コーデリア魔法研究所

tiroro

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4.魔力を込めて物理で叩く

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 私がコーデリア魔法研究所の一員となってひと月ほど経過した。
 今の私の主な仕事は研究所の受付嬢。
 魔法は目から怪光線くらいしか使えないし、あれを魔法と言っていいのかわかんないけど……とにかく、ろくな魔法を使えないので、まずは研究所に来る依頼をまとめ、それを各部署に割り振るところから覚えていく。
 依頼数が多いのはユリウスさんの所属する部署の討伐戦術課。
 ここにはリシテアさんも所属していて、攻撃魔法の使い手の多くがここに所属している。
 次に依頼の多いのは、水属性の魔導士や薬師たちの所属する薬学治療課。
 他にも遺跡調査課、生活支援課、情報解析課、術式開発課なんかがあったりする。
 私は仮で討伐戦術課に配属されているんだけど、今後次第で正式な配属先が決まるらしい。

「お母さんを助けて!」

 やってきたのは小さなお子さまの男の子。
 身なり的には、そこそこの貴族の子どもかな?

「どうされました?」

「お母さんが倒れちゃって動かないの!」

 倒れた……怪我とか病気かな?
 それなら、薬学治療課に依頼したらいいか。

「わかりました。では、こちらの用紙にあなたのお名前、年齢、住所、それとお母さんのお名前、年齢、職業、具体的な症状を書いて持ってきてください」

 男の子はすぐに用紙に記入して、私のところに持ってきた。
 エドガー・ヴァルモンくん、9歳。
 その歳で読み書きできるのは、さすが貴族だわ。
 お母さんの名前はレイチェル。
 職業はお母さんと書いてある。まぁ、子どもだからわかんないよね……。
 具体的な症状は……黒いてんてんが身体中にできて動かない?
 まさか、もう死んでたり……しないよね?
 とりあえず、早いところ薬学治療課に回そう。
 生きてるんだとしたら、普通の症状じゃ無さそうだし、急いだ方がいいと思う。
 内線用の魔道具で薬学治療課に確認したら、いつでも出られるとのことだった。

「たしかに受け付けました。
 今日中に研究所の人間がそちらに伺いますので、お母さんには安静にしてもらっていてください」

「お願いします!」

 エドガーくんは、泣きそうな顔で帰って行った。
 さて、急いで依頼書を渡しに薬学治療課に行かなくちゃ。
 もう一人の受付嬢、エリスさんに断りを入れて、私は薬学治療課へ向かった。


***


 ここに来ると、薬品の匂いがすごいな。
 私が倒れた時も、ここのベッドを使わせてもらったんだっけ。
 フィオルさんは……いたいた。

「フィオルさん、さっき話した件の依頼書持ってきました」

 フィオルさんは薬学治療課の課長さんで、詳しくは知らないけどユリウスさんと同い年くらいの人かな?


 薄紫の髪が綺麗で、水属性の単一発現者。
 薬学にも精通していて、怪我以外にも様々な病気に対応しているそうです。

「ご苦労さん。黒い点々ね……聞いたことない症状だな。
 場所はそんなに離れてないし、準備したらすぐに出るよ。
 念の為、所長にも似たような事例がないか聞いてみる」

 どんな病気かわからないけど、フィオルさんならきっと大丈夫だよね。
 さて、私は受付に戻って解決済みの依頼内容を整理しておこっと。

 そう思ってたのに、なぜか私もフィオルさんたちに同行することになってしまった。
 所長が私にも現場を体験してもらえって。
 フィオルさんと、二名の薬師、そして私。
 四人でエドガーくんの家に向かう。

「貴族の家で黒い斑点……毒かと思ったけど、呪いの類かも知れない。
 もしかすると、君の光属性の力を借りることになるかも……」

「目から光線しか出せませんよ?」

 そうこうしているうちに、エドガーくんの家に着いた。
 めちゃくちゃ立派なお屋敷だ。
 執事の人に案内され、エドガーくんのお母さん、レイチェルさんのいる部屋へ。
 入った瞬間、恐ろしい悪寒が私を襲った。

「看るまでもない……これは、呪いだ」

 エドガーくんは、レイチェルさんの手を握っていた。
 それを、薬師の二人が引き離す。

「呪いが移ってはいけない。可哀想だけど、エドガーくんには部屋で待機していてもらってくれ」

「先生! お母さんは……お母さんは治りますか⁉︎」

「全力を尽くす」

 レイチェルさんの姿は黒い点々どころじゃなかった。
 斑点のある場所からは血が滲み、腕の色が溶けたように変色している。

「身を貫く暗き力、暗闇に消え、今ここで滅びよ。
 深く侵食し、魂と肉体に絡みつく呪いよ、今ここに消え去れ──」

 フィオルさんの青い魔力が淡く光り、レイチェルさんの体を包んでいく。

「【デオ・アナスティア】!」

 放たれた魔力がレイチェルさんから発せられる黒い魔力を押し込んでいく。

 あと少し──
 そこで思わぬ事態が起こった。

「……なんだと!?」

 黒い魔力が膨張し、フィオルさんの魔法を押し返し始めた。
 やがて、解呪の魔法が黒色に侵食され、弾けるように私たちに襲いかかってきたのだ。

「まずい……! 全員、早く部屋から出るんだ!」

 フィオルさんの声で薬師の二人が執事さんと私を抱えて部屋から飛び出した。
 部屋の中から叫び声が上がる。

「フィオルさん!?」

 静まり返った部屋の扉を開けると、そこには呪いに身体を蝕まれ黒く染まるフィオルさんと、その隣に黒い何かがゆらゆらと揺れていた。
 体の黒さとは真逆に、フィオルさんの足元が赤く染まる。

「所長に……報……告、を……」

「フィオルさん……血が……」

 この出血量……研究所に戻って所長を連れてきていたら間に合わない。
 レイチェルさんは苦しそうに蠢きを上げる。
 黒い何かは、そんな二人を嘲笑うかのように揺れ動く。

「あいつが、やったんだ……」

 私は、そんな黒いやつを見て、だんだんと腹が立ってきていた。
 部屋の中へと入り、黒いやつと対峙する。

 目を瞑り、光の塊を腕へと移動させる。
 私の手に光の魔力が集まったのがわかった。
 なら、やることは一つ。
 これで、この黒いのを思い切りぶっ叩く。

 思った以上に吹っ飛んで苦しみ悶える黒い塊。
 黒い塊は煙のようなものを出しながら萎むように小さくなり、そのまま消えて行った。

「どう……なってんだ……?」

「【グランド・ヒール】」

 魔力を纏ったままの手を掲げ、頭に浮かんだ魔法を唱えてみた。
 すると、私の手から光が放たれてレイチェルさんの呪われた体と、フィオルさんの呪いで蝕まれた身体が修復されていった。

「これは……ミア?」

 出血も止まったみたい。
 よくわかんないけど、上手くいってよかった。


***


 私が覚えていたのはそこまでで、気がつくと、また例のベッドの上にいたんだけど。
 実家のような安心感。実家ないんだけどね、私。

「目覚めたのか、ミア!」

 体を起こした私を見て、フィオルさんがすっ飛んできた。

「よかった……目覚めなかったらどうしようかと……」

「ただの魔力切れだと言っただろ」

「その程度で倒れるなんて……情けないわね」

 なんか、ユリウスさんとリシテアさんもいるし。

「フィオルさん、無事でよかった」

「こっちのセリフだ……」

 フィオルさんの話によると、レイチェルさんも無事だったみたい。
 まだ歩けないそうだけど、元気になったらお礼に来るって。
 それにしても、私……なんか魔法使えてたよね?
 あの魔法、なんて言ったっけ。
 グランドヒール? 魔法大全にグランドってあったよね。
 勉強の成果が出たのかな? 知らんけど。

「グランド・ヒール!」

 使えるかと思ってやってみたけど出ないや。

「ミア……そんなことやって、また倒れたらどうすんだ!」

 なんか、フィオルさんがめっちゃ怒ってくる。
 せっかく使えた魔法を忘れないようにやってみただけじゃんよ……。

「グランドを使ったのか、お前は……」

 ユリウスさんがなんか驚いてるし……よく驚くよね、この人。

 ともかく、私もそうだけど全員無事で終わってよかったじゃないの。
 慣れない魔法を使ったもんだからなんだかまだ眠いなぁ。
 明日からは、また普通に受付嬢させてください。
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