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9.ふたり/ひとり
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高校へと続く長い階段の前でふたりは立ち止まった。
「ここまでで大丈夫です。帰るときまたメールします。今日は部活があるから遅くなると思いますけど……」
「うん。待ってるね」
うなずいた響が「ばいばい」と手を振りかけたとき、階段をのぼりかけていた塩田まほは何を思ったか振り向き、彼のほうに引き返してきた。
「ん? どーしたの?」
気づかう響の優しい言葉には耳をかさず、彼女は微笑んだまま響の肩に手を置いた。まるでバレリーナのようにつま先立ちになり、響の耳元でなにかつぶやいた。
その声が俺の耳に届くことはなかった。
きっと、恋人というトクベツな関係を持ったふたりだけの秘密──。
彼女はその言葉にふたをするように響の唇に自らの唇を重ねた。
先端がほんのすこしだけ触れ合うだけのキス。
そんなものを目にするつもりはなかったのに。
都合のいい後悔が俺の視界をちりちりと焦がしていく。眼球から剥がれていきそうな火の粉を振り払うようにまばたきすれば、今度は罰のように呼吸がうまくできなくなる。体のあちこちに穴が空いているかのよう。
吸っても吸っても肺に空気が巡らない。
ほら、傷ついた。
自業自得だ。
階段を登りきった彼女を見送った響は、肩でため息をついたようだった。くるりと回れ右をする。
そのとき、響は笑顔だった。恋人とキスを交わした喜びにひたる優しい彼氏そのもの──。
だが、一歩踏み出した途端、その幸福そうなに膨らんでいた頬からはフッと力が抜け、笑みのような憂いのような曖昧な表情へと変わる。
あのときと同じだ。
──「彼女はまだ前の恋人のことが大好きみたいで」
──「……どうにか忘れたくって、ボクを選んだんじゃないかな」
打ち明けてくれたときと、同じ表情。
今すぐ彼の前へ飛び出したかった。
だが、飛び出す寸前で思いとどまる。壊れかけの理性が俺の行く手を遮った。
──よく考えろ。これは立派な尾行だ。
大学とも家とも違うこんな場所に俺なんかがいるはずがない。どう考えてもここで会うのは不自然だ。せめて駅まで戻れ。それから偶然をよそおうことにしよう。
その決断に大人しく従おうとしたときだった。
ポケットの中のスマホが細かく震え始めた。数秒遅れて着信音が鳴りだす。
響は携帯電話を耳に当てていた。
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