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階層
33 ロジック
しおりを挟む「第三形態、打撃特化形成。」
「身体核融合を七十分の一まで落とす。」
損傷が激しく微動だにしない右脚を引きずりながら地面を這いずる。
この苛烈な戦いによって精神崩壊を起こしている自分自身を見直し、解決策に難儀する。
しかし、焦りと恐怖に支配された今の自分に、解決策どころか逃げる手段すら見当がつかない。
ましてや、生命を維持するのに精一杯である自分にとって、この容赦のない狂った女から朝陽を擁護することなど言うまでもなく不可能である。
「それでも駄目なんだ。」
「ここで、やらなきゃいけないんだ!」
「どうした功治?命乞いか?」
恐怖や痛みによるものではなく、絶対失いたくない何かが自分を奮い立たせ涙が溢れる。なんとか力を振り絞り立ち上がる。
「自分は無力感に苛まれるながら、朝陽が生贄として斃れていくのをただ茫然と眺めることしかできないのかもしれない。」
「もし、それが決められた運命なのだとしても、」
「それでもやるしかないんだ。」
「勝てる勝てないじゃない、ここで自分はお前に立ち向かわなくちゃいけないんだ!」
「それが、人としての尊厳であり、絶対見失ってはいけない道理なんだ!」
「お前みたいな冷酷無慈悲な狂者には分からないかもしれない。」
「こんな惨めで無様な自分を人々は笑い愚弄するかもしれない。」
「それでも、誰が何を言おうと自分のロジックを今もこれからも曲げるつもりはない。」
「だから、自分は今ここでお前を叩き潰し朝陽をこの地獄から救う、それだけだ。」
「パチパチパチパチ」
血だらけで泣きながら威勢を張る自分に満面の笑みで拍手をする教祖の女。
そして、軽蔑したような口調で発する。
「なら、やってみろよ。」
「ブシュ、バキバキ、ゴキィ」
「ブチブチブチ」
そう言った次の瞬間、核分裂によって莫大な熱量を持った女の腕が自分の膵臓を貫き、硬化した踵で自分の左膝を粉々に粉砕する。
「ブシュ、ボト」
全身全霊で拳を振るうが高熱の手刀で吹き飛ばされ血飛沫と共に右腕の肘より下が宙を舞う。
自分は血を吐きながら蹌踉めき、近くにあった鳥居にもたれかかる。
「そこまで腐ったか功治。」
「昔のお前には程遠い、いやむしろ別人だ、悪魔が取り憑いている。」
「そこまで闇堕ちしたものには、いくら神のご加護があろうと改めることはないだろう。」
「違う!自分は間違っていない、悪魔はお前だ!お前、、ブチ、バキバキバキ、」
上顎から下顎にかけて口周辺を片手で筋肉ごと粉砕され喋ることすらできなくなった。
熱線によって貫通した右脚の傷がようやく治癒されるが、全身の再生が格段に遅くなっているのが分かる。
「なあ、功治。」
「お前は突出した再生能力を保持しているが、ここを潰されるとどうなるか知ってるか?」
そう言って戦慄している自分の頭を突く教祖の女。エネルギー切れからか青白く燃え盛っていた女の皮膚が赤く変色した。
「おっと、すまない愚問だったようだな。」
不気味な笑みを浮かべ、掠れた炎で手刀に力を込める教祖の女。
「安心しろ、お前の肉は私が美味しく頂く。」
「よってお前の命も、生贄となるあの女の命も無駄は無かったということだ。」
「どうだ?福音だろ?」
「うぉおお、ぐぁあがぁぁあー」
叫ぶことしかできない口で、見苦しく暴れるがこの女にとって情けというものは存在しないらしく少したりとも表情は変わらない。
「もういい、暴れるな。大人しく諦めろ功治。」
「それでは、お前の頭を開いていく。」
そう言って教祖の女は限界まで熱された手刀を翳し振り下ろす。
自分は一心不乱に頭へとエネルギーを送り、頭皮を瞬時に硬化させる。
しかし、数千度に及ぶ熱量が数秒に渡って晒される現状に硬化如きが耐えられるはずもなく、火花を飛び散らせながら硬化された頭皮を切り裂いていく。
もう少しで頭蓋骨に到達する直前で右腕が再生されたため、食い止めるように教祖の女の腕を抑え、覆い被さる。
しかし、それも束の間、眼球熱線によって一瞬で左右の腕を吹き飛ばし膝で抑え込まれ逃げ場を失う。
手刀は頭蓋骨に到達し、意識が朦朧とし始める。
「さあ、これで終わりだ功治。」
「私の血と肉へ化せ!」
そう言って手刀を頭蓋骨内部へ入れようとした瞬間、教祖の女の首が吹き飛び頭が宙を舞う。
吹き飛ばされた首からはコミュニティールームにあった綺麗な噴水のように血が吹き上がる。
吹き上がった血が、意図せず開放された自分の口へと下垂れ落ち、喉を通り身体に吸収されていく。
それから数秒で、損傷部の再生により膵臓とその周りの筋肉が自動的に修復されていく。
それが終わると、左右の腕の骨が煙を上げて伸びていき、その周りに筋肉や皮膚が張り巡らされていく。
そして、血中酸素濃度が上がり呼吸の安定と視界の曇りが改善され辺りがはっきりと認識できるようになっていった。
視界の改善により、首を吹き飛ばされた教祖の女の後ろに人影がいることに気づき目を凝らす。
視界が完全に安定し曇りが消えると、そこにはナイフを手に返り血を浴びた柊さんの姿があった。
顔や身体を真っ赤に染め眉間に皺を寄せた柊さんは呼吸を荒げ自分を見つめている。
よく見ると、その手には自分がmから貰ったサバイバルナイフが握られていた。
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