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8 静かなる番犬
2 あのときは違うの!
しおりを挟む「ギンガくんさぁ……」
「なんだ」
「そんなにボクがいいの?」
もとはと言えば、火照ったボクが脚の間にご招待しちゃったのが悪いのだけど、彼ほどの容姿なら、いくらでも他に相手がいるだろうに。
「言ったであろう。初対面であれほど濃密に迫ってきた人間はお前が初めてだったと。あの瞬間、お前は私に運命を感じたのではないのか?」
「……違うよ。あのときは……媚薬が……」
正直に白状した。あのとき、部屋に媚薬飴があったこと。ボクはそれを食べ、彼も知らないうちに食べてしまったこと。
だから、あのやりとりは性欲処理の行為でしかない。高ぶったのは愛じゃなくて性欲。媚薬の効果。
「――だからさ、あれは運命なんかじゃないよ」
ガッカリさせてしまうかと思ったけど、
「ハハハッ!」
彼はまったく動じなかった。
耳がビリビリするくらいに豪快に笑う。
「構わん」
きっぱりと断言。
「私は心からお前を気に入っている。この気持ちに嘘は無い。お前だって私に惚れているのだろう?」
「う……」
――まあ、“嫌いじゃない”程度には。
「運命というのは知らず知らずのうちに巻きこまれ、気づいたときには逃れられぬものよ」
「うーん。でもなあ。キミは少し、完璧すぎて……運命にしては……ちょっとなぁ……」
「なに?」
「ボクは物足りないくらいが好きなんだ」
ユーくんやダイくんみたいに、何かしら欠点があったほうが可愛くって好き。人生に迷ったり、苦労したりで、頭を抱えている姿が好き。見ていて応援したくなる子が好き。
ギンガくんは何をやっても完璧そうで、別にボクなんて居なくてもいいやってなっちゃう。
「ハハッ! くだらん」
「え?」
「このギンガは、欠点が無いことが欠点である。これ以上、大きな欠落を抱える人間は他にいるまい!」
絶句した。
自分自身を堂々かつ自慢げに讃えるその姿は、見事を通り越して、残念。
ボクが今まで出会ったどんな人よりも残念。うぬぼれている。
「お前はやはり、私の運命である!」
どういう育てられ方をしたら、そういう思考になるんだろう。
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