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5 三人寄れば…
2 三人で乾杯
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「トキが慰めても効果が無ぇって言うから、相当重症だなと思ってな。来てやったぞ」
「……あ、ありがとうございます……」
消え入りそうな声。いや、存在そのものも消えてしまいそうに縮こまってる。
一方のダイくんはでっかくふんぞりがえって偉そうだ──普段からそうだけど、今日はさらにふてぶてしいオーラを放っている。
「まあ、飲め」
「……いや、お酒はちょっと……」
「炭酸でいいからよ。ほら、トキも」
ユーくんの夢の第一歩を祝して、三人で乾杯した。
ボクとは違い、ダイくんはむやみに慰めたりはしない。
なにがダメだったのか、どうして満足できないのか、これからはどうすればいいと思うか、きちんと己と向き合えるように導いていく。
ユーくんは誘われるままに、ポツポツと本心を語っていく。
どうやら落ち込んでいる本当の原因は、自分のミスじゃなかったみたい。
大役をまかされた同学年の子達と、端役である自分を比べて、情けなくなったのだ。嫉妬と劣等感で心が傷だらけになって、本番が終わったと同時にズキズキと痛み出したらしい。
「そっか。辛かったね、ゆーくん」
ボクはユーくんのもじゃもじゃ頭をぽんぽんしてあげた。
「全然辛くねぇだろが! ユー、昔っからお前は考えすぎなんだ!」
「でも……」
「今のお前は、しなくてもいい嫉妬をして、どーでもいい劣等感抱いて勝手に苦しんでんだよ。バカだよ、バカ! バーカっ!」
「ううっ」
「そんなに辛いならさっさと辞めちまえ」
罵倒され、ユーくんはまたポロポロと涙を流す。でも泣き顔を見せるとダイくんが烈火のごとく怒るので、必死に誤魔化そうとしている。
彼はぐすぐすと鼻をすすり、うつむいたままでテーブルのグラスを取った。
「あ」
彼が口をつけたのは自分の炭酸じゃなく、ボクのぶどう酒だった。涙を我慢するので頭がいっぱいだったのだろう、かなりの量をあおった。
「――ぐはっ!」
すぐに異変に気づいたのだろう。激しく咳き込んだけれども、後の祭り。
ボクは寄り添うようにその背中をやさしくさすってあげたけど、ユーくんは弾けたように激しく泣き始めた。
散々な自分を嘆いているんだろう。
ダイくんは口を真一文字に結び、しかめっ面で彼を見ている。
その目の奥には、反省の色があった。
自分でも言いすぎたと気づいたのだろう。たぶん、ユーくんが本当に役者の道を諦めれば良いとは思ってない。むしろその逆なはずだ。
「……っ、うぐ、……うっ……」
ダイくんの優しさをよそに、ユーくんはどんどん内にこもっていく。膝を抱え、頭も前へ前へと傾き、すっぽりと腕の中。
「ユーくん」
ボクは彼に早く元気になってほしくて、どうしたらいいか考えていた。
「ユーくん、お腹減ってない? 何か作ろうか」
「……う」
「あ。カボチャのスープにしよっか。ユーくんはカボチャが好きなんだよね?」
「……」
「いっぱいふーふーして、あーんしてあげるからね」
彼の丸い背中がピクリと反応した。ボクの作戦は順調かもしれない。
やがて腕の間からボソボソと声が聞こえてきた。
「……いっぱい……ふーふーして、あーん……いっぱい、ふーふー……」
「ユーくん?」
――様子がおかしい。
「……あ、ありがとうございます……」
消え入りそうな声。いや、存在そのものも消えてしまいそうに縮こまってる。
一方のダイくんはでっかくふんぞりがえって偉そうだ──普段からそうだけど、今日はさらにふてぶてしいオーラを放っている。
「まあ、飲め」
「……いや、お酒はちょっと……」
「炭酸でいいからよ。ほら、トキも」
ユーくんの夢の第一歩を祝して、三人で乾杯した。
ボクとは違い、ダイくんはむやみに慰めたりはしない。
なにがダメだったのか、どうして満足できないのか、これからはどうすればいいと思うか、きちんと己と向き合えるように導いていく。
ユーくんは誘われるままに、ポツポツと本心を語っていく。
どうやら落ち込んでいる本当の原因は、自分のミスじゃなかったみたい。
大役をまかされた同学年の子達と、端役である自分を比べて、情けなくなったのだ。嫉妬と劣等感で心が傷だらけになって、本番が終わったと同時にズキズキと痛み出したらしい。
「そっか。辛かったね、ゆーくん」
ボクはユーくんのもじゃもじゃ頭をぽんぽんしてあげた。
「全然辛くねぇだろが! ユー、昔っからお前は考えすぎなんだ!」
「でも……」
「今のお前は、しなくてもいい嫉妬をして、どーでもいい劣等感抱いて勝手に苦しんでんだよ。バカだよ、バカ! バーカっ!」
「ううっ」
「そんなに辛いならさっさと辞めちまえ」
罵倒され、ユーくんはまたポロポロと涙を流す。でも泣き顔を見せるとダイくんが烈火のごとく怒るので、必死に誤魔化そうとしている。
彼はぐすぐすと鼻をすすり、うつむいたままでテーブルのグラスを取った。
「あ」
彼が口をつけたのは自分の炭酸じゃなく、ボクのぶどう酒だった。涙を我慢するので頭がいっぱいだったのだろう、かなりの量をあおった。
「――ぐはっ!」
すぐに異変に気づいたのだろう。激しく咳き込んだけれども、後の祭り。
ボクは寄り添うようにその背中をやさしくさすってあげたけど、ユーくんは弾けたように激しく泣き始めた。
散々な自分を嘆いているんだろう。
ダイくんは口を真一文字に結び、しかめっ面で彼を見ている。
その目の奥には、反省の色があった。
自分でも言いすぎたと気づいたのだろう。たぶん、ユーくんが本当に役者の道を諦めれば良いとは思ってない。むしろその逆なはずだ。
「……っ、うぐ、……うっ……」
ダイくんの優しさをよそに、ユーくんはどんどん内にこもっていく。膝を抱え、頭も前へ前へと傾き、すっぽりと腕の中。
「ユーくん」
ボクは彼に早く元気になってほしくて、どうしたらいいか考えていた。
「ユーくん、お腹減ってない? 何か作ろうか」
「……う」
「あ。カボチャのスープにしよっか。ユーくんはカボチャが好きなんだよね?」
「……」
「いっぱいふーふーして、あーんしてあげるからね」
彼の丸い背中がピクリと反応した。ボクの作戦は順調かもしれない。
やがて腕の間からボソボソと声が聞こえてきた。
「……いっぱい……ふーふーして、あーん……いっぱい、ふーふー……」
「ユーくん?」
――様子がおかしい。
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