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4.クロスするふたり

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 食事をする鶴見のハシの持ち方は最低最悪だった。
 本来ならば絶対に交わらないはずの上下のハシが彼の手の中でバッテンになっている。
 俗にいう、クロス箸。ダメな持ち方の典型だ。

 案の定、ハシの先にうまく力が入らないらしい。
 スープのなかをぷかぷかと漂うギョーザを捕まえようとしては逃す。
 かれこれ5、6回滑っている。
 やっと挟んで持ち上げたと思っても、口に入る前に逃げられてギョーザはお椀に逆戻り。
 鶴見のシャツめがけて凛──いや、汁が飛んで汚い。


「凛くんってホントにお料理じょうずだね」

 挙句、フォークみたいに突き刺して食いだした。刺し箸。これもマナー違反の一つ。

「おべんとうも毎日自分で作ってるんだもんねぇ。メニューもその日によってちがうし、すごいなぁ」

 俺の弁当の中身までのぞいてるのかコイツ──。
 恐怖のあまり、ごくっ、と喉が鳴った。


 それにしても、漢字といい、ハシといい、どうして鶴見はダメダメなんだ。
 親の教育がてんでなってない。あまりにもバカ過ぎて見放されたのだろうか。
 もし、そうなのなら、代わりに誰かがコイツを育ててやる必要が──。

 ──いや、俺は一体なにを考えているんだ。
 こんなやつ、どうだっていいのに。

 あらぬ衝動を胸のうちで必死におさえながら、無表情かつ無返事でスープをすする。

「ああっ……、凛くんの手料理食べてるなんて夢みたいだなぁ。ぼくもしかしたら夢を見てるのかも……だったらこのまま覚めないといいなぁ……ふふふっ……」

 俺としてもこれは夢であってほしい。
 いつも学校で会う鶴見が、我が家という日常に溶けこんでいる違和感で頭が混乱していた。
 胸のなかで渦巻いている“コイツをまっとうな人間に育て直したい”という衝動もどうかなにかの間違いであってほしいぐらいだ。

「ところで凛くん、ぼくたちいま二人っきりだね。……んふふふ……」

 
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