お前が脱がせてくれるまで

雨宮くもり

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9.ふたり/ひとり

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 ◆ ◆ ◆


 夢を、見ていたらしい。
 誰もいない冷たいベッドで目を覚ます。

 見慣れない部屋に、一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。
 頭が混乱している。
 数秒のあと、ここがホテルの一室だと思い出した。

「──ッ!」

 慌てて身を起こそうとした途端、ズキン、と腰が痛んだ。骨になにかが突き刺さったかのような痛みに、再びシーツへとなだれ込む。
 身体の奥底が腫れているような熱い痛みがある。脂汗がにじんだ。自分で自分の体をさすりながら、細く息を吐く。少しでも動かそうとすると、全身が軋む。

 それでももう一度起き上がろうとシーツに手をついたとき、乾いた感触がした。
 白いメモ用紙が枕元に置かれている。


 ──『火曜の夜、またいらっしゃい』


 初めて見るケティの字は、線が角張っていて、文字の一つ一つに鋭い棘が生えているようだった。
 身体の奥底で、ヒクン、と何かが疼く。
 

「くそっ……」

 いつまでもこんなところで寝ているわけにはいかない。

 ベッドから転げ落ちるように這い出し、床に手をついたとき、喉の奥から胃液がこみ上げてきた。口の中で苦味と酸味が混じり合う。
 その味が引き金となって、猛烈な吐き気が込み上げてきた。体の痛みを引きずり、えづきをおさえながら、必死にトイレへ這った。

「がはっ、ごっ……!」

 だが、いくら咳き込んでも、出てくるのは唾液と胃液だけだった。生理的反射で生まれた涙が、鼻の横を次々につたっていく。
 吐きたくない。

 胃は空っぽのはずだ。
 それなのに身体はまだ何か吐き出そうとしている。
 まるで内側から腹を蹴られているかのように。


 しばらくは服を着ることもできず、床にへたりこみ、逆らうことのできぬ嘔吐感に耐えるしかなかった。
 嗚咽をあげる度、胃が引きつるように痛み、だらだらと唾液が流れ落ちていく。

「はっ……ぐ、……っ……」

 頭の中では、昨夜のことを繰り返し思い出していた。

 
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