階層

海豹

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階層ゲーム前

5 残酷な真実1

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 「カラン、カラン」
古い喫茶店によくあるドアベルの音色が響く。
窓側の席は人でいっぱいだったため中央近くの席についた。
男はブラックコーヒーにレアチーズケーキを頼み、自分は、この体質でも好んで口にすることができるルイボスティーを頼んだ。
「君、それだけでいいのか?」
「あ、今あまりお腹空いてなくて、」
「そうか。」
人と食事をする時はいつもこれを言われもう慣れたものだ。
「藤森という。君は?」
「佐海です。」
「佐海、」
「下は何という?」
「功治です。」
「功治か、」
「なるほどな、」
なぜか眉間にシワを寄せてこっちを見てくる。
「どうしました?」
「いや、年齢を聞いてもいいかな?」
「24ですけど。」
「24、!?そうか24か」
明らかに怪しい表情でこっちを見てくる。
「この地域に住んでいるのか?」
「まあ、近くですけど。」
「いつから?」
「18の時に大学に通うため近くのアパートに、、」
「その前にここに来たことは?」
「ないですけど。」
「・・・」
「なるほど」
「いや、少し昔を思い出してしまってね。」
「忘れてくれ。」
それから5秒程度藤森は斜め下を眺めていたので自分も質問することにした。
「あの、さっき聞こえたんですけど、みかって誰ですか?」
藤森は露骨に肩を引き自分を睨むように見つめてきた。
「聞いてたのか?」
「いや、少し聞こえてきて、、」
「そうか、」
男は溜息をつき、落ち込んだ様子を見せたがすぐに開き直り話を続けた。
「まあ、聞こえていたなら隠さず説明する。」
「あの廃墟の事件は知っているか?」
「事件?いや、全く」
「あそこはな、10年前まで中学校でな」
藤森の低い声をかき消すように雨が激しく地を叩き、いっそう外が暗くなったように感じた。
「私の娘が通っていた。」
「藤森美香当時14歳だった。」
「とても真面目で成績優秀、それに心が優しく友達や教師からも愛されていた。」
「そんな彼女が、とあることをきっかけに変わっていったんだ」
「とあることとは?」
 いつ頃からだろうこの症状が現れたのは。幼い頃の記憶、詳しく言うと幼児期の記憶は結構残っている。しかし、小学校高学年から中学にかけての記憶が異様なほど欠如しているのだ。特に中一、中ニの記憶はほとんど無いと言っても過言では無い。思い出そうとしても、頭に煙霧がかかり出てこない。しかし、一つだけ脳裏に微かな記憶がある。一人のとある少女とずっと行動を共にしていた記憶だ。明確には出てこなければ夢かどうかも曖昧だ。それでもその子とは強い絆で結ばれていたような気がする。
「ルイボスティーでございます。」
藤森の話を遮るように注文していたものが運ばれてきた。
 藤森は話を止めレアチーズケーキを一口サイズに分割し口へ放り込んだ。それをコーヒーで流し込み、また険しい表情でこちらを見て話を続けた。
「いじめだよ。」
「いじめ、?」
「ああ、いじめだ。」
「美香はあの日からいじめを受けることになった。」
「なぜ?美香さんは皆んなから愛されていたんじゃ、」
「いや、人なんていくらでも裏切る。」
「特に、自分より優れているものを潰せるとわかればいくらでもやるさ。」
「仲間でもなんでもなかったんだ、あいつらはただ偽善者ぶって優秀な美香にくっついていただけだ。」
「嫉妬していた奴も多かったのだろう、いじめは他クラスにも広がった。」
「そんな、なぜ、何がきっかけだったんですか?」
「功治君はエボルヴ社を知っているか?」
「あ、たまにニュースで見ます。」
「なんか、認知症を完治させる人類初のmRNA医薬の開発に成功したとか、」
「そうだ、あの薬品開発で有名な国際的大企業だよ。」
「それとどう関係が?」

「エボルヴはあらゆる実験を行い、人間の脳を進化させようと試みていた。」
「居場所のない孤児や死刑因に許可も取らずに違法な人体実験を行なっている。」
「いや、でもそれは法律で取り締まられるはずじゃ、」
「ああ、でもな、捜査はされていない。」
「なぜ、?」
「エボルヴは国が対処できないほど危険なウイルスを所持している可能性が高い。」
「それを企業側は政府にちらつかせているんだ。」
「もし、自分たちの邪魔をすればそれなりの犠牲を払わせると。」
「しかし、政府も軽く応じるほど馬鹿じゃないからな、全国の研究者を集い抑止力を作ろうとしている。」
「でも、エボルヴは海外の企業じゃ、」
「ああ、ドイツ生まれの企業だ。」
「じゃ、それはドイツに日本側が脅迫されているという考え方になるんじゃ、」
「その通りだ、でもな、エボルヴが行っている悪行の確固たる証拠が何一つ見つかってないんだ。」
「だから、ドイツ側もエボルヴは安全な企業だと言い張っている。」
「捜査はされているんですか、?」
「ああ、FBIが何度も研究所に出向いているが怪しいものは何一つ見つかってない。」
「それに加えて、医療関係はあの企業の突出した科学技術に頼らざるえないのだよ。」
「科学技術だけじゃない、日本の経済も安定させる要因の一つだ。」

「でも、エボルヴが悪行を行なっていること自体がデマだという可能性はないんですか。」
「ああ、ない。」
「なぜ、?」
「俺の親友が殺されたからだ。」
「え、!」

その瞬間眩しくて思わず目を瞑った。
喫茶店の窓から見える暗かった町が真夏の昼のように明るく照らされ、それに続いて鼓膜に大きな衝撃が走った。




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