手軽に読める短い話

ぴろわんこ

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うるさい妻

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おれの妻はうるさい。おれのやることなすこと、全てにケチをつけてくる。礼儀作法がなってない、給料が少ない、頼りにならないと否定ばかりをしてくる。おれのやりたい趣味も、金がかかるからとほとんど禁止されている。

それだけではなく、テレビを見ている時もうるさい。いちいち感想を大声を張り上げて言い、笑い声も甲高くかまびすしい。
おれは何度も注意をした。喋るな笑うなとは言わないが、せめてもう少し声を落としてくれないかと。しかし全然聞く耳を持ってくれなかった。

おれは諦めた。まあ確かにおれは頼りなく、才覚もなく給料も安い。転職をするほどの度胸もない。言われて当然だ。
それに女性の方が感受性が強いから、テレビを見ている時もついつい感情移入して声が出てしまうのだろう。おれは自分に、そう言い聞かせた。

「宅配便でーす」
ある日玄関から声がしたので、妻が応対した。

「お前いつもうるさいんだよ!静かにしろ!」
妻がドアを開けるなり、男はそう叫び妻を包丁で滅多刺しにした。

「おい、何やってんだ!止めろ!」
おれは慌てて止めに入り、妻を介抱した。しかしかなりの深手を負っていた。

近所の人が心配して見に来てくれて、警察と消防に通報してくれた。男は程なく捕まった。妻は救急車で運ばれたが助からなかった。

犯人の男は、おれたちの住むアパートの隣りの部屋に住む男だった。
男は、まともな職に就くことができず友人もほとんどいなく、辛い日々を過ごしていた。そんな中、毎日妻の楽しそうな笑い声や叫声を聞いて、ますますイライラが募ってきた。このイライラの元凶がいなくなってほしいと、刺し殺した。そう警察に供述しているという。

そんな凶行をする前に、部屋を出て行くとか、苦情を言うとか、大家に相談するとか、手はいくらでもあっただろうに。
おれはショックだし、悲しかった。怒り心頭に発し、男を絶対に許す気にはなれなかった。

しかし十パーセントくらいは、男の気持ちも分かるな、これからは自分の好きなように生きられるなと、冷めた頭で考えてしまう自分がいた。
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