階層

海豹

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階層ゲーム

17 悪魔の立方体

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頭の中を混ぜられたようなシュワシュワと溶けるような感覚が今もなお続いている。
情報量が多すぎて、心の準備が整わない。
「巫さん、自分の右脳は機械なんですか?」
「え、!」
「功治さん」
「ついに思い出したのですか!」
「あの日のことを!」
「え、」
さっきの夢が真実ではなく、ただの"夢"かもしれないという疑念は一瞬にして消え、確信へと変わった。
「あ、いや、」
「その、なんて言ったらいいか」
「信じ難いと思いますけど、」
「さっき、寝ている時に、明晰夢のようなものを見ていました。」
「その夢の中に、高校時代の彼女が現れて自分の過去について語りあったのです。」
「なるほど、」
「そういうことでしたか。」
「それは、ただの明晰夢ではなく意図的に見せられた夢ですね。」
疑惑の目を向けられ、小馬鹿にされるかと思っていたが、何一つ疑うことなくあっさり受け入れられ、内心驚いていた。
「その彼女さんはなぜあなたの過去を知っているのですか?」
「それが分からないんです。」
「高校時代は中学時代の記憶が無かったので、自分の過去を話したことはありません。」
「そうですか、」
「なら、絶対に守って欲しいことがあります。」
「絶対に守って欲しいこと?」
「はい。」
「その彼女さんの言ったことを完全に信じないでください。」
「え?」
「もちろん、彼女さんが全て嘘をついているとは言いません。」
「全て真実かもしれませんし、一部だけ真実かもしれません。」
「それは、私には分かりませんが、語り合った内容全てを信用することだけは絶対に辞めてください。」
「あなたの脳に直接的に接続できる人物は限られています。」
「現在、あなたの彼女さんがどこにいて、どういった組織と手を組んでいるのか分かっていない限り、鵜呑みにするのは非常に危険です。」
「これから先、彼女さんと接続されることが幾らかあるかもしれません。」
「彼女さんから聞いた話しは、一つの意見として聞き入れ、深く捉えないでください。」
「約束ですよ」
眉を顰め、小指を突き出してくる巫さん。その姿から気迫を感じる。
「分かりました。」
そう言って、自分も小指を突き出し、巫さんの小さな小指と、絡め合わせ上下に振った。
「功治くん」
「私は、出会ったあの時からずっとあなたのことを信頼し、尊敬しています。」
「だから、あなたが困った時は必ず私を頼ってください。」
「いいですね?」
巫さんはにっこりと笑顔を作って見せた。
「はい、」
久しぶりに人から認められたような気持ちになり、安心感を覚えた。
何の変化もなく、只々時だけが過ぎていくあの日々を思えば、この突発的に色々なことが起こる生活も、悪くないかもしれないと思い始めている自分がいた。
「功治くん」
「はい、」
「さっきも言いましたが私はあなたを信じています。」
「あなたが困難を強いられた時、必ず助けると約束しましょう。」
「一方であなたは、私を信じられますか?」
「え、」
「どうして?」
「質問に答えてください。」
「信じられますか?」
「いや、そう、いきなり言われても、」
「それは、信じられないと捉えてよいのですか?」
「あ、いやいや、そうじゃなくて」
「なら、信じられますよね。」
「まぁ、はい。」
「では、今ここで私の言うことは絶対に信じると誓ってください。」
光一つなく、一度入れば二度と抜け出せないブラックホールのような、漆黒の眼で自分を見つめてくる。
自分を信じると約束してくれた巫さんに対して、自分だけ背くのは気が引けた。
「え、」
「まぁ、分かりました。」
「じゃ、自分は巫さんの言うことを絶対信じると誓います。」
「ありがとうございます!」
「今、凄く強い絆で結ばれた気がしましたよね!」
巫さんの機嫌を損ねないよう、軽く頷いておいた。
「よし、それじゃ早速、私の言うこと信じてもらいますよ。」
「え、どういうことですか?」
「え、何がですか?」
「今、誓ったじゃないですか。」
「だから、私の言うこと今から信じてもらうのですよ。」
強引に誓わせておいて、何を言い出すのかと恐怖を覚えた。
「功治くんは、今から少しの苦しみを味わうと思いますが耐えてください。」
「いいですね?」
「はい?」
 ポケットから何やら、一辺が2センチほどの茶色の立方体を取り出した。
そして、にっこりと微笑む巫さん。
「あなたは長い間肉を口にしていないので、体が拒絶反応を起こしますが少しの間なので我慢してください。」
「私を信じられますか?」
「信じられませんよ、」
「なんですかそれ、苦しみを味わうってどういうことですか、」
「誓いましたよね?」
巫さんの美しい目が死んだ魚の目に変化した。
そんな目をされても、得体の知れないものを体に入れることは絶対嫌だ。
苦しみを味わうなどと言われれば余計に体が拒む。
「なら選んでください。」
「自分で食べるか」
「私に無理矢理食べさせられるか」
「いやいや」
「そんなの、どっちも嫌です」
「そうですか、なら後者ということで。」
「ぐご」
その瞬間凄い力が頬の筋肉を圧迫する。
顎を掴まれ力が入らない。
瞬く間に立方体が口の中に移された。
立方体が舌に触れる。
舌から脳に向かって電気が走ったように痺れる。
目から血が吹き出しそうなほど瞼が開く。
全身が燃えるような激烈な痛みと共に、ミミズが口内を暴れるような不快感。
巫さんが口を右手で塞いでいて吐き出すことができない。
このまま逝ってしまうのではないかと全身の焦りを感じる。
押さえられている右腕を、振り払おうと腕を引くがびくともしない。
もう暴れるしかないと思い、腕を振り上げた時、空いていた左腕で押さえ込まれた。
「ぐぐ、ミシ」
凄まじい力、腕が折れそうなほどの握力。
これほどの力が、細身の体に隠されていたとは想像もしなかった。
「噛め」
「早く噛め」
押さえつけられているからか背骨が痛い。
もう今の自分に抵抗する力は残っていなかったため、言われた通りに立方体を噛みほぐす。
舌が熱い。不味くて不味くて耐えられない。吐き気がして、今にも嘔吐寸前である。噛めば噛むほど不味さが増すため、飲み込むことだけに意識を移した。
やっとの思いで飲み込む。
全身が痺れ、痙攣している。
「はい、よくできました!」
「功治さん、頑張りましたね」
もう駄目だ、ついていけない。頭の中は家に帰りたい一心だった。
「今の立方体は功治さんの能力を引き出すための媒介です。」
「あの立方体は、およそ十分程度であなたの体に作用します。」
「五分後には、ニューロンの拡大、シナプスの分裂が始まり、通常時の三倍程、脳神経が活性化されます。」
「現在のあなたの推定IQは133ですが、十分後には推定IQ190まで上昇するでしょう。」
「その他の能力も出現しますが、今は時間が無いので説明は後でします。」
「あ、あと、このペアの推理問題は功治くんが寝ている時に私が作っておきました。」
「功治くんは、このバスの中にいるペアの推理問題を解き、無双してください。」
「詳しいルールを把握してもらいたいのでこのプリントに目を通してください。」






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