吸血鬼騎士のディアーボルス(悪魔)

結愛

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第六章 ~暴走の死神~

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刀が舞う。

剣戟が奏でられる。

それが妙に心地いい。

ライラの意識はどうなっているのだろう。

まだ保っているのだろうか。

それとも食い尽くされたのだろうか。どちらにせよ、打破する策がないのは非常に困ったものだ。

にしても、力を解放したライラは強い。

多人数であっても、勝てるかどうかあやふやだ。それほどまでにライラは強い。もしかしたら、捕獲した時は演技していたのかもしれないと、感じてしまう。

これがまだ本気でないのなら、人類は破滅するだろう。元から破滅の道を進んでしまっているなら、ライラがそれを罰する神なのか。

そんなことを考えているうちに、余裕がなくなってくる。

「くそっ······たれがあぁ!」

やけくそになって力を込め、思いっきり刀を振るう。刀は千夜に呼応するように黒いオーラを出して斬れ味をあげた。

タイミングよく、背後から、俺の従者、音羽梓がクナイを投げ、サポートにまわる。

「陰術、影縫い!」

影にクナイは刺さり、ライラの動きは封じられる。

そこに、振りかぶった刀を一直線に降ろす。もちろん、刃ではなく、みねを。俺は、そんな自分が甘いのかもしれないと思った。

それがライラの頭に降ろされる。

内出血でも起きそうだが、ライラなら平気だろうという意味がわからない信頼で、力を込めて振り下ろした。

「戻ってください、ライラ様ぁっ!!」

ノル、と言われていたライラの従者が叫ぶ。

以前にもあったようだが、これまではどうやって抑えてきたのだろう、と考えることはあっても、そっちに酸素は回さない。

勢いよく振るった刀は―ー。

あっさりライラに止められた。

ライラ自身ではなく、ライラが纏う布切れに。

驚いている時間がないとはいえども、驚いてしまう。そして、ライラが攻撃する隙を作ってしまう。

布切れがヒラリと舞ったかと思うと深淵を作り出す。不気味にも夜空のように綺麗だった。

それが、ライラと俺だけを閉じ込めるかのように覆い尽くした。

ドーム状になっているようで、昔子どもの頃に見たプラネタリウムを思い出す。

ライラは表情を一切変えず、無表情のままぐるりとあたりを見回す。

どうやら、ライラ自身が生み出そうとした空間ではないようだ。状況の整理をしているようで、攻撃はこない。よ

ライラの瞳は、月のない夜空のようになっていた。

「ライラ、少し落ち着いたらどうだい。そこの人間たちは君を殺そうとしていないよ」

穏やかな声が空気を振動する。

ライラの声でもなく、俺の声でもない。

けれど、どこか落ち着く声だ。

「別に。殺されるから戦っているわけじゃない。取り乱してもいない。私には、その人間を殺さなければいけない理由がある」

最後の方は強く言い放っていた。

恨みがあるのだろうか。吸血鬼が人間に抱く感情はそれくらいだろう。

声は、千夜がいる状況でもライラについて話した。極秘なことではないらしい。

「復讐で始まった戦いは、悲しみしか生まない。君はそれを誰よりも思い、戦いを嫌ってきたじゃないか。その君がどうしてこんなことをする?」

これは、わざと俺にも聞かせているのか。

俺とライラと、この声の主だけが隔離されていて、梓たちには聞こえないようだ。

こちらの姿も見えていないようで。聞こえもしない。

「その男がニーナを殺した。他の奴らも殺してた。唯一の、親友を殺されたんだよ」

淡々と告げるも、ライラの目には涙が滲んでいるように思える。

「憎いよね。それは憎い。ひとりぼっちになってしまった原因がこの男にはある。······けどね。この男も、同じ経験をしたんだ。お互い様だよ。だから、気持ちを落ち着かせて。いつもの君に戻ってよ。ノルニルが待ってるよ」

微笑んでいるかのように、優しく、語りかけている。この声の主は誰なのだろう。ライラも、耳を傾けている。

一筋の涙が、ライラの頬を伝わる。

無表情だった顔には、涙を隠すように、だんだんと笑みが零れた。

「一つ······聞いていい?」

涙を拭いながら、面を上げるライラ。

潤んだ顔は、どこかすっきりとした表情だった。声も、以前より穏やかになっている。

「なんだ?」

「君は、大事な人を、彼女とか、失った?」

「······お前は知っているのか?」

問い返す俺の質問に、ライラは首を横に振る。千夜の瞳を捉えて、はっきりと答える。

「その瞳が教えてくれた。悲しいほどに真っ直ぐな瞳が」

訝しむように俺は目を細める。ライラの仇が俺のように、俺の仇もライラかもしれない。その可能性に刀を構える。

ライラは答えが聞けないと思い、肩を竦める。

「能力『以心伝心』。本当は会話する能力なんだけど、使用者の了解を得ないと能力は使えない。だから、一方的な能力になる」

「だから一方的に相手の頭ん中が見えんのかよ」

嫌そうに俺はため息をつく。

プライバシーの一つや二つを見られるのはごめんだ。

「で、私はこれからどうすればいい?  見た感じ、“黒百合”が展開しているように見えるんだけど?」

どうやら、この外套は黒百合というらしい。なかなかに物騒な名前だ。性能というと、ライラとは別の意思をもっていて、ライラの命令通りに動く時と、黒百合自身が感情で動く時があるらしい。なかなかにツンデレで、よく首を絞めてくるのだそう。色んな攻撃ができて、黒百合の内側に『空間操作』で暗器を出せるらしい。

「ほとんど無敵じゃねぇかよ」

「黒百合は機嫌がいいと人間の姿にも化けるからね」

だんだんと天幕が開いて、白い天井が見えてくる。

ライラの意識も取り戻したし、ひとまず落ち着いていいのだろうか。

肩の力が抜けていく。安心すると共に、どっと疲れがでる。心身的な疲労がかなり蓄積しているようだ。連続の戦闘はさすがにこたえる。

周りの様子を見ていたライラは、急に不安な顔をした。

「ねぇ······。アイツは、誰?」

ライラの視線を追う。

そこには、俺よりも上等そうな軍服を来た男。俺の知っているやつだ。

七瀬透。

駿もそうだが、七瀬家。日本軍で、一番偉い、七瀬家の長男だ。

駿は、養子であるが、透はしっかりとした血筋を持っている。

権力は相当で、俺すらも簡単に殺せる、かなりの強者だ。
一番偉い上に、知識も豊富。指揮もよくとるし、俺を手駒として利用しているのもコイツだ。

ライラでも、殺せるかどうかは分からない。

本気を出したことなんて、一度も無いのだから、どのくらい強いのかも分からない。

俺からしてみれば、謎の多い男だ。

この男の上にも更にいるのだから、反感を買った奴らは処刑など、示しのために殺される。

権力も最大で、力も強く、個の力では絶対に崩せるわけがない。

巨大な壁と一緒だ。

逃れることのできない天敵。

かつての俺は、そう思っていた。

今は、透の右腕、と認識されているが、右腕というより、奴隷、のほうがあっているかもしれない。人使いの荒さはこの身をもって経験している。

「あいつに喧嘩売るなよ。死ぬぞ」

疲れた体を鞭打って立たせ、透の方を向く。

透は俺らを確認し、最後に視線をライラに向けた。

やはり、ライラを敵視している。

先ほどの暴走で、信頼は薄れてしまった。ライラがどうなるかはまだ分からない。

一方でライラは、薄々警戒をし、相手の逆鱗に触れないようにしている。いい判断だ。余計な手出しは後々不利になることをわかっている。

透が牽制するように腰の刀に手をかける。

「千夜。お前は疲れているようだな。少し休め」

「まだ終わってねぇんだろ?   休めるわけが――」

そこで、透が刀を抜き、こちらへ振るってきた。

瞬時にライラが動く。

透が一太刀を放ってくるまで、分からなかったために、反応が遅れてしまう。逃げることは叶わない。

ライラは庇おうと、俺のところまで走ってこようとするが、それでも間に合わない。

俺は、目の前の雷に、打たれた。

痺れを体に覚えながら、その場で意識を失った。気が遠くなるときに視界に入りこんだライラが見える。

(俺、なんで肩入れしてんだろうなぁ)
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