47 / 174
9.ふたり/ひとり
5/9
「――あれ?」
近くで聞こえる電子音に気づいたらしい。キョロキョロと辺りを見回し始める。
「たっくんだ!」
俺を見つけるのに、そう時間はかからなかった。
嬉しそうに歩み寄ってくる姿に、俺は思わず、後ずさる。
「なんでここにいるの!?」
今日ほど彼を見て悲しくなったことはない。
「なんか顔色悪いね」
触れ合ったばかりの唇が濡れているのを至近距離で目にし、圧倒的な現実に打ちのめされたような気になる。逃げたかった。
「分かった。二日酔いでしょ?」
体が動かなかった。
「ダメだよ。試験余裕だからって気ぃ抜いてちゃあ」
笑顔の彼がどんどん近づいてくる。
「いくらたっくんでも油断してると絶対痛い目見るんだからね!」
気がつくと、その唇の動きばかり凝視していた。
明るい笑みをたたえながら、ハキハキとよく動く口。
――俺も、触れたい。
つややかで、やわらかそうなそこに、触れてみたい。やさしく重ね合わせ、気の済むまでずっとむさぼりたい。
そうしたら昨晩のことなんて忘れてしまえる──。
「……ひ、びき」
「ん?」
俺はそっと彼の左肩を掴んだ。身をかがめ、顔を寄せていく。
「あ」
あともう少しで届くというところで、その口がパカリと丸く開いた。
「今日のたっくん、なんか、いい匂いがする」
その言葉が胸に深く突き刺さった。
再び呼吸が詰まり、肺が締め付けられるような痛みで我へと返る。
――俺は一体、何をしているのだ。
今になって心臓の鼓動が強く激しくなる。欲望に突き動かされ、取り返しのつかぬ過ちを犯す寸前だった。
慌てて手を離し、身を引こうとした――そのとき急に目の前が、ふっ、と白くかすんだ。
「――たっくんッ!」
次の瞬間、俺の体は響の腕の中にあった。
「ねぇ、大丈夫!? ねぇったら!」
自分では何が起きたのか分からなかった。一瞬のうちに頭から血の気が引いて、意識まで遠のいたような――そんな気がした。
力が抜けかけた俺の身体を、彼はしっかりと支えてくれている。
近くで聞こえる電子音に気づいたらしい。キョロキョロと辺りを見回し始める。
「たっくんだ!」
俺を見つけるのに、そう時間はかからなかった。
嬉しそうに歩み寄ってくる姿に、俺は思わず、後ずさる。
「なんでここにいるの!?」
今日ほど彼を見て悲しくなったことはない。
「なんか顔色悪いね」
触れ合ったばかりの唇が濡れているのを至近距離で目にし、圧倒的な現実に打ちのめされたような気になる。逃げたかった。
「分かった。二日酔いでしょ?」
体が動かなかった。
「ダメだよ。試験余裕だからって気ぃ抜いてちゃあ」
笑顔の彼がどんどん近づいてくる。
「いくらたっくんでも油断してると絶対痛い目見るんだからね!」
気がつくと、その唇の動きばかり凝視していた。
明るい笑みをたたえながら、ハキハキとよく動く口。
――俺も、触れたい。
つややかで、やわらかそうなそこに、触れてみたい。やさしく重ね合わせ、気の済むまでずっとむさぼりたい。
そうしたら昨晩のことなんて忘れてしまえる──。
「……ひ、びき」
「ん?」
俺はそっと彼の左肩を掴んだ。身をかがめ、顔を寄せていく。
「あ」
あともう少しで届くというところで、その口がパカリと丸く開いた。
「今日のたっくん、なんか、いい匂いがする」
その言葉が胸に深く突き刺さった。
再び呼吸が詰まり、肺が締め付けられるような痛みで我へと返る。
――俺は一体、何をしているのだ。
今になって心臓の鼓動が強く激しくなる。欲望に突き動かされ、取り返しのつかぬ過ちを犯す寸前だった。
慌てて手を離し、身を引こうとした――そのとき急に目の前が、ふっ、と白くかすんだ。
「――たっくんッ!」
次の瞬間、俺の体は響の腕の中にあった。
「ねぇ、大丈夫!? ねぇったら!」
自分では何が起きたのか分からなかった。一瞬のうちに頭から血の気が引いて、意識まで遠のいたような――そんな気がした。
力が抜けかけた俺の身体を、彼はしっかりと支えてくれている。
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。