​転生したら最強辺境伯に拾われました

マンスーン

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13話

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 ルカとラークが「魔力共有」という名目で触れ合うようになってから、しばらくの時が流れ、​屋敷の至る所で、二人が手を握り会う姿が目撃されるようになっていた。

しかし…

 ​​バンッ!!

 ​「……ちょっとアラン!! あんた、ちゃんと作戦通りやってるの!?」

 ​屋敷の裏手にある使用人専用の休憩室。
メイが、鬼の形相でテーブルを叩き割らんばかりの勢いで叫んだ。

 ​「やってる、やってるって。落ち着けメイ」

 ​怒り狂うメイに対し、巨体の料理長・アランは呆れたように息を吐きながら、休憩用のコーヒーを淹れていた。
 ​「毎日欠かさず、一番美味しい焼き立てのお菓子を持ってって、ルカ様に『あーん』してるぞ。……おかげで俺、旦那様の殺気で、最近胃が痛いんだが」
「だったら!! なんでこんっっなにいい雰囲気出してるのに、あの二人は全くくっつかないのよ!!」

 ​メイは頭を抱えて机に突っ伏した。

「毎日毎日、『魔力共有』とか言ってあんなに甘い空気出して見つめ合ってるのに! なんで旦那様は『俺は保護者だから(キリッ)』みたいな顔して自制してるのよ! 無自覚にも程があるわ!!」
 ​「あははっ! メイさんマジギレっすね!」

 ​そこへ、ディーが泥のついたブーツを脱ぎながら、陽気に笑って休憩室に入ってきた。 

「いやでも、旦那様のあのギリギリ感、見ててめっちゃ面白いっすよ! 俺がルカ様と肩組んで笑い合ってた時なんか、旦那様、悔しそうにハンカチ噛み千切る勢いでしたからね! なのにルカ様が『ラーク様?』って首傾げたら、一瞬で『何でもない、風邪を引かないようにな』って誤魔化してて! もう最高っす!」

 ​腹を抱えて笑い転げるディーを、メイはギリッと睨みつける。

 ​「笑い事じゃないわよ! こっちがヤキモチ妬かせる作戦をどれだけ仕掛けても、旦那様が自分の『恋心』を自覚しない限り、一生あのままなのよ! あぁもう、いっそ私が旦那様を物理で脅迫して……!」

「まぁまぁ、物騒なこと言うなや」

 ​お茶を啜っていた庭師のガルドが、やれやれと肩をすくめた。

「もうこのままでいいんじゃねぇか? 旦那様もなんだかんだルカ様に触れて嬉しそうだし、ルカ様もほんわかして楽しそうだ。お互い幸せなんだから、周りが無理にくっつけなくても、いつか自然に……」
 ​「ガルドは甘いわ!! あのヘタレな旦那様が自分から動く日なんて、百年待っても来ないわよ!」

 ​「ええ。私も、現在の状況を変える必要は全くないと考えています」

 ​カチャリ、と。
 休憩室の扉が開き、分厚いファイルと計算機を抱えた屋敷の執事・エルザが、眼鏡をクイッと押し上げながら入ってきた。
 常に冷静沈着な彼女だが、その顔はなぜか、晴れやかで、満面の笑みを浮かべていた。

 ​「エルザさんまで! あなたもあの二人のすれ違いを見ててモヤモヤしないんですか!?」
「モヤモヤ? 冗談を。今の我が辺境伯領の執務室は、かつてないほどの『黄金期』を迎えているのですよ」
 ​エルザはバサリとファイルを広げ、恍惚とした表情で語り始めた。
 ​「ルカ様による毎日の魔力共有のおかげで、旦那様の疲労は常にゼロ! 睡眠不足による不機嫌も消え去り、頭脳は極めてクリア! その結果、 滞納していた書類の山は消え去り、騎士団の連携も完璧です!」

 ​「……はぁ」

「ルカ様は、我が領地に舞い降りた天使。色恋沙汰という不確定要素によって、旦那様の心が乱されたり、ルカ様が恥じらって魔力共有の回数が減ってしまったりしては、この完璧な業務効率のサイクルが崩れてしまいます。ゆえに、今の『無自覚なまま、理由をつけてルカ様から魔力を吸い続ける旦那様』という図式が、事務方としては最も理想的なのです」
 ​「……」

 ​有能すぎる執事の、あまりにも実務的な意見に、休憩室は水を打ったように静まり返った。

 ​「すっげー……エルザさん、旦那様のこと完全に『書類処理マシーン』くらいにしか思ってないっすね」
「おいおい、どっちが死神か分からねぇな……」

 ​ディーとガルドが引きつった笑いを浮かべる中、メイはワナワナと震える手で天を指差した。

 ​「だめよ……絶対に、絶対にあの二人を両想いにして、毎日イチャイチャさせてやるんだから!!」

 ​屋敷の裏側では、今日もルカとラークの恋の行方を巡って、使用人たちの熱く静かな戦いが繰り広げられているのだった。
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