私の世界

結愛

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Queen of Mermaid

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「せあっ」

威勢のいい掛け声とともに、振り下ろされた一振は、容易に三叉槍で受け止められ、弾き返される。
着物を着ているとはとても思えないほど敏捷な動きで、後退し、入れ違いに凛音が入った。

「狐火・時雨」

狐火が、幾つにも分割され、一直線に襲う。だが、それは水の壁を作られ阻まれた。
戦闘に慣れていない波は、凛音の邪魔にならないようにと凛音の様子を窺いながら、攻撃にかかった。

「姑息な」

敵の閉ざされていた口が開くと、珍しく凛音が動揺する。目を見開き、驚いたかと思えば、途端にギロリと睨む。

「波、声を聞くなっ!」
「え?」

突然言われ、困惑する。だが、凛音の言うことだ。
凛音の指示に従い、耳を両手で塞ぐ。
だが、それは無意味であった。

「死ね」

冷徹に放たれた言葉。そんな言葉を使うことを波は最も嫌いとしていた。今すぐ命の尊さを説いてやろうとした、けれど、けれど。
まるで、その言葉を肯定するように波の手が動く。その後を予想した凛音は、急いでその刀を奪い取ろうとしたが、波が腕を振り、風を巻き起こすことで届かない。
その風には、殺傷性はない。殺意は無いようだ。まだ、波の意思はあると言っていい。
ムラサメを持っていた方の手が動く。その刃がくるりと半回転し――。
波の胸元へと突き刺さった。

光の宿っていない、波の瞳は、ムラサメを捉える。
可視できるほどの禍々しさをもったムラサメは、主の胸元でさらに禍々しさを倍増させていく。

「くそっ。ローレライの断片を持っているのか!!」
「ご名答。九尾には効かないようだが、まぁいい」

このような、操る呪法は、妖の上位である凛音にはきかない。だが、眷属になりたての波には、まだ吸血鬼の力が浸透しきっていない。特に複雑な脳には。そこを操られたとなれば、身体も操れる。
今まで無表情であった、仮面をかぶったような顔に、嬉々な表情が浮かび上がる。それをみて、全身の毛を逆撫でされた感覚を体験した凛音は、怒りとともに咆哮を轟かせた。狐のものとは思えない、むしろ獣のする声だ。
その咆哮によって、妖狐の力を、最大限発揮する。九尾あれば、もっと力が出せただろうが、一尾となればそれは叶わない。妖気が高まり、青白いオーラを身に纏う。

「【劫火】イグニファストゥス!」

青白い炎が大気中から出現し、激流の如き速さで敵に襲いかかる。
敵は喜悦の笑みを浮かべたまま、自らも水の激流を生み出して、劫火に立ち向かう。だが、劫火の熱量に、触れる前から蒸気と化し、激流は沈黙した。
更にその蒸気が熱され、大気中の温度を上昇させていく。体内の水分が、全て沸騰してしまいそうなほど気温は上がり、敵の息の根を止めようとした時。

「待て、凛音」

制止の声がかかった。

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