私の世界

結愛

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Queen of Mermaid

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敵に当たる寸前。一声によって、凛音の動きは止まり、後退を始めた。それと同時に、劫火はなりを潜めて小さくなり、消えていく。
声の主は、雅な鈴の音を鳴らしながら近付く。無論、それに敵意をもった敵は、襲いかかろうとした。

「失せろ」

だが、一声によって、その姿は、塵一つでさえ残らず消えた。その光景に、思わず凛音は唾を飲み込む。

「来栖様。波が――」
「言わなくていい。すまないね。あともう少しだったか」
「こうなったのは、私が先走ってしまったから――」
「なに、波は死にはしない。寧ろ、あれだと擦り傷程度だ」

後悔の色と、不安の色を混ぜたような声音。凛音は自己嫌悪に陥り始めていた。波に危害が及ばぬよう、防御壁を張ってはいたが、傷を癒すまでには至っていない。
宥めるように、微笑みながらその頭を撫でてやり、横たわった波に近付く。

「いつまで寝ているんだい、波」
「寝てはいない。ただちょっと夢を見てた」

未だに波の瞳は虚ろなまま。それを理解した上で、来栖はムラサメを引き抜く。蛇口を捻ったように、血が噴き出すが、気にもとめず、来栖は波の頭の近くに座った。

「それが寝ているというんだ。ったく。凛音に心配をかけられるまえに、あいつぐらい殺れただろう」
「主が許さんのだ。殺しは嫌いなようだからな」
「主に甘すぎだ。というか、元々は波の欠片だろう」
「知るか。あぁ、主が起きる」

逃げやがった、と来栖は思ったが、口には出さない。普段の波とは違う口調でも、凛音が咎めることは無かった。むしろ、それを知った上での話。
光を宿した波を確認し、来栖は波に手を伸ばす。おもむろにその手を取り起き上がり、まずは周りを見渡した。
確か、ムラサメに刺されていた。けど、その時に出たはずの血はない。夢、だったのだろうか。

「来栖様。あの敵は?」
「消えたようだ。下級悪魔に取り憑かれていたのだろう。本人はちゃんと成仏したようだよ」
「そう、ですか」

事実を多く語らない来栖に、凛音は不安げな視線を向ける。それを波は、自分を心配しているのだと思い、軽く微笑んだ。

「ローレライはどうなっているんですか?    一見、なにもなさげなんですけど」
「あぁ、悪魔が退けたことによって、結界は破られたみたいだよ」

部屋の扉に手をかけると、模索している時には開かなかったはずが、簡単に開いた。
その中には、女の子らしい家具や調度品があり、奥に置かれたベッドには、少女が寝ている。その周りには、運び込んでいた真珠などがあった。

「開いてなかったのに、運び込まれてる······」

恐らく、結界を張った本人である将軍が入れたのだろう。この区画の真珠には、安らぎの効果がある。それを考慮して考えると、将軍は、悪魔に魂を売っても、人魚姫を変わらず愛していたのだろう。

「なんで悪魔と契約したんだか。姫思いなのに」
「まぁ、人間でもそういう人いるし。そういうもの、かもしれない」
「ふ······ふわぁ」

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