自分観測 ヒルガオの誓い

一、星矢の照らす世界

第一夜・導きの夜(改訂)

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転校初日、
なんの部活に入ることもなく
無事に反省会だ、
と思っていたはずだった。

私は、何かと反省会をしたがる。
それは理由もなく暇があるからだ。

考えるものは、外のことに興味がない分、

自分の言動と他人に関してを
とても研究する気分で考えていた。

今日もそうするつもりだったのだが。

特別なことはなかったはず。


奇人である自覚はあったし、

それの言い訳もできる。

が、私自身にとって私が
理解できないと思えるのも

この日だけだろう。


私が感じるこの違和感は
今日だけなのだろうか…。

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それは、紛れもなく、
夜だった。


最終のバスの一本前で、

初めて足を運んだこの見知らぬ山の前で

躊躇いもなく降りた。

そこには、ヒルガオの丘という

初めて見る看板がある。




引っ越してみて、近くにある山がきれいだから
登りたくなった…

というわけでもなく、


ただただ、

そこにいたのだ。


そこには、

陽炎が見える。

が、どうやら私のではない。


他人の陽炎は無視して通りさるものだからの。

私の勘がそう答える。

しかしその陽炎は、
無意味にこちらに何かを語りかけてくる。

何を言ってるのか初めはわからない。

それを追い払ったり

特に何もしなかったりして
ただ頂上を目指していた。

まるで何かに取り憑かれたかのように。

だんだん足が進み、傾斜が激しくなると

突然、陽炎の言うことが分かるようになる。

そのうち、

そいつは目の前から
動こうとはしなくなり

別に透き抜けるから関係ないが

私も、話すことに許してしまう。

「僕の名前は、城山誠です。
   特に取り柄を意識したことはなく
   親の都合でこちらに来させてもらいました。
   転校初日で緊張してますが
   どうかよろしくです。」

彼はひたすら、私の自己紹介を続ける。

私はそれに驚き、何もできなかったが、

私は、なぜかこの陽炎が、
嫌いな気がした。

5回目に入ったところだったか、

よく覚えてないが、

突然、言葉に合わせて動く顔が、陽炎の顔に
浮かんだような気がして、

私は、とうとう居ても立っても居られなかった。


「この不器用者！
    他人には関係ないんだ！」


思ってもないことが言葉になる時
これほど驚くことはなく
これほど罪を感じることもない。


相手は単なる陽炎で、

発した声だけが、山を下っていく。

その走っていく声に
ついて行くように、

陽炎の声が追いかける。


一瞬だった。

ほんの一瞬遅れて、

聞こえなくて…

認めたくなくて…

でも耳に入ってきた。


言葉にならないような

聞きたくないと拒むような

その言葉を。





「僕なんだよ…」





そう言葉を「私」に置いていく。



彼は、私が進もうとしていた先に登り始める。



そう聞いた途端、
他人事ではない気がした私は、

彼について行った。



彼は、やけに低い木を何本も避けて行くと

途中で何度も曲がったり、

明後日の方角を向いたり、

とてもではないが落ち着きがなかった。


声を発しまいと言い聞かせてきたが

それを叩き壊して、
勇気を持って聞く。

「何を君は探してるんだ？」

彼は、口を開けない。
開けたくても開かなそうにまるで

困ったように。

そうやって無言の時間を過ごした…。


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山の上にしては、平たい場所に出る。

そこには木々に囲まれた池があった。




ふと、彼はこうつぶやき出す。

「自分は常に関税をかけられてから広がる。」




私は、何を言ってるのかはわからない。

だが、異様に胸が締め付けられる。

「僕らは歩幅が合わないんだよ。
   もう一人の私。」


彼は目を合わせずにただ声をかけてくる。

それの意図がわからなくて思わず言い返す。



「ど、どうゆうことだ！」

彼は表情を一ミリも変えずに、


「歩幅が合わないなら、
   互いに考えて合わせればいい。

   ずっとそうしてきた…。」

と嘆き、言葉を吐く。



彼の様子は少しずつ、

姿を変える。

今まで白い人型の煙のような者だったのが
まるで自分そっくりに形作られていく。


その姿は、冷気から悪魔が生まれるそのものだ。

たかが数秒間が
どれだけ長く感じられたか。

形は、ゆっくりだが着実に自分になっている。

その現実離れな現象を目の当たりにして
私は後ろに思わず下がろうとする。

山に慣れてないからか、
斜面のことを忘れてた私は
姿勢を崩してしまう。



視界はジェットコースターのように
上に登っていき、
そびえ立つ山の上の星空がよく見える。

そして、九十度を超えて頭が後ろに下がっていく…。

その瞬間にアタマに衝撃が走る。

しばらく登り坂に逆らって体を起こすことに

苦心して、やっとの事で起き上がると

足先に妙な違和感を覚えたのですぐさま退いた。


その違和感をたどって躓いたものに
目をやると…

それは「冷たく」光っていた。





正しくは、月光を浴びて
綺麗に輝いていた。

それは、夜だからこその輝き。

何も特別な者ではない
白い眼鏡がそこにあった。


眼鏡は、まるでこんな状況を
知らないかのように呑気に声をかけてきた。

「ずいぶんと危なそうね」


無論、どうしようもない状況は
大して変わらない。

その状況が右でも左でも起きている。

はたから見れば、何も特別なことは起きてない。

無と眼鏡に硬直する青年に、

その何でもないところに
独りの危機が本質的にある。

陽炎は、言いたいことをひたすら話しかけてくる。

メガネは、それを面白そうに見ていた。


私は、どうすることもできないため、


何か次のことが起きるまで、

彼は考え、感じるのをやめた。




時間がただ過ぎていくにしては
ずいぶん長く感じている。


彼の中に違和感を芽生えさせるのにも、
それは、十分なものだったし、

彼女や彼も、その時間が今は必要なんだ。



そうして、月が雲に隠れた頃、

陽炎は上に消え、紅い星となり、


馬鹿げた寸劇は、目の前から消え去った。

何事もなかったかのように、

眼鏡すらなくなっていた…。


池には、その紅い星以外、特別何も映っておらず

私のために何か用意されたような、
この場は、こうして幕を閉じた。



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深夜零時冷分。

春の夜の冷たい風が
体に体当たりしてくる。

バスの通らない街道を

バス停をたどって歩いて帰る私は、


ひたすら先ほどのことを考えてる。

陽炎のと
眼鏡の言葉が、やけに耳に残っている。

目の前から消えた二人に
異様に惹かれていた。

そこに、風でバックが大きく舞うなか、

何かが背中に突き刺さるような痛みを発する。


思わず、バックを見てみると


そこには、光を通さないレンズが入っている。


それをよく見ると

自分が汚く、悲しそうに写っていた…。

一体、何が悲しいのか
何が新しく胸が踊るのか。

何かが私を変えてくれるのか…
何かが私を突き落とすのか。

そんな思いつきに動かされたのかと

一人で突然夜に憤慨する私は、


レンズを思い切り上からアスファルトに叩きつける…。

が、割れることもなく
カリッという霞んだ音が響く。


それを見ていたわたしは、
ただ無性に笑うしかなかった。

虚無感を許せずに、

熱いものが目を覆って。


それがなぜなのかも分からずに。


ひたすら、街道を一人で歩いていた…。

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第一夜 終