お前が脱がせてくれるまで

雨宮くもり

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9.ふたり/ひとり

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 覚えていたくなんてないのに。
 なにもかも消し去ってしまいたいのに。
 嘘だと思いたいのに。
 なのに、体にはまだあの激しさが生々しく残っている。
 
 手首を縛られた傷。
 強く掴まれたときの爪痕。
 散りばめられた小さな赤アザ。
 後ろを犯された余韻。
 何度も果ててしまった罪悪感。

 それから、


 ──「……ひ、びきっ……」


 心の中の彼を汚してしまった痛み。


「くっ」

 死にたい、という思いが淡く頭をよぎった。

 慌ててその考えを打ち消す。こんな俺でも突然いなくなったら、響はきっとひどく悲しむ。その心が暗く沈み込むことだろう。

 泣かせたくない。
 俺の身勝手な衝動で、あの光を濁らせたくない。


「──っぐ、ぅう、っ!」

 口元と頬の涙を乱暴に拭い、壁に手をつきながら立ち上がった。
 再び胃液が込み上げたが、押し戻した。全身がミシミシと痛んだってどうでもよかった。

 
 
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