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第六話「ノインの影」
しおりを挟む――嘘は、真実を隠すためにあるのか。それとも、真実を暴くためにあるのか。
ノインとの初めての対峙から三日が過ぎた。
リクとユメは、山間の小さな村――「霧ノ尾(きりのお)」にたどり着いていた。村は朝から濃い霧に包まれ、遠くの景色どころか、家の屋根すら輪郭があいまいだった。道端に立つ案内板も、すでに読めないほど錆びている。
「ねぇ、本当にここに“カケラ”があるの?」
ユメが手をポケットに突っ込みながら聞いた。冷え込む空気に、白い息がふわりと立ち上る。
「地図はそう“示してる”」
リクは例の地図を広げ、濡れた指先で一か所をなぞる。そこには、赤いインクでこう書かれていた。
《霧ノ尾に、忘れられた“カケラ”あり》
誰が書いたかもわからない文字。もしかしたら自分が書いたのかもしれないし、別の誰かが“望んで”記したものかもしれない。けれど、その一文が確かに地図に現れたのなら、それはこの世界の“仮の真実”になる。
「でも……あのノインって奴、また来るかもよ?」
「来るさ。あいつは“嘘”を狩る」
リクは静かにそう言った。
ノイン――全身を黒で覆い、口元だけを仮面で隠した謎の男。その正体も目的も、今はまだわからない。ただひとつ確かなのは、彼が“地図の嘘”に何かしらの執着を持っているということ。そして、カケラを集めるリクたちの行動を、決して見逃していないということだ。
ユメが周囲を見渡し、ぽつりとつぶやいた。
「……静かすぎる」
確かに、どこからも人の気配がしない。まるで、村全体が何かを恐れて息をひそめているような――。
そのとき、霧の向こうから、足音がした。
ひとつ、またひとつ。石畳を踏みしめる、硬質な音。
「来た……!」
リクが地図を握りしめた瞬間、霧を割って黒い影が姿を現した。
「……やはり、君たちだったか」
ノインだった。
今日のノインは、前よりも“薄く”見えた。体がどこか透けているようにも感じられた。だが、その眼差しは変わらない。嘘を見透かすような、鋭い眼。
「“霧ノ尾の嘘”……それを暴こうとしているな」
「暴くんじゃない。探してるんだ、“真実のカケラ”を」
リクが言い返すと、ノインはわずかに口元を吊り上げた。
「真実を求める者ほど、深い嘘に沈む。君はまだ、その地図の本当の意味を知らない」
「知るさ。そのために旅してるんだ」
「ならば――試すといい」
ノインが手を振ると、霧の奥から、何かが現れた。
それは、かつてリクが“嘘”で描いたもの。もう失われたはずの、幻の町“セントラル”の街並みだった。瓦礫の山の中から忽然と現れ、灯りすら灯っている。
「……まさか……これ」
「君の嘘だ。かつて“セントラルは生きている”と、君が信じた、その痕跡だ」
リクは、地図を見た。そこには、確かに過去の“嘘”がうっすらと残っていた。
けれどそれは、今にも“真実”として息を吹き返そうとしていた。
「どうする、リク? 信じるの?」
ユメの問いに、リクは黙って首を横に振った。
「……これは、俺の嘘。でも、“今”の俺が探してるのは、違う」
リクは地図の新たな空白に、静かに文字を書き加えた。
《霧ノ尾に眠るカケラは、“嘘”を照らす光である》
書き終えた瞬間、霧が少しずつ晴れていく。
セントラルの幻影も、ノインの姿も、煙のように消えた。
――そして、霧の中から、ひとつの光が現れた。
それは、宝石のように光る“カケラ”だった。
「見つけた……!」
リクは手を伸ばし、それを握りしめる。
ノインの声が、どこからともなく響いた。
「……また、会おう。リク。嘘を重ね続ける限り、私は君の影だ」
残響のようにその声が消えると、村にはようやく、ほんのりと朝の光が差し込みはじめた。
そしてリクは、次の“嘘”を地図に描く。
新たな旅の始まりを告げる、“希望の嘘”を――。
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