自分観測ヒルガオの誓い

蒼都輝樹

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一、星矢の照らす世界

第五話・昼夜騒動 (改訂)

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本編とは場面が変わります。

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都会の轟音や騒音、
それを一切通さない。

重々しいシェルターに
囲まれたこの軽い空気の中、

二人の研究員と一人の被験体がいる。

研究室長である戸上は、
ひたすら流れるWarningの文字を
目で追い続けていた。

「やはり、自覚が早いぞ…」

このシステムの助手を務める
神崎は、既に訂正用のプログラムを
半分作り終わり、

肩を回してリラックスしていた。

「戸上さん、８時間かかるって言った
   さっきの話、半分で終わります。
   なのでちょっと休みまーふぅ。」

メガネをへし折りたいくらいの
彼にとっての小さな怒りは、

目の前のカプセルにいる男性を見て、
ミクロ程度に多少はマシになった。

資料を取り出す手が
日に日に重くなるのを我慢しつつ
最大限に優しい言葉を戸上はかけた。

「できる限り早く終わらせろ。
    あと次の自立プログラムには、
    余計なことをさせるなよ！」

飴を噛みながら、首をかしげる助手に
落雷警報は解かれたものの、
以前、少年は危険な状態だ。

「次で、三回目だ。
   頼むから成功してくれ…」

「戸上さん、祈るものではないですよ。
   人って科学で説明できるものでは
   ないですから。」

助手は軽い気持ちで、
得意げに返したつもりだった。

「最初の成功になるための、
   形式的なものさ。」

(………。)

神崎は、そう言って悲しい目をする
戸上を見計らって、

プログラムを颯爽と完成させた。

うまくいくと考えて、
少し訂正も加えて…。

そのプログラムファイルを
戸上が調べて、
彼の寿命が事実縮んだ。

「なんだこの容量は？！」

彼を見つめる目がどうしても
許せ切れてない。

「自律組織は、消せないんで、
    ギリギリまで接触しないように
    複雑にプログラムしたんです。
    念には念をというやつです。」

「しかし、こんなことして仮に
    成功しても、まともな人間で
    居られるのか？」

「それもこれもまた、
    考えもつかない人間の真価の世界。」

(………。)

戸上は、この際それでもよかった。
と言い聞かせて、実行ファイルに移植。

無言でPCが働くのを確認して
彼は目薬をさして
近くのティッシュを探す。

その一方で
「第四夜まで」と記録をする神崎は、
こだわりのブラックコーヒーを

手の近くに置いて、
何度も匂いを嗅ぎながら
目を下に向けてる。

その無機質な眼差しには、

人生というデータをデータとして
見る目がただあった。

構築された世界だから、
何度も作ればいい。

偽物だから、価値を否定していい。

そうゆう目をする神崎を
戸上は知っていて、
知らないふりをする。

戸上の知らないところで、
負荷は既に「少年」にかかっていた。

いないということ。

それは同時に、
自分がいることを
自覚させるという負荷でもあった。

戸上の目的は達成されていたが、
神崎の目的も成功していた。
だからこそ結果、失敗したのだ。

私と僕は、そこから生まれ、
ループする。
外の人間には、一方が認知されない。
記録だけではわからない。

その危険性は、戸上も知っていた。
無論、最初っから神崎も知っている。
だから、あえて、そうした。
そうでもしなきゃ…。

二人の葛藤は、互いを知らずに許す。

個人的葛藤には、
知らずに犠牲者がつきものだ。

それは、その人自身とも限らない。

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記録を見返す戸上は、相変わらず
報告書を斜めに見ていた。

(時間通りに"AI長澤"に会ってる。
"私"の動きは、予想通り。
それなのに、どうして失敗を…)

プログラムは情報上
うまくいっているのに、
違和感を感じずにはいられなかった。

そう思いながら、
目の前にいる「長澤南穂」に目を向ける。

白い眼鏡が、日光に照らされて
綺麗な目線を戸上に無理に送っている。

不安を隠したその白い表情は、
脆い殻を持つ卵同然だった。

長い沈黙がその場を包む。

その女性を目の前にして
冷ややかな汗が背中に集まる。

そのバランスを崩すのは不意なことだった。

「夫は今は…？」

急な第一声に、思わず、
戸上も振り向く。

思わずぎょっと目を走らせる。

が、同様に

まだカプセルに彼はいる。

たかが数メートル目と鼻の先に
ガラスでここからは仕切られた場所。

まだWarningは消えておらず、
彼は紅い光に照らされている。

まだ、安心できないと
自分に言い聞かせるあまり、
崩れかけている彼女に
気づくのが遅れた。

慌てて、手を出して
かける言葉に自信が持てず
立て直しながら
必死で言った。

「彼は、大丈夫です。
   命の別状はなく、機械の不調で
   一時的に寝てるだけです。」

ゆっくり顔をむけてみると

何かわからないが伝わるのが
感じられたのか。

「そうですか…」

張られた糸が、切れたように。
腰が抜けた途端に、

彼女は下に…。

黒い髪が、宙に舞うのを
まるで見ていたかのように、

彼は、無意識に顔を向けていた。

それを見られていたように
彼女も意識し、

白く微笑んだ。

その場は大して変わってないものの

状況は変わらないものの、

どうにもならないことに安心して

彼女は、突然部屋を出て行った。

とりあえずだが、

戸上は修羅場を通り抜けた。

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(プログラム再起動…
対象者    :城山誠
使用AI    :長澤南穂
指定期限:1週間…)

ディスプレイが文字を表示するとともに
ハードがうねり音を上げ始める。

その機械的な文を

神崎が確認をそれなりにしてる中、

戸上は、ピクリとも動かなかった。

近くには目薬が転がっていて

タオルが何枚も積み重なっている。

彼は、疲れた目を保冷剤で冷やして
目を覚まそうとひたすら横になる。

辺りが暗くなった頃

カプセルの赤い電灯は消えて、
蒼い光が点き、

またまた、それは始まる。

戸上はそれをただ祈っていた。

神崎は、興味無さげにただ見ていた。

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真っ黒な視界はすぐに開ける。

引越し先の部屋の天井に、
まだ見覚えが持てず、

違和感が多い中、

新たな朝が来る。

糖塩水は、逆さになぜか置かれており、

開けた覚えのないカーテンからは

つめたい太陽光がさしている。

(4月ってこんなに寒々しいのか…)

腕を組んでは震えてる中、

足を動かして、なんとか目をさます。

今日で、またまた新しい学校に、

遠い学校に通わないといけない…。

特別新しい感情はない。
ワクワクもしなければ、
違和感も感じない。

転校初日ということは、
別に大したイベントではない。

新しい環境に行くことというのは、
その環境からすると
新しいものが来ることで。

それが必ずしもいいとは限らないのに
なぜ新しいという言葉に惹かれるのか。

………………。

私は………、新しい生活…？

この違和感はなんなんだろうか…。

見るもの全てが新しいはず。

当たり前のことを確認しては

ゲシュタルト崩壊が起きてると言い訳をし

バスに足を運ぶ。

そう言い聞かせる僕も
私は知らなかった。

まだこのことくらいしか
私にはわからなかった。

僕にも。

長澤先輩にも。

別に知らなくてよかったんだ…。

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昼夜騒動終

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