階層

海豹

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階層ゲーム前

9 集合

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 電車の車内は落ち着く。どこか懐かしさを感じると言ったほうがしっくりくるのかもしれない。この静かな空間で呆然と窓の外を見て、混沌とした世界に存在する幾多の理論について考えることが何よりの息抜きである。
特に夜間の電車は格別だ。自分は昼間の絶えない気苦労に対して、特に不都合はないと見えるように平静を装う。その、蓄積された疲労を刹那な間ながら、この静けさだけは癒してくれる。率直に言うと夜の電車内が好きだ。
またもや、いつものように思案を巡らせ始めた。
 現在の日本ではゲノム編集ベイビーの容認はされていない。エボルヴ社を所持しているドイツも同様だ。
ゲノム編集とは、ゲノムを構成するDNAを切断しゲノム修復機構の修復ミスをわざと引き起こして、突然変異を利用して目的に合った性質を持つ生物を作り出すことだ。大学時代は農学部に所属しており、生物知識はそれなりにあるためゲノム編集の危険性も熟知している。
 もし、藤森が言っていた違法な実験というやらが存在するとするなら。エボルヴはゲノム編集ベイビーなどいとも簡単に誕生させることができるだろう。いや、もっと恐ろしい生物兵器をも作ることさえ可能だ。
そんなSF映画のような実験が現実で行われているとは考えにくい。それに、あの様子では、藤森が陰謀論を信じる陰謀論者である可能性も高い。そういう馬鹿げた事を考えていると、目的の駅まで到着した。
 雨は止んでおり借りていた傘、いや盗んだ傘は駅のホームに置いていった。
スマホの地図で確認しながら、徒歩10分ほど歩くと目的地の公園が見えてきた。
周辺は少し田舎で、周りにはちらほらと家があるが畑や水田が比較的多いように感じた。公園内は灯りが多く、暗い田舎で大きく目立っていた。
目を凝らすとそこには50人ほどの老若男女が集まっていた。若者といっても、もちろん18歳未満は参加できない。申請の際にそう説明された。スマホの時刻を見ると午後八時五十分だった。結構ギリギリで冷や汗をかいたが間に合って良かったと肩の荷を下ろした。
 集合場所まで行くと、従業員と思われるスーツを着た男女3人が笑顔で受付をしていた。自分はメールに届いたQRコードを見せて手荷物を預けた。それに、番号の書いたシールを渡され左胸に貼るよう指示された。
皆公園内で待機しているらしく、自分も公園内に入った。とても広くトイレや遊具まで設置されていた。辺りを見回すと、高校生らしき制服を着て笑い合う女子二人組や、明らかに怪しいフードを被り座り込んでいる男、それに相当高齢と見える白髪の男性など様々であった。だが、見た感じだと自分くらいの年代の男女が多いように感じた。
皆スマホを含めた所持品を預けているため見るからに暇そうである。人々の様子をじっくり観察していると適当に歩き回り散策している者や、トイレを行ったり来たりして落ち着きのない者、空を見上げて動かず物思いに耽る者に、近くの同性に話しかけ自己紹介をしている積極的な者、それに加え、ニヤニヤとした顔で女性ばかり狙って話しかけ、その全員に嫌がられて相手にされない哀れなキモ男など様々であった。
先程、一瞬見た感じでは50人ほどに見えたが、公園の奥の方の者達も合わせると100人近くはいるように思える。
そんな自由時間も束の間、近くから声が聞こえた。
「皆さん、出発の時間になりましたので、集合してください。」
どうやら従業員の男性がメガホンで集合するよう合図を出したようだ。それを聞いた人々がぞろぞろとこっちらへ向かって歩き出した。もちろん自分も含めて。
斜め前の広い駐車場を見ると、二台の60人乗りらしき大型バスが二台停車していた。そして、従業員の男女10人ほどがバインダーに閉じた紙と人々の胸に貼っている番号の書いたシールに目をやりながら淡々とグループごとに分けていく。実際こんなに参加者がいるとは思わず、少し安心している自分がいた。










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