。
 その行動に自分はこの男の頭がイカれていると理解し、数時間前に持っていた、この男と喋ってみてもいいかもしれないという好奇心はかけらもなくなっていた。その場を立ち去ろうと考え背を向けたその時、背後から「み、みか、みか、なぜ、なぜなんだ、、」「みか、なんで、酷い、酷すぎる」と女性らしき名前を何度も呼びながら泣き散らかしているのだ。
その言葉に、ただのイカれ野郎ではないのかもしれないと感じ、近くにあった小型のベンチに腰を下ろして様子を伺うことにした。 
 すると、何やら写真のようなものをポケットから取り出して額に擦り付けて枯れた声で「なぜお前が死ななければいけなかった。」と発し写真を見つめている。
 やはりこの廃墟となんらかの関連があるのだと男の反応から考察した。
その時、いきなり男が振り返った。
一瞬驚いた表情をしていたが、真顔になり
こちらをずっと見つめ唇を噛んでいる。それから5秒程見つめ合い、男が発した。
「まだ、いたのか」
いきなり話しかけてきたため少し戸惑ったが、すぐに冷静を取り戻した。
「まぁ、はい」
「さっきは悪かったないきなり追いかけて」
「いや、大丈夫ですよ」
「何かあったんですか?」
この男はあの廃墟について何か知っているに違いない。
「まあな、昔の話だ。」
「良かったら聞かせてもらえないでしょうか?」
「・・・」
「わかった、少しならな」
少し拒んだように見えたが、脱力したように溜息をつき聞き入れた。

 少し暗くなった気がした。
「これはまずい、結構降るな」
男は上を見上げて険しい顔をしている。空を見上げると分厚い雲がこちらに向かってきている。
確かに今は梅雨の真っ只中であり雨が多く湿気に満ちている。
「喫茶店にでも行くか?」
時刻は午後五時。集合まであと四時間。
まだ時間はあるため喫茶店に行くことにした。












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